服薬規定などは厳しい 医師やCRCとの連係が大切
通院スケジュールや規則は相談の上調整
通院スケジュールについて宋さんは「標準治療とは比べものにならないくらいタイトで厳しい」と話す。例えば、2週間に1回の通院が必要とされた場合、通院指定日がまず設定され、都合が悪くても前後1日、あるいは3日以内に来院しなければならない。服薬時間についても「食事の前後2時間は避けて内服」といった規定があったりする。きちんと守るのが大原則だ。
「仕事で大事な出張がある、予定していた海外旅行が……という方々も当然いますが、それらの長期的なスケジュールを見越した上で治験に参加していただくようお願いしています。開始時期をずらすことで両立することもあります。服薬時間についても、決められた時間が朝の定例会議にかかってしまって困るという方がいましたので、起床時に服用し朝食時間をずらすことで納得の上、解決しました」
企業治験は企業側の費用負担がある
未承認薬を使う場合は保険診療が使えないため、本来ならとても大きな金額がかかる。しかし、治験を行っている製薬企業がこれを一部負担するので、患者の負担分は軽減される。まず、開発中の治験薬と、第Ⅲ(III)相試験で対照群に割り付けられた場合の標準治療の費用も製薬企業の負担となる。そのほかにプロトコールで規定された採血や画像診断(CT、レントゲン等)の費用が含まれる。
その他に「協力費」として、1回の通院ごとに7,000~1万円が被験者に支払われる。これは頻回な来院のための交通費等の負担を軽減するためのものだ。
「定期的な通院はもちろんですが、具合が悪くなったときに『近所のかかりつけ医に診てもらってください』というわけにはいかないので、予定外でも来院してもらうことになります。そのような場合の負担を軽減するための費用でもあります」
治験中に守ること
治療や検査のスケジュールを守ることは前にも記したが、ほかにも治験中に注意して守らなければならないことがある。
他の疾患で服用している薬や、市販薬、漢方薬、さらに健康食品も含めて注意が求められる。全てがいけないというわけではなく、医師や看護師、CRCとの相談が必要となる。食べ物についても同じで、薬はある成分と一緒に摂ることによって、効果を弱めたり、代謝や排泄を遅らせてしまうために副作用が強まったりする場合があるため、治験中は制限されることがある。
そして、大切なのが、体調の変化やそれまでとは違う症状が出たときの対応だ。早めに治験を行っている医療機関に連絡することが必要となる。
治験継続中に、被験者の助けになるのが日誌だ。治験によっては製薬企業の専用のものを用いるが、自分のノートやメモ帳で構わないので、服薬状況、体調、調子が悪い場合の対処などを書き込んでいく。
宋さんは「治験データとしてもとても貴重なことに加え、自立した療養生活のためにも、自身の薬や体調を管理できるツールとなります。繰り返し同じような不調が出たときの対処や予防行動がとれるという意味でもご自身の日誌をつけることは有用」と話している。
CRCとの密接な連絡
CRCは治験被験者が来院するたびに面談を行う。2週間ぶりなら、その間の生活や服薬状況、体調の変化などを丁寧に聞く。
宋さんは、「新薬の治験となると、我々医療者側も持ち得る情報は限られるため、予期せぬ副作用があった場合などは、依頼者である製薬企業と連絡を取り、国内の他施設の情報や、すでに承認されている海外での対処法、支持療法の情報を入手して対応します」
とくに、調子が悪いときにはまず電話をして欲しいという。電話を躊躇なくもらえる関係というのが、早期発見早期対処のためにとても大事だとしている。
「担当者がいなくても、電話を受けた者が応急的な対応をした後、改めて担当から連絡して詳しい事情を聞いたり、来院を促したりすることになります」
自分が参加した治験どうなった?
治験を終えると、被験者たちは普通の患者さんに戻る。自分が参加した治験がどうなったかが気になる人もいる。
「患者さんとの会話がそちらの話題に行ったときには、『あなたのご協力のおかげで、無事に承認されましたよ』と話します。治験参加中の被験者にも試験全体の動きは可能な範囲で伝えます。患者さんは自分の治療に役立てたいのはもちろんですが、新薬の承認に役立てたとなるとまた思い入れが異なるようです。社会貢献という感覚が加わるからです」
治験は、患者自身にとって新しい治療への挑戦であると同時に、社会的には後世の患者さんのための治療法の開発として行われる。
そのような社会的な役割があることを認識することも、厳しいプロトコールに対応し、頑張れる大きな力になるようだ。
治験コーディネーターの役割❷
人生や人生観の転機になるかも
あるとき、1人の初老の男性が治験参加のために入院していました。会社では重役ということで初めのうちは我々との関係作りにも壁を作っていたのですが、次第に話をするようになりました。
男性は、「私は仕事一筋で妻にも家族にもずっと迷惑をかけてきた。そしてまたがん治療という迷惑をかけている。本当に申し訳ないと思う」と落ち込んでいました。
しかし、治験に参加してから少しずつ表情が変わりました。「私でもまだ社会に役に立つことができるのだ」と明るく話すようになりました。
治験は「怖い」というイメージがあるかもしれません。しかし、治験はきっかけで、それによってプラスアルファが得られるということもあるかもしれません。
ある若い女性が治験に参加しました。当時の所見では、1年後の息子さんの小学校の入学式には出られないだろうという状況でした。しかし、治験が始まると治験薬が効いて、息子さんの入学式に出ることができたのです。
治験に参加することで、人生や人生観を変えることもあります。患者さんも必死、家族も必死、私たちも真剣に支援しています。人生の転機となるイベントに携われる仕事の重要性を感じています。