ヨガが、がん患者の副作用軽減に効果あり
ヨガによる有害事象
一方、ヨガによる有害事象はないのだろうか。岡さんたちが行った、ヨガの安全性と有用性について我が国で調べた大規模な調査結果がある。
ヨガ教室受講者2,508人に対するアンケート調査によると、筋肉痛、関節痛、筋肉がつる、ふらつくなど、何らかの有害事象が出ていたのは、全体の27.8%。重症度に関して調べてみると、実習に差し支えない(軽症)ものは、全体の63.8%だった。
一方、ふくらはぎがつったなど、即刻中止せざるをえなかったものは、全体の1.9%と、頻度はそれほど多くなかった(図2)。

海外でも同様の研究報告がなされており、「これまでの研究では大半が乳がん患者さんですが、こうした患者さんがヨガを行っても有害事象の頻度は低く、軽微であると考えられます」とした。
ただし、注意も必要だ。岡さんは言う。「私が講演などで必ず医療従事者から質問を受けるのが、がん患者さんで骨転移の可能性のある人についてのヨガの危険性です。骨転移している人が、そうとは知らずヨガを行うことで、病的骨折をしてしまう危険性はありますので、必ず主治医と相談してから行うようにするべきです」
ヨガを習う際の注意点
では、実際にがん患者がヨガを始めようと思った場合、気をつけるべきことはあるか。ヨガによる思わぬ有害事象を起こさないためにも、前述したように、まずは主治医に相談することが大切だ。厚生労働省研究班として、岡さんたちがまとめた*『ストレス関連疾患に対するヨーガ利用ガイド 患者用』には、ヨガを習い始める際の注意点が詳しく記されている(図3)。

このガイドは、ストレス関連疾患の人を対象にまとめられたものだが、がん患者にも当てはまる部分が多いので、ぜひ参考にしたい。
また「できれば、医師とヨガ指導者が連携し、相互に患者さんの情報を申し送りし合うような関係のもとでヨガを行うべきです。少なくとも、どういう病気で、血圧はいくつか、痛みがある場合どこの部位か、めまい、ふらつきはあるかなど、前もってヨガ指導者に知らせることで、ポーズを限定するなど、ヨガ指導者も注意して指導に当たることができます。何かあった場合、大変な思いをするのは患者さん自身ですから」と岡さん。ガイドには、「主治医からヨガ指導者への申し送り(例)」も紹介されているので、活用するとよいだろう(図4)。


では、信頼できるヨガ教室を患者はどうやって探せばいいのだろうか。がん患者のヨガ指導の経験があったり、自身もがんを克服した経験があるようなヨガ指導者のもとで、指導を受けるのが最も理想的だと岡さんは話す。
ヨガのプログラムも健康な若い人が行うような難しいポーズを要求されるようなものではなく、穏やかなポーズを取り入れたものが良いだろう。
また、ヨガを習うに当たっては、自分自身の体調に従い、無理をしないことが大切だ(図5)。
岡さんたちの研究から、ヨガを練習したときに起きる有害事象の発生率は、その日の体調(とくに精神的なきつさ)が影響することがわかっている。決して頑張り過ぎず、自分自身心地よいペースとポーズで行うことが大切だ。
「患者さんにはヨガを行うことが目的とならないように、副作用なく活きいきとした生活を送っていただく、その手段の1つとしてヨガを活用してもらいたいですね」岡さんはそうアドバイスしている。
*『ストレス関連疾患に対するヨーガ利用ガイド 患者用』
岡さんのホームページにもヨガの情報について詳しく掲載されている
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