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がんになっても快適に暮らすヒント Vol.9 スピリチュアルケアからの「傾聴」
死を意識して不安で寂しい人が 「その人らしくいられる場」を提供してほしい
山崎 言ってみれば魂の交流をするわけですから、マニュアルはないのですね。苦しみをわかってくれる人は、自分にとって安全な人で味方です。孤独感が増すなかで味方が1人いるのといないのとでは、心の安定感がまったく違いますね。伊藤さんご自身も傾聴を実践で学んだ経験があるそうですね。
伊藤 若いころに「いのちの電話」の相談員を経験して、寄り添うことの意味をたくさん学びました。例えば、死にたいという電話をかけてきた人は、「死んではいけない」と言われるよりは、「死にたいんだね」と聴いてもらえると、わかってくれたと感じることが多いようです。「死んではいけない」「死んでほしくない」という聴き手の側の思いからのメッセージよりも、「死にたいと思っていることが、どれほどつらいのだろう」と、語り手の状況全体に関心を向けた聴き方をすると、寄り添ってもらえた感覚が得られるのです。
山崎 家族や、ピアサポートで患者さんの悩みを聴く機会がある人にも参考になりますね。このほかに、プロではない私たちが、大変な状況で苦しんでおられる方に接するときに心がけることはありますか?
伊藤 いまこの一瞬一瞬を、最善を尽くして、その方や自分が幸せになるよう寄り添う。それに尽きると思います。その方のために何かを犠牲にすることは、実はあまりやるべきではなくて、病気であろうがなかろうがその人との対等な愛情を育むことを大切にする。そして、時には、さも病気ではないかのような、その人が本来のその人らしくいられる場を提供する。これが家族やサポートする人にできることでしょうか。
山崎 死を意識することはものすごく不安で寂しいことですし、あくまで私の想像ですが、人生のいろいろな場面を振り返り、後悔や喜びや、いろいろ整理できない感情を抱え込むのではないのでしょうか。それをゆっくり聴いてくれ、整理に付き合ってもらえたら、とても安心できるのではないかと思います。
「傾聴」を担うチャプレンや臨床傾聴士の 各がん診療連携拠点病院への配置を目指す
山崎 ところで傾聴を担う専門職は、どの病院にもいるわけではないと思います。
伊藤 病院では「チャプレン」がその役割を担う場合がありますが、病院に必ずチャプレンがいるわけではありません。
山崎 チャプレンは神父さんや牧師さんのイメージがありますが。
伊藤 チャプレンは、教会や寺院といった宗教施設ではなく、病院や学校といった公共性のある施設で働く聖職者のことです。キリスト教、仏教やその他の宗教の方もいますが、ヒューマニストチャプレンといって���宗教をもたない人もいます。宗教を伝えることが目的ではなく、公共的な場でケアをする宗教者です。「臨床傾聴士」の場合には、信仰のあるなしは関係ありません。
将来的には、がん診療連携拠点病院にはチャプレンや臨床傾聴士が必ずいるよう、人材育成をして働きかけたいと考えています。
山崎 とても大切な存在だと思います。私は傾聴のプロではありませんが、ピアサポートのなかでの今後の「傾聴」にも参考になりました。
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