栄養補助食品を利用して食べる意欲へつなげる
嚥下能に合う 量の少ない経済的で買いやすいもの

2つ目のポイントは形態。高齢者は嚥下能が低下していることが多く、落下速度の速いドリンクタイプだと嚥下反射が追いつかず、むせやすい。がん種や治療によっては、摂食障害や嚥下障害のため、食べられないこともある。そういう患者に向けて、とろみのあるものやゼリータイプもたくさん販売されている。これらは咽頭残留物を絡め取る効果もあるそうだ。
日本摂食・嚥下リハビリテーション学会では「嚥下調整食分類」を発表している(表3)。メーカーや通販会社が出しているパンフレットには、この分類に従って製品の形態が分類されている場合もある。
3つ目に、意外に重要なポイントは容量。
「もともと栄養補助食品は、『1㏄=1㎉の濃厚流動食を飲む』ということを基本に始まりました。しかし、だんだん濃縮したタイプが作られ、今では少量でもエネルギーを摂れるようになってきています。お年寄りなどはたくさん飲めませんから、濃縮された125㎖入り(ミニパック)を勧めることもあります」(千歳さん)
忘れてならないのは経済性や利便性。前述の薬品である栄養剤は健康保険で処方されるため、薬局で安価に入手できるという利点もある。
「栄養補助食品も1日2~3本となれば、侮れない出費となります。経済的な理由から、医師に薬品の栄養剤を処方してもらっている患者さんも少なくありません」(千歳さん)
患者が高齢な場合、世話をする家族も高齢であることが多い。近所で簡単に買える、パッケージが重くない、といった点も考慮すべきポイントだ。また、最近は栄養補助食品の通信販売が充実している。病院の相談窓口には栄養補助食品を網羅した通信販売用のパンフレットを置いているところもあるので、かかりつけの病院でも聞いてみるといいだろう。
食べられるものを優先し、栄養補助食品はちびりちびり

味、形態、容量、経済性と利便性。栄養補助食品を選ぶポイントをあげてもらった���図4)。それでも、これだけ数があると選ぶのも大変で、入手方法がわからなくて困ることもあるはずだ。千歳さんは言う。
「気軽に栄養士に相談していただきたいと思います。今日、どこの病院でも栄養指導の体制は整っていて、『食べられないが、栄養の補助に何をとったらよいか』と医師でも看護師でも相談すれば、必ず栄養士のところにたどり着いていただけます」
最後に、大切なポイントをもう1つ。それは「基本は食事。栄養補助食品はあくまでサポート」と考えることだそうだ。
「食事で足りない分は、栄養補助食品を『ちびりちびり飲む(sip feeds)』方法がお勧めです。栄養補助食品だけでは、1食分には不十分な量です。それでも、普通の水やジュースより栄養が摂れるのは事実ですし、栄養的に底上げされているという安心感によって、食べていない、弱ってしまうという不安感から解放されます。ですから、上手な方は『今日は食べられなかったから、1本飲んでおこう』というように、ご自分の体調や食べ具合に合わせた使い方をされています」(千歳さん)
食べられたという思いは自信につながり、さらに食べる意欲につながっていく。
「抗がん薬で食事ができず、見るのもいやだという患者さんがミニパック1本を飲み切れたら、『ほかのものも食べてみようかな』と、少しずつ食欲が出てくると思います。また、最初は全然食べられなかったけど、2コース目で栄養補助食品を試したら少し体がラクだった。それなら3コース目も最低限あれだけ飲んでいれば頑張れるな、というように気持ちが変わり、治療の完遂につなげられるかもしれません。患者さんには、栄養補助食品を賢く療養生活に役立てていただきたいですね」(渡邊さん)
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