治療中の筋肉量減少は、合併症リスクや生存率に影響! 「サルコペニア」が教える 食道がんの新しい治療戦略
タンパク質補給だけでは解決しない
「この結果から言えるのは、サルコペニアになって筋肉が減る場合は、合併症を起こしやすくなる上に、予後も悪いということ。ただし、それはサルコペニアが悪いのか、それともサルコペニアを来すようながんが悪いのか、そもそもサルコペニアと予後の要因に関連性があるのか、といったことまではわかっていません」
それでも、患者さんがサルコペニアかどうかは、がん治療を進める上で、抗がん薬治療で用いるバイオマーカー同様、重要な指標となることは間違いない。
では、どうしたらいいか。栄養療法でタンパク質を補充すればいいのでは?と考えがちだが、そう単純ではないという。「例えば、脂肪は食べると体内に蓄積されますが、タンパク質はそれが全て体タンパクとして蓄積されるわけではなく、一部は尿として体外に排泄されてしまいます」と、林さん。
「栄養療法を行えば体重減少は防ぐことができます。また、手術後に合併症を起こしたとしても、経管栄養で適切な栄養補給をすれば体重は維持できます。ところが、合併症を起こさなかった人では筋肉量はあまり変わらないのに、合併症を起こした人はいくら経管栄養で補っても、筋肉量が極端に減ってしまいます。つまり、栄養療法だけでサルコペニアを克服することはできないのです。どう対処したらいいかは今後の課題です」
それでも、取りあえずできるのは積極的に栄養をとることだが、「特定の栄養素なり成分にこだわり過ぎるのではなく、なるべく普段の食事を楽しみながら召し上がることが理想です」と林さんは指摘する。「確かにオメガ3系脂肪酸などは、筋肉の分解を遅らせて体重を安定させる作用があるとの報告があり、食道がんで術前化学療法を受ける患者さんを対象とした臨床試験でオメガ3系脂肪酸を摂取することで術後体重減少が減ったという報告もあり有用である可能性はあります。
しかし、欧米の試験の結果であり、日本人とは食生活が異なるので一概には言えません。本来、栄養とは微量元素なども含めて包括的に摂取しなければいけないもの。何か単独の栄養素に注目して、これを補えばよいという考え方だけで栄養管理を行うより、バランスに配慮した栄養管理が重要です」
こう語る林さんは「それよ���普通の食事も大事にしてほしい」と言う。「私が栄養管理で主眼としているのは、あれを食べろ、これは食べてはいけない、ではなく、基本的には『食べたいと感じたものを食べてください』ということ。もちろん、食道狭窄がある人にはキノコのような通過しにくいものは食べないように、ということはお願いしますが、治療を完遂するため栄養状態を落とさないでいて欲しいので、とにかく食べてもらうことを最優先にしています」
食事と運動でタンパク質を蓄える
しかし、栄養だけではサルコペニアはよくならない。食事とともに重要なのが運動で筋肉にタンパク質を蓄えることだという。林さんは、これからがんの治療を受けようという人にこうアドバイスする。
「がんと診断されて手術を控えているとか、放射線化学療法を受けるとか、体に侵襲のあるような治療が始まるというような人は、しっかりと食事をとるとともに、筋肉を維持するための運動を心掛けて欲しいです。運動といっても筋トレを勧めるわけではなく、散歩をするとか、買い物に行くとか、家の中にいるときも横になっているのではなく、座って本を読むとか、座ってテレビを見るとかするだけでも十分に効果があります」
林さんによると今後のがん治療は栄養管理が欠かせないという。がん治療は抗がん薬・放射線・外科治療の3本柱といわれるが、林さんは「これに栄養・運動療法が加わって4本柱となるべきだし、ひょっとして、抗がん薬治療以上のパワーを発揮するようになるかもしれません」と話している。
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