がんになっても快適に暮らすヒント Vol.11 美と癒しを支えるソシオエステティックをご存じですか?

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年6月
更新:2017年6月


フェイシャルマッサージやネイルで 患者さんの表情もおだやかに安眠できるなどのよい変化が

山崎 ところでそもそもですが、日本では理容師や美容師は国家資格で、どんな技術を持つ資格かが明確ですが、エステティシャンは国家資格ではなく()、どういう技術を有する人を指しているのか知らない方が多いのでは。私のイメージは、生理学を学んでフェイシャルやボディへのマッサージなどの施術ができる人かな。

光江 そうなのです。日本エステティック協会では、マッサージやスキンケア、メイクアップ、ネイルなど、幅広い美容テクニックや理論を修得した方をエステティシャンに認定していますが、一般の方のなかには、痩身や脱毛をする人がエステティシャンだと思っている方も少なくありません。すると、高齢者や病気の方には必要がないのではと思われてしまいます。ソシオエステティシャンが日本で理解されづらいのは、エステティシャンという職業の認識自体があいまいということもあると実感しています。

山崎 日本でソシオエステの最大手となる、コデス ジャポンの認定者は、医療や福祉の知識など幅広い教育を受けているようですが、そこが知られていないのは残念。現場では、どのような施術を行うのですか?

光江 例えば緩和ケア病棟で足のむくみケアとしてひざ下をマッサージしたり、術後の方にフェイシャルマッサージでさっぱりしていただいたり、眠れないという方にハンドマッサージをしたり、介護施設でお化粧やネイルケアをしたり……。病院や施設の方と相談しながら、その方の状況に応じて、心地よく楽しくなっていただける施術を考えます。また、どのような感想や変化があったかは施設にフィードバックして、より良い美容ケアにつなげるようにしています。

山崎 みなさんとても喜ばれるのでは。

光江 その場でも表情が穏やかになられたり、笑顔になられますが、ぐっすり眠れたり、気持ちが安定したなど、その後もさまざまな変化があったと病院や施設の方から聞いています。

フランスにおけるソシオエステティシャン:フランス総理府が作ったRNCP( Répertoire Nationale des Certification Professionnelles=国の職業レパートリー認定)というものがあり、例えばソシオエステティシャンは1690と言う番号で分類されています。CODESは国から認定されたプライベートアソシエーションで、唯一、独自に(=CODES)、RNCPのソシオエステティシャンのタイトルを授与すことをフランス厚生労働省から認められています。

美容のケアを届けたいボランティアが活動しやすいよう 2011年にNPOを設立

山崎 私はエステティシャンでもメイクアップアーティストでもありませんが、脱毛経験と美容知識から、個人的にがん患者さんの外見サポートを続けてきましたが、コデスのソシオエステティシャンになるには、まずエ���テティシャンにならなければならない。私にはハードルが高いです。

光江 そうですね。ただソシオエステティシャンでなくても、山崎さんが患者さんのケアをされているように、ネイリストやメイクアップアーティスト、介護職の方でも、同じような目的で美容のケアをされている方はたくさんいらっしゃいます。そういった方たちと何かできないかと思い、2009年にコデス ジャポンの認定をとったあと、2010年にNPOを立ち上げました。

山崎 そうなんですってね。なぜ両輪で活動しようと思われたのですか?

光江 1つには、コデスもソシオエステも世間でまったく認知されていないなか、1人で施設や病院を開拓するよりも、NPOという形で話を通したほうが理解されやすかったからです。NPOですから助成金も申請でき、その資金で東北の被災地への支援も、立ち上げた翌年の2011年からずっと続けることができています。社会に貢献するという意味では、何か起きたときにパッとチームを組んで行くというのは、NPOのほうが小回りが利くんです。

山崎 確かに大きい組織ではできないことができますね。でもNPOにも、美容ケアを提供する質の担保は必要ですよね。

光江 はい。NPOは活動範囲を限定していますが、有償でも無償でも、病院や施設で注意しなければいけないことがたくさんありますから現場に出る前に講座を受講していただきます。NPOで一番大事にしていることはなぜ美容ケアを提供したいのか考えていただくこと。そのうえでその方のできる範囲のことで一緒に活動ができたらいいなと思っています。

ソシオエステティックをさらに多くの人に知ってもらい 活用してもらうための仕組みづくりへ

取材を終えて

山崎 これからますます美容ケアの需要は増えると思うので、よりプロフェッショナルなソシオエステティックとNPO。どちらもあっていいですね。

ここ10年で医療や福祉の現場での美容ケアの認識は本当に変わりました。国立がん研究センターにアピアランス(外見)支援センターが2013年に開設されたのも、医療現場の認識を大きく変えましたね。

光江 アピアランス支援センターができたことにより、医療現場での認知と理解度が上がった功績は大きいと思います。それとは別に、実際に美容ケアをする私たちは、自分がリタイアした後も、困難な状況の方の誰もが望めば美容のケアが受けられるように、社会のシステムとして定着させたいと思います。そのために常に一歩先の動きをしなければいけませんので、いま一生懸命やっているところです。

山崎 決して自己満足で終わらせず、後に続くように残すこと。これは社会貢献をするうえで本当に大切なことですよね。私も常にそう考えながら、なかなかできていません。美容ケアを必要とする多くの人に、もっと身近に活用してもらえるような世の中にしていきたいですね。今回は同じ想いをもつ者としてとても刺激を受けました。

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