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がんになっても快適に暮らすヒント Vol.18 15〜39歳のがん支援の谷間世代 AYA世代特有の悩みや問題にどう取り組む?
がんでない人と同じ悩みを抱えているAYA世代
山崎 15歳~39歳ですと、高校生から親になった人まで含まれます。将来子供が持てるのかという妊孕性(にんようせい)の悩みは、男女ともに大きいと思います。AYA世代の特徴と一括りにするのは無理がありそうですね。アンケート集計も、年齢を分けた集計もされていますね。
小澤 はい。現在治療中の患者225名、治療が終了したサバイバー261名、親217名、兄弟姉妹81名、子供を亡くした親36名に加え、コントロールとして同じ世代のがんではない人200名の有効回答が得られました。このほか、医師や看護師、相談員にも調査をしています。
山崎 最新の実態調査を拝見しましたが、年代別に特徴が見えます。将来のことはトップとして、やはり成人後は経済的な悩みが上位です。10代は学業や体力や運動は大切な要素。そしてやはり、25歳からは将来子供が持てるかといった不安が上位にきていて、特徴的なのは、治療が終わったあとのサバイバーでは、不妊や生殖機能に関する悩みがどの年代でも上位に来ていることです(図2)。
小澤 そうですね。妊孕性の問題はとても大きなことです。ただ、ここでとても大切なことは、AYA世代は世間一般のがんでない人たちと同じ悩みを抱えているということなのです。同じ世代ができることができないという悩みも確かにありますが、同じ年代と同じことを同じように悩み、プラスがんのことも悩んでいる。
山崎 ん? 言われてみればそうですね。将来への不安、興味があるスポーツだったり恋バナだったり結婚だったり。自分のころを振り返っても同じですね。そうか、とかく成熟してしまった大人は、若くしてがんになって、きっと特別につらい思いを抱えているのだろと、勝手に想像しがちですが、そういうことではないと。
小澤 そうなんです。ですから、がんだからといって、その年代らしい興味の情報や機会を断絶してはいけないと考えています。特別扱いすることではなく、できるだけこれまで通り社会の中で共生していくことが大切です。
山崎 少しわかってきました。年配者は「若いのに可哀想に」と特別視しがちだけれど、本人は友人や同僚、家族の中に普通にいて、ただがんだというだけなのですね。
小学生から高校生にがんの正しい情報を伝える「がん教育」も国の方針で始まっていますが、これも共生に役立ちますね。がんに対する偏見を持たない子供がたくさん成長すれば、社会は変わります。
多様性に富むAYA世代に大切なことは がんと向き合いながら人として成長すること
小澤 はい。そしてもう1つ重要なことは、がんでもがんでなくても、成熟した大人に向かう過程にあるAYA世代は、15歳なら15歳なりに、25歳なら25歳なりに成長していくことがとても大切です。
がんになったから何でも人にやってもらうのではなく、やるべきことは自分でやる。自分で考えて手を伸ばして行動する。それができれば、人生の中できちんと輝けるはずです。その力を養うためのアプローチを私たち医療者や、みんなと一緒に支援することも重要な課題です。これも他の年代と違う特徴だと考えています。
山崎 これは新しい視点でした。AYA世代の中でも年代別にアプローチ法は違いますか?
小澤 そうとも言えません。AYA世代はザックリ言うと、「からだ、心、社会性」という3つの要素がそれぞれ成熟に向かって成長していく期間ですが、全部が同じように成長するわけではなく、個々によってバラバラです。同じ18歳でも中身をみると全く違う。そういう人たちが横並びにいるのが、AYA世代の大きな特徴で、とても多様性に富んでいる世代と言えます。
そこで世界的にもAYA世代の患者さんを診るときは、「Young person is first、Patient is second」。つまり、「最初にどういう人かをみる。患者さんとしてみるのはその次」ということです。私もそう思います。
山崎 それほどにみんな違うのですね。確かに振り返ってみても、発展途上の中でみんな個性に溢れていた年代ですね。
小澤 AYA世代の彼らは、「AYA世代を一括りにするな」と言いますね。みんな違うと。確かに違います。
山崎 人として成長しながら、がんとも向き合っていくことが大切ということですね。
その中にあって、アンケート調査結果をどう生かすのですか?
小澤 これまで大人と同じように生活習慣病によるがんの情報をAYA世代にも提供していましたが、そもそも生活習慣病によるがんではありません。そこで、アンケート調査で困っているニーズと提供の差を見ました。海外でも調査データがありますが、今回の調査結果でもニーズに対して5割前後のアンメットニーズ(まだ満たされていないニーズ)がたくさんあることがわかりました。みんな違うので、少ない声も拾うことが大切だと、班では考えています(図3)。
山崎 1つも、ほとんど満たされている項目がないのですね。
小澤 決して十分ではありません。そしてアンメットニーズに対して、ただ満たすだけなら小児がんと同じ視点です。こちら側もニーズに対して必要な支援や情報、場を提供していくわけですが、情報を得た彼らが動く先では支援するピア(患者の仲間)が大きな力を発揮してくれると思います。いかにピアを育て、医療と協働するかを考えています。
山崎 先日、AYA世代が主宰した「AYAキャンサーサミット」というイベントが開催されました。小澤さんも医師として登壇されましたが、まさにピアで作り上げたイベントでした。私もファッションショーの裏方でお手伝いさせていただきましたが、みんな個性全開でした。今、AYA世代が自分たちの力で動き出していますね。
実態が見えにくかったAYA世代への調査は、今後どのように生かされるのですか。

小澤 堀部班の今回の調査結果を踏まえ、AYA世代の診療のエッセンスを盛り込んだ、『AYA世代 がんサポートガイド』(金原出版)を医療者向けに2018年2月に発売(発行)します。また、シンポジウムも医療者や患者さん向けに4回開催される予定で、今回の調査結果を患者さんに知っていただき、役立てていただけるように小冊子も配布します。
山崎 これまでAYA世代で情報のまとまったものが日本にはなかったので、大きな第1歩ですね。出版が待ち遠しいです。
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