がんになっても快適に暮らすヒント Vol.3 ついに〝アピアランス(外見)ケアの手引き〟発刊!

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2016年10月
更新:2016年9月


様々なアピアランスケアの「推奨度」を
多分野の専門家による議論のもとに決定

山崎 この手引きは、治療編と日常整容編の2つから構成されていて、シャンプーやウィッグ、メイクなどは日常整容編に記載され、治療編ではがん治療で起こる外的な副作用に対してどういった医学的なケアが望ましいか書かれています。執筆者も診療科を超えた医師や薬剤師など多岐にわたりますね。

野澤 がん治療は診療科によって診る視点がまったく違いますし、そもそも、治療の副作用を研究している専門家というのがいないのです。発毛の専門家はいても、化学療法による脱毛を研究している人はいませんし、肌や爪への副作用を専門に研究している人はいませんから、治療編でもCQ(クリニカルクエスチョン)の推奨基準A~Dを決定するにあたって明確な答えをすぐに出すことは困難です。そこで多分野の医療の専門家が絡んで臨床経験などをもとに議論する必要がありました。

日常整容編も同じです。患者さんは薬だけでなく化粧品を使いますから、香粧品の専門家たちも加わらなければ話になりません。そこで、いろいろな専門分野で活躍されている医師や研究者の方、またアピアランスは患者さんの日常感覚がとても大切ですから、早くから患者さんにも参加していただきました。

山崎 私も患者としてCQの評決に加わらせていただきました。この手引きは、患者さんの外見的な悩みを緩和、解決するヒントを与えて、患者さんが戻りたい社会へ戻るためのものですから、患者目線や一般の感覚は不可欠だと思いました。

野澤 それはとても大切です。診療科を超え、医療と香粧品の専門家が一堂に揃う学会はありませんから、今回は「手引き」としましたが、CQの形式など、ガイドラインのつくりに則っています。エビデンスが少ないなかで、今わかっている範囲の臨床からベストな方法を記していますが、これからエビデンスが出てくればどんどん改訂版を出していく予定です。もちろん強制力はもちませんが、困ったときに安心して活用できることを目指しています。また、来年あたりにもっと具体的に患者さんへ指導ができる本の出版も計画中です。

メディア向け報告会(2016年7月27日)。アピアランス支援チームのメンバーである野澤桂子さん(左写真左)、清水千佳子さん(中央病院乳腺・腫瘍内科外来医長・左写真右)、山崎直也さん(中央病院皮膚科医長・右写真)が、活動報告と手引き��詳細を発表した

若いがん患者さんの気持ちに沿った
アピアランスの冊子が完成

山崎 それは楽しみです。さて、手引きと同じ時期に『20』(twenty)という小冊子も全面監修されていますね。ターゲットは10代後半から20代前半の若いがん患者さん。彼らの本音と生活に根差したハウツーが盛り込まれた読み物ですが、おしゃれで、ハッとさせられ、50代の私にも共感できることがたくさん書かれてあります。

『20』(twenty)。おしゃれ大好きな若者の本音と工夫が誌面から伝わる。無料の冊子ですが、一般配布、個人の申し込みの対応はしていません。入手したい場合は、かかりつけの病院経由で大鵬薬品に取り寄せてもらってください

野澤 同じがん患者さんでも、若い世代は悩むことが違いアピアランスの問題をひとくくりには扱えません。20歳前後は人生の中でも「公的自己意識」、つまり外から見た自分に対する意識が最も強い年代で、彼らの悩みや気持ちにスポンとはまる読み物がなかったので、新しい冊子作りのお話があり、提案させていただきました。実はこの冊子は、10代の女の子の患者さんとの「若い子向けのアピアランス・プログラム」を作ろうね、という約束を形にしたものです。彼女は亡くなってしまいましたが、若い世代の研究やデータを集め、構想から7年。ようやく約束を果たせました。

これまでかかわったたくさんの方の温かい気持ちを若い患者さんに届けたいという一心で作りました。

山崎 冊子から「1人じゃないよ」とうい温かい気持ちが伝わってきます。プレゼントしたり、医療者にも読んでもらいたいと思いました。

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