術後の社会復帰までをサポート 体への負担が少ない食道がん胸腔鏡・腹腔鏡下手術
高齢者には2回に分けて手術を行うこともある
食道がんの手術には、目標が2つあるという。1つは、がんを安全にそして確実に取り除くこと。もう1つは、患者さんが社会復帰することである。
「手術前にできていたことの8割以上できるようにならないと、社会復帰したとは言えません。高齢で持病を持っている患者さんでも、手術はできるし、退院することもできるのですが、そこからが大変なのです。退院後に体力が回復せず、社会復帰できないということも十分に考えられます。寝たきりになってしまうなら、痛い思いをして手術などしないほうがいいと言えるのではないでしょうか。そこで、高齢者でも社会復帰できる方法として、2期分割手術を行っています」
2期分割手術は、食道の切除手術と、胃による再建手術を分けて行う方法である。手順は次のようになる。
手術前に胃瘻を造設しておく。そして、1回目の手術では、胸腔鏡下手術で食道の切除だけを行う。手術後は、1カ月間ほど胃瘻から栄養をとり、体力の回復を図る。そして、体力が回復したところで2回目の手術を行い、胃で食道の再建を行うのである。
「1回目と2回目の手術の間は退院し、自宅で過ごすことができます。この2期分割手術をすでに60例ほど行ってきました。80歳以上の超高齢や多重合併症症例が対象ですが、それでも約8割の患者さんは自宅に帰っています。介護者がいるかという社会的背景もありますが、施設に入った人は約2割でした」
食道がんの手術は侵襲が大きいのが特徴である。しかし、80歳代の高齢者でも、手術を2回に分けることで、手術後の社会復帰が可能になっている。
術前化学療法で ダウンステージを目指す
食道がんがT1b(粘膜下層に留まるがん)で、リンパ節転移がなければ、標準治療は手術単独である。これよりも進行している場合には、手術前に抗がん薬治療を行う術前補助化学療法(ネオアジュバント療法)が加えられる。
「術前補助化学療法の目的はダウンステージングです。抗がん薬治療でがんのステージが下がれば、それに応じて予後もよくなります」
標準治療とされているのは、「*シスプラチン+*5-FU療法(CF療法)」という2剤併用療法である。しかし現在、最良の術前補助化学療法を探すため、3種類の治療を比較する臨床試験が進められている。
1つは標準治療の「シスプラチン+5-FU療法」で、あとの2つは、「*タキソテール+シスプラチン+5-FU療法(DCF療法)」と「シスプラチン+5-FU+放射線療法(CF-RT療法)」である。
現段階では結果が出ていないが、いずれ3剤併用療法や化学放射線療法が標準治療となる可能性もある。治療期間は、CF療法が約1カ月半、DCF療法とCF-RT療法は約2カ月である。
*シスプラチン=商品名ブリプラチン/ランダほか *5-FU=一般名フルオロウラシル *タキソテール=一般名ドセタキセル
「食道がん患者教室」を開き 退院後の社会復帰をサポート
食道がんの手術は侵襲が大きいため、手術後の回復をサポートすることも重要になっている。
「食道がんの手術を受けた患者さんの入院日数の中央値は、当院では15日程度です。この入院中、患者さんの多くは、プログラムに沿って順調に回復していきます。ほとんどの人が退院していきますが、そのまま社会復帰できるわけではありません。かつては自宅に帰ってからの回復が思わしくなく、社会復帰に支障を来すこともありました」
そこで、現在では、外科医、看護師、薬剤師、管理栄養士、理学療法士、言語聴覚士、歯科医、精神科医、ソーシャルワーカーなどによるチームを作り、手術の前から、退院後の社会復帰に向けた支援を行っているという。
また、看護師外来、薬剤師外来なども設け、退院後の患者さんの相談にも応じられるようにしている。
「患者さんは、入院中にできなかったことは、退院してからもできないことが多いのです。例えば、入院中に常食しか食べず、全がゆで退院した患者さんは、何も言われなければ、退院後もずっと全がゆを食べ続けます。退院後に食事をどうすればいいのか、生活をどうすればいいのか、といった情報提供が必要なのです」

そこで同院では、食道がんの手術を受けた術後1カ月までの患者さんを対象に、「食道がん患者教室」開いている(写真4)。
「食道外科の医師の他、看護師、理学療法士、言語聴覚士、管理栄養士、ソーシャルワーカーなどが、手術後の生活の仕方、食事のポイント、リハビリの方法といった話をします。1時間~1時間半の予定ですが、質問が多いと2時間くらいになることもあります」
なるべく侵襲の少ない手術を行い、退院後の生活を見据えた支援を行う。それによって、手術を受けた患者さんの多くは、順調に社会復帰しているという。
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