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「食べる幅を広げる」工夫が、生きる意欲を養っていく

監修●小松美佐子 東京都立駒込病院栄養科 栄養科長・管理栄養士
取材・文●福田いつみ
発行:2014年5月
更新:2014年11月


副作用対策から生まれた命を育む「特製スープ」

移植食といえども、栄養量の基準は1,900kcal と、一般治療食に準じている。ところが実際は、移植後の副作用が最も強く出るのが口腔内であるため、口内炎の痛みで食欲が激減し、食事に手をつけられなくなる患者さんが大勢いる。

「移植後、無菌室に何日も入っている患者さんは、基本的に廊下も歩けず、ずっと部屋の中に入ったままです。食べる楽しみがないばかりか、痛みで食べる苦しみの方が多い。その苦しみを、食事を通して少しでも取り除きたいと考えて、当院では通常の移植食に、個別対応で付け加えられるオプションを作りました」と、小松さん。

●低刺激食
移植食から、酸味・辛味等の刺激を減らし、三分菜、流動菜などの形で柔らかく煮崩したもの。口腔粘膜への刺激を低減させるための調理法で作られる。

●メニュー表
主食(ご飯、おかゆ、パン&ジャム、冷・温そうめん、うどん等)、単品おかず(クリーム卵、湯豆腐等)、飲み物各種(牛乳、豆乳、紅茶、ジュース類)、デザート(プリン、ゼリー等)のメニュー表を配り、何も食べられない患者さんでも、その日の体調に合わせて、少しでも食べられるものを選べるようにした本人の食欲を引き出す試み。

●ミラクル食
量は一般食に準ずるが、味付けは3割程度とし、たれ、煮汁、パック調味料が別に添えられている。例えば、野菜のゴマ和えであれば、ゴマだけが野菜にかかっていて、砂糖醤油は別添え。お膳には「煮汁を別に添えました。お好みでかけてお召し上がりください」といったメッセージも添えられ、患者さんの心が和む配慮もなされている。調味を自らセレクトできることで、患者さんの気力に働きかけるという、まさにミラクルな試み。

●特製スープ
カボチャのポタージュ、トマトスープ、コンソメスープ等9種類のスープを日替わりで作って、1日30~40食を希望する患者さんに提供(そのうち、移植食の患者さんは10人程度)。「毎食、スープの具材を書き込んだメッセージカードを添えるようにしています。裏には、患者さんの感想も書き込めるようになっているので、ちょっとした息抜き、コミュニケーションの場になっているかもしれません。1日1,600食を患者さんに提供する中で、特製スープを作り続けることは決して簡単なことではありませんが、様々な栄養素とぬくもりの詰まったスープは、まさに命の素。レシピもご紹介するので、ご家庭でもぜひ試してください(表4)」と、小松さんは語る。

表4 駒込病院特製スープレシピ

口腔ケアも大切に

表5 退院後、患者さんと家族が気をつけること

人が食べ物を咀嚼するためには、口腔内の環境を整えることも欠かせない。「最近は麻酔薬の一種が配合されたスプレーや保湿効果のあるジェルなど、機能面でも使い勝手でも優れたアイテムが出回るようになりました。

まめにケアをする人ほど、どんどん食べられるようになり、回復が早いという実感もありますので、口腔ケアも大切にしながら、食べる喜びを取り戻して欲しいと思います。食べる意欲は、生きる意欲とつながっているのですから。また、退院後は、食事前の手洗いを徹底する、体の調子が良くなってきたときも、一気に普通食に戻すのではなく、徐々に少しずつ食べていくようにするなど、患者さんだけでなく家族も注意を払うことが大切です」

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