胃・食道がんの食事 量は無理なく、回数で補って。よく噛みゆっくり食事を楽しむ
食べ方の注意
●つかえ感、胸焼け
つかえ感や胸焼けは、早食いやよく噛まずに食べたり、また食べすぎても起こりやすい。よく噛んでゆっくり食べ、食後はすぐに横にならず、座って過ごすようにする。
つかえ感があるときは、よく噛んで食べることが大切だ。水分などで無理に流し込もうとすると、かえってひどくなってしまうことがある。
●ゲップ
須永さんによると、ゲップも患者さんが気になる症状の1つだそうだ。胃や食道を切除したことにより、食事と一緒に飲み込んだ空気をうまく処理することができず、今までと同じようにゲップを出すことができなくなったり、ゲップをしようとすると、食べた物が一緒に上がってくるように感じたりする。飲み込むときには、少なからず空気も一緒に飲み込んでいるため、飲み込む1回の量を少なくするよう、スプーンのサイズを小さいものに変えて一口に入れる量を少なくするのも工夫の1つです」と須永さんはアドバイスする。
●不足しがちな栄養素
胃を切除すると胃酸の分泌が低下するため、栄養素の吸収障害を起こしやすいが、栄養素の不足はサプリメントに頼らず、なるべくバランスの良い食事を基本にして食生活で補うようにしたい。
■カルシウム・ビタミンD
カルシウムやビタミンDが吸収されにくくなると、骨粗鬆症のリスクが高まる。カルシウムを多く含む食品をとるよう心がける。とくに乳酸菌飲料は、腸を整えて下痢や便秘を改善する効果も期待できる。
ビタミンDは、肉類、魚類、卵類に多く含まれる。ビタミンDは日光下に皮膚で合成されるので、散歩など屋外の活動が骨粗鬆症対策につながる。
■鉄分
レバー、赤身の肉、魚類、卵類、大豆製品、緑黄色野菜といった鉄を多く含む食品を積極的にとるようにする。肉類で鉄分を多く含むものは、牛肉、豚肉、鶏肉の順だが、消化の良さは、脂肪量の順に鶏肉、豚肉、牛肉となる。鉄分の摂取と消化の良さのバランスを考えながら食品を選ぶ。
■ビタミンB12
胃を全摘すると、ビタミンB12の吸収障害が起こる。これを食事療法で克服することは難しいので、半年に1回、注射でビタミンB12を投与することが必要となる。
●体重減少
術後~半年くらいまでは体重が減少傾向にある人が多い。術後は、術後の体に慣れてくるまでは体重減少は致し方ないところもあるが、食事を工夫することで、体重減少をゆるやかにすることもできるだろう。間食を上手に取り入れることが大切だ。
食道がん手術後の食事

●食道の機能
食道の主な機能は、食べ物を胃に送り込む蠕動運動と、胃内からの逆流防止である。
食道がんで食道を切除した場合、胃を頸部まで持ち上げて食道の代わりに再建する。このため、食道の機能が失われると同時に、胃の貯蔵・消化能力も低下してしまう。
術後は、胃があった部分は管状になって食べ物が入る容積が減少する。
「お茶などは食事の前に飲むほうがよいでしょう。食後に飲むと苦しくなるという患者さんもいらっしゃいます」
ある程度食べてから水分をとると、食べたものが詰まったところに水分が入ってくるため、苦しくなる。このため、最初に水分を飲むと、食事の量に水分を考えなくて良くなるそうだ。
●通過障害
食道の代わりをする胃管は、内径は親指程度であり、食道のような蠕動能力はないため、通過に支障が生じやすい。
とくに胸壁前経路の場合(図4)、屈曲部位に食べ物がつかえやすくなる。椅子に座った姿勢で少し上体を前に倒し気味にすると通過しやすくなる場合もある。また、食後に少し体を動かすと、食べ物が下に流れやすくなる。
食事は、良く噛んで唾液と混ざった状態になったものが通過しやすい。タコやイカなど、噛みきれない食品はつっかえやすいので注意が必要だ。
●嚥下障害
食道がんの手術の際に、声帯の近くのリンパ節を取り除くことにより、声を出したり、食べ物や空気の通りを調整する反回神経に麻痺が起こることがある。このため声がかすれたり、嚥下機能が低下するため食べ物が気管に入ってむせたり、誤嚥性肺炎の原因になったりすることもある。食べ物は、嚥下に適した食事が大切であり、通過障害と異なり、水分の多いものは誤嚥しやすい。
●逆流性食道炎
飲み込んだ食べ物が逆流して胸焼けなどが起こりやすい。逆流した食べ物が気管に入ると、誤嚥性肺炎の原因にもなる。夕食は就寝2時間前までにすませておくと良いだろう。消化の良い食事とし、食直後は横にならないことも大切だ。
●ダンピング症候群
胃を管として再建するため、食べ物をためておくことができず、小腸に早く流入しやすい。
そのため、胃がんの術後と同じようにダンピング症状が起こりやすいので注意する。
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