前立腺全摘後の尿漏れは骨盤底筋体操やケアアイテムを活用
骨盤底筋体操で〝締める力〟を強化
1年後といわず1日でも早く尿失禁から解放されるために、具体的にどうしたらいいのだろうか。東京医科大学病院でのケアの具体例を見てみよう。
尿失禁の改善のため患者さんに勧め、やり方を指導しているのが「骨盤底筋体操」だ。骨盤底筋とは、その名の通り骨盤の底にあり、膀胱を下から支え、尿道や肛門を引き締める働きをしている筋肉のこと。1つの筋肉をいうのではなく、尾骨筋・肛門挙筋など複数の筋肉の総称だ。
前立腺の全摘に伴って尿道括約筋が損傷を受けても、骨盤底筋群は自分の意思で動かすことのできる横紋筋なので、鍛えれば筋肉がついて強くなる。そこで尿を我慢するための筋肉を鍛えて尿漏れを改善しようというのがこの体操だ。骨盤底筋には、常にある程度収縮していて持久力を支える遅筋と、腹圧や尿意に対して素早く収縮する速筋とがあり、体操で両方の筋肉を鍛える。
体操といってもやり方は簡単。排尿中に尿の出を切るとき、あるいは放屁(おなら)を我慢するときに使う筋肉に力を入れるだけ。立ったままでも、仰向けに寝たままでもでき、時間にしたら1回につき数秒から数分ですむ(表2)。
「男性でわかりやすいのは、『陰茎の付け根を中にキュッと持ち上げて引き込むような筋力ですよ』と伝えたりします。女性の場合だと膣を締める感じですね。術前に説明するときは、『トイレでオシッコをしているとき、ちょっと止めてみてそのときの感覚を覚えておいてください。そのとき働くのが骨盤底筋なので、術後に鍛えていくのはその筋肉ですよ』という話をします」


生活の中でタイミングをみて実行
骨盤底筋体操の評価は、女性の場合の評価を男性にも応用し、筋力の強さ、耐久力、反復力、速さの項目について測定し判定している。このうち、例えば筋力の強さは、肛門に指を差し入れてその強さで判定するが、0(まったく筋肉の動きが感じられない)から5(内診者の指が吸い込まれるような感じで締め付けられる)までの6段階で評価する(表3)。ただし、手術後しばらくは肛門に指を入れる判定ができないので、術後1カ月以上たってから行う。
個人差が大きいため、術後リハビリの基準値は��けていない。数字で基準を設けることはしていないという。例えば耐久力を調べて3秒間筋力の収縮ができたとしたら、「次は5秒を目指しましょう」と指導するし、5秒間収縮を続けられたら「次は8秒を目指しましょう」と、少しずつ筋力アップを図るという。
体操の回数も患者さんのペースで決める。
「患者さんの生活の中で、できるタイミングでやっていきましょうとお話ししています。例えば、立ってできる人なら歯磨きのときに体操すれば1日に3回はできるし、外を出歩く機会の多い人なら信号待ちのときにできます。筋トレなので、1日1回より3回、3回より5回と繰り返しやったほうがいいけれど、できる範囲でやるのが基本です」
薬剤で治す方法もある。よく使われるのは、膀胱の緊張を抑える働きがある抗コリン薬だが、必ずしも体操でうまくいかないから薬を試すというわけではなく、先に薬を投与するケースも多く、それでも改善しない場合、体操に力を入れることになる。
次々登場!男性用尿漏れパッド
骨盤底筋体操とともに役立つのが、いざというときの漏れを救ってくれる尿パッドや失禁パンツなどのケアアイテムだ。これまで女性用のアイテムはたくさんあっても男性用は少なかったのが、最近、次々と男性用薄型パッドの新製品が登場し、強い味方となっている(図4)。

保険適用にはならないが、確定申告のときに医療費控除が受けられる。その場合は医師が発行した「おむつ使用証明書」が必要だ。
尿漏れあっても人間の価値は下がらない
ほかに、陰茎にかぶせるタイプの装着型の収尿用具は以前からあったが、最近米国で発売された「メールユリンガード(Male Urine Guard)」は袋状のゴムバンドを陰茎の先端にかぶせて使うパッド型。外出の際やスポーツのときなどに便利という。
セルフケアを行う上で気持ちの問題も大事だと、帶刀さんは次のようにアドバイスしてくれた。
「たとえ尿漏れがあったとしても、それで人間としての価値が下がるわけではない、ということをぜひとも自覚してほしいです。そして、漏れなくなることが最終ゴールなので、50㏄漏れていたなら30㏄にと、小さいゴールをたくさんつくって、少しずつでも目標達成を実感しながらやっていくといい。そうするとやりやすいし、最終ゴールにも早くたどり着くと思います」
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