食べることがつらくならないように 食道がん治療中の食事
退院後の食べ方と生活 8つのポイント
退院後は家庭で、患者さんの嚥下状態に応じて、経腸栄養の管理をしながら、普通食に移行していく(表2)。「手術後3カ月ほどでもとの食事に戻すのが目安ですが、個人差が非常にあるので、食べることがつらくならないよう、家族は焦らず気長に寄り添ってほしいですね」
食べ方のポイントを紹介しよう。
❶よく噛んで食べる
胃の貯蔵・消化機能が失われるので、口の中で食べ物をよく噛み、すりつぶすことが大切だ。
❷頻回食にする
1回量を少なめにして、1日5回~6回に分けて食べるとよい。1日3食プラス間食として、水分および栄養補給のゼリーやムースなどを摂るのもお勧め。
❸食べたいものや好物を
お粥は食べられないが、好物のお寿司なら食べられるという人も。食べられないときには、栄養バランスにこだわらず好きなものを少量ずつ、様子を見ながら食べてみよう。
❹ゼリーで栄養・水分補給と嚥下訓練
飲み込みがうまくいかない場合は、間食に栄養成分入りのゼリーを利用して飲み込む訓練をしながら、栄養と水分の補給を。
❺早食いしない
退院後は、手術前と同様の早食いに戻ってしまうことがある。1口食べたら箸を置き、少し間を置いてからまた食べる「居酒屋方式」を試してみよう。
❻腹6分目に
食べ過ぎると、逆流などのトラブルを招くので、腹6分目位でとどめよう。
❼定期的に体重測定を
週に2~3回体重を量って変化に気をつけよう。「1~2日で体重が2㎏も減ったときは、水分不足が疑われるので水分を補給しましょう」
❽体力をつける
散歩やウォーキングなどの軽い運動を。筋肉がつき、体力も増して食欲も出てくる。

*食事のエネルギー量は全量食べた場合を目安として算出
出典:駒込病院の配布資料『食道手術後のお食事のとり方』から一部改変
家族と同じメニューをひと工夫 コンビニ食も上手に使って
退院後は、どんな食事がいいのか。「特別に作らなくても家族と同じメニューを少しアレンジすれば食べやすくなります。温泉たまごや冷奴、ヨーグルトは、飲み込みにくい方でも食べやすい食材です。水分にむせるなら、おかずの煮汁を切ったり、とろみあんをかけてみましょう」
家族と同じ焼き魚や煮浸しも、ほぐして、味付けしただしに水溶き片栗粉でとろみをつけたあんをかけるだけで、飲み込みやすいおかずに変身する。とろみあんをコンソメ���や中華味にすれば、味の変化も楽しめる。市販のとろみ剤(介護食コーナーや通販で購入可)を利用すれば、冷たい液体にもすぐにとろみをつけられて便利だ。
「ただしとろみをつけ過ぎると、下へうまく落ちていかないという方もいますので、むせない濃度に調節を。主食には、お粥や軟らかめのご飯など食べやすいものを選びましょう。ただパンは、パサついて飲み込みにくいという方が多いので注意してください。他にも喉ごしの良いそうめんなどの麺類は、噛まずに飲み込んでしまい、つかえてしまうことがあるので要注意です。毎日の料理作りが大変という人は、コンビニ食を利用するのも1つです(図3)」
夏場は脱水に陥りやすいので、水分補給も忘れずに。コップでなくストローで飲むとむせにくくなる。飲みにくければ栄養成分入りのゼリーなどで補うようにしたい。

ダンピング症候群や逆流への対応は
食道がんの手術後は、食後にだるさや冷や汗、めまい、吐き気、下痢などのダンピング症候群が起こることがある。「ダンピング症候群は、未消化の食物が急激に小腸に流れ込むために起こる症状ですから、食物をよく噛んでゆっくり食べるのが一番の予防法です。水分と一緒に食物を一気に飲み込むと腸に流れ込むスピードが速くなるので、水分は少しずつ摂りましょう。また、糖分の多いものを大量に食べたときも小腸での消化吸収が急激に起こりやすいので注意しましょう」
また、食道がんの手術後は、飲み込んだ食べ物が逆流してしまうことも多い。こうした逆流は、食べ過ぎたときに起こりやすいので、腹5~6分目にとどめておくことが大切だ。
「狭窄があるようなら医師に伝えて、そこの部分を拡張するなど、適切な処置をしてもらいましょう。つかえる感じがあるからと言って食べないと狭窄が進み、ますます食べられなくなってしまいます」
化学放射線療法を受けた場合、口内炎が起こりやすく、食物がしみることがある。「トマトジュースやしょう油がしみるなど個人差があるので、刺激の少ない食品や酸味を抑えたゼリーなどを試してみてください」
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