がんになっても快適に暮らすヒント Vol.12 意外と知らない褥瘡(床ずれ)の話

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年7月
更新:2017年7月


ウレタンのマットレスやクッションを使い 身体と床との接触面積を広げるといい

山崎 褥瘡を予防するにはどういう方法がありますか?

浦田 まず寝具です。褥瘡は体が床に触れる面積が少ない部位ほど骨突出部などの局所圧が高くなりリスクが上がるので、体の曲線に沿って沈むウレタン素材のマットレスを使うことをお勧めします。

さらに、寝ていて床から浮く部位(腰や膝下、足首など)の隙間に小さなクッション(ビーズクッションや羽毛、ゲル状など、柔らかく形が変わるもの)を入れ接触面積を広くすると、点ではなく面で体を支えることができるので骨突出部の体圧が分散されます。

山崎 なるほど、隙間を作らないことがポイントですね。ウレタンマットレスは介護用品店でレンタルもできますし、最近ではホームセンターなどにも売っていますね。そして、体位も変えたほうがいいのですよね。

浦田 はい。ただ2時間おきでなくて大丈夫です。スモールシフトという方法ですが、ベッドサイドに行くたびに、クッションを一個抜くとか、手や顔や足の位置を少し変えてあげるだけで、身体の重心が移動するので体位変換したのと同じ効果があります。

山崎 皮膚のケアは自宅ではどうしたらいいのでしょう?

浦田 まず、乾燥や肌荒れによる皮膚のバリア機能を補うために油分含むクリームやオイルでの保湿が大切です。そして、清潔のための洗浄。スキンケアはこの2つが大切です。

山崎 褥瘡になっている部位も洗ったほうがいいのですか?

浦田 皮がむけていたり膿んでいるときこそ、感染予防のために毎日の洗浄が大切です。弱酸性で低刺激なもので、ホイップクリームのようなきめ細かな泡の洗浄剤がお勧めです。こすらずにポンポンと押さえるだけで、泡が取り除くべき汚れを吸着してくれます。すすいで水気をとったあとは、ワセリンのようなオイルを伸ばして患部に膜を張り、接触によるダメージや、仙骨や座骨にできた褥瘡は排泄物が触れないように保護できます。

山崎 潰瘍部位を洗うのは痛そうですが、知覚神経が少ない部位なので実際はそうでもないのですね。

浦田 はい。清潔にすることが治癒への近道です。それともう1つ、褥瘡は食事とも密接な関係があります。寝返りや、ズレないように座る姿勢を保持するためには筋力が必要です。ところが寝たきりですと食欲もなく、どんどん衰弱してしまいます。

お粥を食べるなら卵を入れて。喉ごしの良いアイスクリームやヨーグルトにはきな粉や黒蜜をかけるだけで、カロリーやタンパク質を摂取できます。栄養をつけると体力が上がり体幹を支える筋肉を作ることができるのです。

適切なオムツ選び、そして洗浄と肌の保湿で 褥瘡はかなり防ぐことができる

山崎 筋肉を作るための食事! そういう視点は確かに大切ですね。あと、大人用紙オムツによっても褥瘡ができることがあるそうですね。

浦田 そうなのです。排泄物の漏れを防ぐために、紙オムツの中の尿取りパッドを何枚も重ねている方が意外と多いのですが、これが褥瘡の原因になります。パッドを重ねるとオムツの中が蒸れて皮膚がふやけてしまうことが1つ。また尿で湿ったパッドを内側から1枚ずつ抜くという使い方をするとお尻に摩擦が生じ、それが褥瘡になります。また、尿取パッドは吸水すると厚くなり、時間が経つと固くなるためますます圧迫されて褥瘡ができやすくなるのです。

介護は大変だと思いますが、大人用紙オムツは、その方の体型にあったものを、また1日に何度取り換えられるかによって、必要な吸水量のもの(2cc~2Lまで様々な種類がある)を選ぶこと。そしてお尻周りの洗浄と油性軟膏やクリームなどで撥水及び保湿保護することで、オムツによる褥瘡はかなり防ぐことが可能です。

山崎 これは、WOCナースならではのアドバイスですね。ところで認定看護師の資格は様々な専門分野がありますが、浦田さんはなぜ「皮膚・排泄認定看護師」を選ばれたのですか?

浦田 私は以前勤務していた病院でストーマの患者さんのケアにかかわっていました。イレオストミー(回腸ストーマ)の方は小腸から出る水様便を体に貼った袋に溜めて日常生活をしますが、退院されたある患者さんが外来で「いつ袋から便が漏れるかわからないので、家の外へ一歩も出られない。こんな体になって生きていても仕方がない」という話をされたことがありました。排泄ケアは看護師の仕事なのに、私は何もできていないと思い知らされました。そこで、病院の中だけでなく、退院後の生活も支えられる知識をもってケアがしたいと思い、認定資格をとりました。

山崎 排泄も褥瘡も、人の尊厳にかかわることです。日本も超高齢化社会に入りました。こういう知識が一般にもっと知られることは大切ですね。知らないころばかりでしたが、とても勉強になりました。

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