大腸がん術後のQOLアップのために
直腸切除後は頻便や失禁になることも
~排便障害(頻便、便失禁など)~
排便障害には、便の回数が多くなる頻便、便が漏れる(便失禁)、下痢、便秘などがある。
「大腸の手術には結腸切除と直腸切除があり、直腸がんの前方切除の中でも、低位前方切除術と超低位前方切除術・内肛門括約筋切除術(ISR)では、その後の合併症も異なります」
①超低位前方切除術・ISRの場合

10年ほど前まで、直腸がんで肛門に近い位置にがんがある場合は、肛門も含めて切除し、永久的な人工肛門(ストーマ)を造設していたが、近年では、肛門から1~2cmの位置にあるがんでも超低位前方切除術やISRという術式で直腸を切除し、肛門を残すケースが増えてきた(図4)。
「この場合、一時的に回腸に人工肛門(イレオストミー)を造りますが、3~6カ月を目安に、吻合部の傷が修復したところで人工肛門をお腹の中に戻し、肛門からの排便に切り替えます。肛門はあっても便を貯める直腸がなくなるので、術直後はゆるい便が漏れたり、頻便になったりします。食事をするたびに繰り返し便意を催す、チビチビ漏れる、便かガスかわからないなど、排便の変化に苦労している方もいます。この状態はいくらか改善することはあっても、術前同様の排便には戻らないので、肛門括約筋を鍛えて便を漏れにくくしたり、失禁用のパッドを使用したりして、新しい排便の状態に慣れていく必要があります」
●対策 肛門をギュッと締めて緩める骨盤底筋体操を100回ずつ1日2~3セット行い、便の漏れを防ぐ訓練を習慣にするとよい。ストーマ閉鎖の手術前から継続して行うと効果的だそうだ。
下痢便のときには、便の水分バランスを調節するポリカルボフィルカルシウムや整腸薬で改善することもある。就寝中に便失禁がある場合、夜は大きめの失禁用パッドを使用する。外出時もパッドを携帯すると安心だ。また、患者さんの希望により人工肛門に戻すこともまれにある。
②低位前方切除術の場合
直腸が切除されるため便を貯めるところがなくなり、排便回数は多くなるが、便失禁は徐々に改善されることが多い。
③結腸切除術の場合
結腸切除術では直腸は残るので、術後しばらく便の回数が増えることがある程度で、次第に元の状態に戻っ���いく。
便秘には酸化マグネシウムや大建中湯を
~便秘~
「大腸がんの手術後、便秘になる方も多いですね。バランスのよい食事を心掛け、野菜やヨーグルトを多く摂って腸を正常化させましょう」
●対策 水分を十分に摂る。下剤は貯まった便を一気に排出させる効果はあるが、服用を止めると効果がなくなる。下剤よりも、整腸作用があり、便を軟らかくする酸化マグネシウム(商品名マグミット、マグラックスなど)を処方してもらうとよい。
また、漢方薬の
~排尿障害~
「直腸がんで肛門も含めてすべて切除する腹会陰式直腸切除術はマイルズ法といって、永久的なストーマ造設をします。骨盤内臓全摘術では、骨盤内の臓器をすべて切除するので、大腸ストーマと尿路変更をした回腸導管となります」
腹会陰式直腸切除術では、20年ほど前までは排尿神経や勃起神経等が切断され、頻尿や尿閉(尿が出ない)などの排尿障害が起こることがしばしばあったが、現在では神経を傷つけずに手術が行われるようになり、排尿障害は少なくなっている。
●対策 退院時に超音波検査で残尿測定をし、残尿が50cc以上の場合は、尿道にカテーテルを通して排尿する自己導尿を指導してもらう。
「トイレが近いのに、尿が少ししか出ないという場合には、1~2カ月自己導尿しますが、徐々に改善していきます」
ストーマ造設後は皮膚・排泄ケア認定看護師に相談
~ストーマ造設後のトラブル~
直腸がんの手術後にストーマを造設した場合、スキントラブルや漏れ、においなどで悩む人が少なくない。「装具がお腹の形に合っていなかったり、ストーマの貼り方がよくなかったり、真菌感染があると、スキントラブルの原因になります」
手術直後に合っていた装具が、一生合っているとは限らない。加齢ともに太ったり痩せたり、皮膚がたるんだりして合わなくなることもある。
「まずはトラブルの原因を探ることが大切です。ストーマ外来や皮膚・排泄ケア認定看護師などの専門家に相談してみましょう。その上で、フィットする装具に替えるなどの対処をします」
最近では、装具の穴を指で広げて自分のストーマに合わせられる製品など、簡単に上手に貼れる装具もある。「装具のはがし方によっても皮膚が荒れてスキントラブルを起こすことがありますが、専用の剥離剤を使って静かにはがすだけでも治ることもあります。皮膚保護剤も粉、練り状などいろいろなタイプが出ているので、組み合わせて使うといい場合もあります」
手術後5年以上経過している場合でも、異常があったら、手術を受けた施設で相談してみよう。
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