マインドフルネス・ヨガ:それでいいのだ! 第81回 3分間でボディスキャン<ボディスキャン:つま先から肩まで>(前編)

自分の体を〝体験〟する⁈
「自分の体をどう体験するのか」。そのあたらしい方法の1つがボディスキャンです。そもそも自分のからだを体験するとはどういうことでしょう。
一般的に、わたしたちは自分のからだを鏡に映して、目で確かめます。そのとき少しお腹をへこまし、背中を伸ばし、何より口角を持ち上げて、不機嫌そうな顔をマイルドに修正しています。
思いがけず自分のからだに直面すると、大抵の人は愕然とします。
「こんなにオバさん!」、「こんなに年寄りだったのか!」。いまさら驚くことに驚かされます。こうした自分と自分のからだとのやり取りが、自分のからだを体験することでしょうか。
当然のように、人のからだとはこうあるべきという〝社会的文化的な規範〟があります。人体についてのおびただしい情報が日々流され、その規範はつくられています。そうした規範と照らし合わせて、自分のからだをジャッジしているだけです。
人体と関係ない商品のコマーシャルにも〝素敵な体〟は用いられています。
AIと人間の最も大きな差は、無生物か生身の身体を持っているかです。望ましい身体の映像を作ることはAIにできます。映像上の表現なら、本物そっくりの声を出してしゃべり、本物そっくりな表情や振る舞いも可能だそうです。
だからこそ、今ここの自分のからだを体験することは、とっても素敵な体験になりえます。
ボディスキャンは感じるままを受け止める
「自分が乳がんとわかってから、怖くて怖くて、ちゃんと考えられません。主治医に任せきりというか、主治医ができるというので、切除術と乳房再建術を同時にやってもらうことにしました。自分の背中の肉で乳房を再建することにしたので、その手術も同時です。見た目があまり変わらなければ、自分が乳がんという事実に直面しなくてすむんじゃないかな」
手術前日の話でした。
自分にとって〝自分のからだがどう見えるか〟は重大事です。だからこそ、自分のからだが今この瞬間にどう感じているのか、感じているままに受け止めるボディスキャンは新鮮です。
痛みを痛みとしてそのまま受け止める
わたしたちはからだに痛みがあると、その部分に注意を向けます。痛みが強ければドッキンドッキンという拍動を感じます。そんなときでも、「原因は何か」「いつからか」「病院の予約を取らなくちゃ」とか、「それほどでもないかも」と、頭の中は次々と思考があふれてきます。
でも、ボディスキャンではその痛みを痛みとしてそのまま受け止める。どんな痛みなのか、呼吸とともに注意集中して、テイスティングしていきます。
痛みに飲み込まれるのではなく、痛みを無視するのとも違う。痛みを何とかしようともがくのではなく〝痛みを���イスティングしていく〟ただそれだけです。痛みと格闘しない、ただ感じているままに痛みを感じる。
不思議なことに、こうしたアプローチで痛みは幾分か穏やかになっていきます。
「とくに何も感じないんだけど」ということもあります。
〝とくに何も感じない〟というのもその瞬間の体験です。だからそのまま、「そうかそうなんだ」と受け止めていく。
そしてボディスキャンでは、注意集中の対象を移動させていきます。その前の部分で感じたことをいったん忘れて、次に今この瞬間に注意集中する部分をテイスティングします。
生物学者の福岡伸一さんは生命体の本質は、自己複製ではなくて絶え間のない流れで、絶えずバランスを取り直ししている。すなわち「動的平衡」にあると表現しています。
ゆったりとボディスキャンしていくプロセスで、部分は部分として切りとられたものではなく、呼吸を介して全体と繋がります。「動的平衡」にある自分のからだを、生きている命を、非常に素朴に体験します。
ボディスキャンのエクササイズは、短くても15~20分かかります。
その紹介には動画より音声がふさわしく、音声データに耳を傾けながら行うのが適当かも知れませんが、ここでは、動画で2回に分けて紹介します。
<ボディスキャン:つま先から肩まで>(前編)
①仰向けになって、両足は腰巾よりやや広めに開き、両腕はわきを緩めてマットに緩やかに伸ばし、頭の下には低めの座布団なりタオルを敷きます。つまり、ヨガ・セッションではなじみ深い「完全なくつろぎのポーズ」です。
ヨガ・セッションではとくに頭の下に何かを敷くことはしませんが、ボディスキャンのエクササイズでは時間をかけて(通常15~20分)行うので、猫背や背中が肉厚だと、仰向けになると顎が上がり、頸から後頭部にかけて収縮してしまいます。くつろぐことが目的ではないのですが、緊張を強いる要因は避けたい。そのためのクッションです
②両足のつま先から始めましょう。今ここでつま先に注意を向けて、その分がどう感じているのか、感じているがままに受け止めます。注意を集中させると、まるでその部分も呼吸をしているのを感じることでしょう
③かかと、足首、膝、脚のつけ根まで、ゆっくりとまるでスキャンしていくように注意集中を移動していきます。注意集中のスポットをゆっくり移動させるといってもいい
④骨盤も同様。骨盤の内側を下からゆっくりと注意集中していきます。何かひっかかりを感じる部分もあるかもしれません。そんなとき、「いつから?」「原因はなに?」などと考えてしまうのです。ボディスキャンでは、そこにとどまり、そこが感じていることを感じているままに受け止めます。「何も感じない」それもいまこの瞬間に体験していることです
⑤骨盤の上、胸郭の下(ウエスト部分)に移ります
⑥次に胸郭に覆われている部分に移ります
⑦左右の肩、肘、手首、両手に注意を順々に向け、テイスティングしていきます
がんサバイバーやそのご家族でヨガのご体験がありましたら、ぜひ体験記などをお寄せください。kokokara@center.email.ne.jp
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