がんになっても快適に暮らすヒント Vol.14 男性がん患者のアピアランスケア

山崎多賀子●美容ジャーナリスト
発行:2017年9月
更新:2017年9月


眉があり、顔色がよく、表情がいいと、髪がなくても健康に見える!

山崎 では外見に出る副作用について、男性に対する整容的なアドバイスについて教えてください。女性の場合、副作用の悩みのナンバーワンはダントツで脱毛ですが、男性もやはり脱毛ですか?

野澤 脱毛がやはり多いですね。ただ男性はウィッグや帽子以外に、髪を剃ってしまうという選択肢があるというのが女性とは違うところです。

山崎 逆に男性はウィッグをかぶることに心理的に抵抗がある人が多い気がします。

野澤 脱毛を気にしている自分に抵抗があり、それを隠していることに後ろめたさを感じてしまうのも男性の特徴です。割り切ってウィッグで遊んでしまえばいいのですが、仕事柄、真面目なウィッグが必要な方ほど抵抗感を強く感じるように思います。自然で安価な男性用ウィッグも少しずつ増えてきたので、堂々とつけてほしいと思います。

山崎 眉毛の脱毛を気にしている方も多いですね。以前、眉の描き方をアドバイスした方は、鏡を見て「やっと全身に血が巡ってきた気がする」とまで言われていました。

野澤 女性もそうですが、男性も眉がなくなることは、けっこうな衝撃を受けると思います。お坊さんを見ても、誰も病人だと思わないですよね。それは「眉があって」、「顔色が良く」て「表情がいい」からです。逆に言えば、この3点があれば、髪がなくても健康に見えるのです。ただ、抗がん薬で頭髪は抜けても眉は抜けないという治療もあるので、焦らないでほしいですが。

簡単にできる保湿やメイクをすることが 新しい自分の出発点につながることも

山崎 その3点を演出するために具体的にはどんな指導をされていますか?

野澤 まず顔色の印象をよくするために保湿が大事です。立派なウィッグをつけても、肌がガサガサでは病人の印象は払しょくできませんから。

山崎 保湿で肌に艶がでるだけでイキイキしますからね。でもほとんどの男性がそのことを知りませんね。

野澤 そうです。奥さんのものでいいから化粧水と乳液をつける。そして、眉が薄くなってしまったなら、グレー系かオリーブグリーン系のパウダーアイブロウ(眉墨)で色を足す。顔色を良く見せるために、オレンジかコーラル系のほお紅で血色を足す。男性はそれでほとんど問題ありません。もし肌色に目立つ赤みやくすみがある場合は、その部分にだけ薄いファンデーションを塗って目立たなくすればいいと思います。

山崎 化粧慣れしていない男性もこれならできそうですね。

野澤 ハードルを上げるようなメイク法を教えた途端に、「そこまでしたくない」となって引きこもってしまったら、患者さんと社会を繋ぐことをゴールにする支援としてはマイ���スです。それに、誰もが簡単にできる方法をあれこれやっていくことは、病気で変わった自分を受け入れていくプロセスになり、それが新しい自分の出発点につながっていくきっかけになることも多いですね。

山崎 アピアランスケアとは、あくまでその人が戻りたい場所へ戻れるためのサポートですからね。

野澤 これまで、がん患者の外見ケアは美容的手段で補うことというイメージが定着していたましたが、その考えを払しょくしたくて、私たちはあえて「アピアランスケア」という言葉を使いました。外見を気にするのは女性だけでなく、子どもも男性も同じということを考え直してもらいたいという願いも込めています。

そして、病人のイメージを払しょくしコミュニケーションを円滑にするためには、どんなに自然なウィッグも化粧も、笑顔に勝るものはありません。

山崎 健康に見える条件の3つ目、「良い表情」ですね。同感です。笑顔が一番のアピアランスケア法ですね。

 

男性が外見の変化を一番相談するのは、医師

女性が外見について相談するのは圧倒的に看護師なのに比べ、男性はあまり看護師には相談しない。実際に外見に変化が出てから、一番に相談するのは妻やパートーナーだが、二番目はやっぱり医師。医師が男性のアピアランスケアに関心を持つことを求められているのではないか。

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