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第2回/全3回 〝噛めなくてもおいしく食べられるごはん〟 アイデアが次々に沸いてきた!

取材・文●菊池亜希子
撮影●「がんサポート」編集部
発行:2018年2月
更新:2018年2月


野菜ピュレは小分け冷凍に

一方、毎日の野菜のピュレ作りに関しても、それぞれの素材の癖を知ってコツをつかんだころ、ふと思ったのです。「このピュレ、しょっちゅう使ってるわ」、と。使うたびに作るのではなく、「小分けして冷凍しておけばいいんだ」と、ようやくここで気づいたわけです。

実は私、それまで冷凍が好きではありませんでした。その日に買ってきた新鮮な素材で、楽しみながら料理するというライフスタイルだったので、冷凍庫はいつもガラガラ。冷凍しておく、という発想がなかったのです。

でも、そんなこと言ってられない、とやっと気づいた(笑)。よく使うピュレはたくさん作って、小分けにして冷凍しておくことで、劇的に調理時間が短縮されました。それまでは、毎食、茹でて、切って、すりつぶして、調理して……をしてたのが、前半3つの工程がいっきに省けたのです。すごい発見でした。

始めは製氷機で小分け冷凍していましたが、製氷機だとガチガチに固まってしまって、出したいときになかなか出ず、無理に出そうとしたら飛んでしまったり。いろいろ探した結果、行きついたのが、赤ちゃんの離乳食グッズでした。

柔らかくて蓋つきの小分け冷凍グッズがいろいろあるんですね。柔らかいので取り出しやすく、洗って繰り返し使える。世のお母さまたちはすごい! と感動しました。分量も1個が40gと1回分にちょうどいい。これにゼリー化パウダーでとろみをつけてグラスに入れると、それで1品。ホイップクリームを混ぜてムースにすると、ちょうど2人分できます。

1個をおかゆにまぜると、それだけでリゾットに。かぼちゃリゾット、ほうれん草リゾット、ブロッコリーリゾット、ミックスキノコリゾットも美味しいですよ。主人はこってりしたのが好きなので、そこにバターをちょっと入れて、チーズを薄くすって出すと、喜んでくれました。お粥も毎日だと飽きますものね。

ちなみに、ピュレ自体に味はつけません。野菜をそれぞれ柔らかく茹でて、粗めに切ってから、ミキサーや、ハンディプロセッサーで粒のない状態にして、それをキューブ状に冷凍(1個40ℊ)、それだけです。

1個取り出し、スープの素と合わせてポタージュにするもよし、和風だしに入れてすり流しにするのもおすすめです。ほうれん草ピュレはオムレツに入れても合いますね。じゃがいもピュレは、そのままでポテトサラダとしてもおいしいし、バターと牛乳を混ぜて、チーズをかけて焼くとグラタンになります。

中でもいちばん活躍したのは��かぼちゃのピュレ。リゾット、ポタージュ、すり流し、と万能選手です。卵液と混ぜて洋風茶碗蒸しにすると、プリンのような触感で、高カロリーかつ栄養満点。かぼちゃはピュレの王様でした。

それから、ミックスキノコのピュレは名脇役。キノコ類は旨味成分が凝縮しているので、いい仕事するんです。実は私、最初のころは、ツルツルしたものが食べやすいと勘違いして、しめじを小さく刻んで調理し、とろみをつけずに出していたことがありました。そうしたら「しめじが口の中で遊んじゃって、飲み込めないんだよ」と夫に言われたのです。その後、誤嚥のことを知ってゾッとしたわけですが、どうにかしてキノコ類を出す方法はないかと考えました。で、「そうだ! ピュレにしよう」と。

椎茸、しめじ、マッシュルームなどいろんなキノコと玉ねぎを炒めて、ミキサーにかけてピュレ状に。こうすれば、口の中で滑ることはないし、何より、キノコの旨味に玉ねぎの甘味が加わって、風味がいっきに増すのです。ポタージュ、ムース、リゾット、茶碗蒸し、オムレツ……何を作るにも、ちょっと混ぜるだけで、味をピシッと決めてくれる素晴らしいピュレです。

ピュレを小分け冷凍するようになってからは、「今日は、どれとどれを組み合わせようかな」という感じで、レパートリーが限りなく広がりました。すべてのレシピ、調理時間は15分もかかりません。ほかにも、肉料理や魚料理のつけ合わせとしても、ソースとしても、ピュレは大活躍間違いなしです。

野菜ピュレは小分け冷凍に

和風だしに溶いて、かぼちゃのすり流し

命が繋がった瞬間

夫は、お刺身も大好きでした。さすがにイカやタコは無理ですが、赤みのマグロやシャケ、アジやホタテなどは、細かく叩くと、いい感じの粘りが出て、口の中でバラけにくい。それをアボカドを刻んだものと一緒にタルタル状にすると1品。ドレッシングは中華風でもイタリア風でも何でも合います。

盛り付けは、縦に重ねるのがおすすめです。透明のグラスに、ホタテ、アボカド、マグロ、と重ねて、最後にイクラで飾ったり。アジのなめろうもお気に入りでした。アジを叩いて、生姜とネギとシソと味噌で和えればできあがり。ご飯(お粥)も進むし、夫がバクバク食べているのがわかりました。

果物も好きだったので、毎食、果物のデザートを添えました。夫は、いちごムースが好物でしたね。ムースは大変そう? いえ、簡単です。生のいちごをミキサーでピュレ状にして、お砂糖とゼリー化パウダーを少し混ぜれば、ゼリーになります。そこに、生クリームを少量泡立ててホイップクリームにしたものを混ぜれば、あっという間にムースに。生クリームも、少量なら10秒ほどで泡立ってホイップクリームになるのですが、億劫なら、ホイップクリームなしでも、いちごのフレッシュゼリーで十分おいしい。フレッシュな果物の替わりに、100%ジュースにゼリー化パウダーを入れただけでも、いろんな種類のゼリーがすぐできますよ。マンゴージュースで作ったゼリーが絶品でした。

いちごのムース

●いちご、レモン汁、砂糖、ゼリー化パウダーをミキサーにかけてゼリー状に。そこに泡立てた生クリームを加えて混ぜたらムースに。別に、イチゴのみをミキサーでピュレ状にして上からかけると2層になって見た目も華やか

毎食、アキオさんの食事にデザートを付けたクリコさん。これには、カロリーをプラスして早く体重を戻し、体力を回復してもらいたい、という願いが込められていた。

退院して約3カ月、アキオさんはクリコさんが作った料理を毎日、楽しく食べ、体力をつけていった。40日間の入院中に7キロ減った体重は、退院後3カ月で3キロ戻り、5カ月目には、なんと手術前の体重に戻ったのだ。その少し前、手術から4カ月が経ったころ、すでに早期がんの宣告を受けていた食道がんの検査を行い、幸いにも、進行していないことが判明。無事、内視鏡手術を受けることができた。口腔底がんの手術に続き、食道がんの手術も乗り越え、アキオさんは、ついに何より望んでいた職場復帰を果たした。

4カ月間、食道がんが初期のまま進行しないでいてくれたことを知ったとき、私はあまりの嬉しさに、脚の力が抜けてしまい、病院の床に崩れ落ちて泣きました。もし進行していたら、内視鏡手術では、がんを取り切れない。かといって、夫の体力では、開腹手術や抗がん薬治療は無理だと言われていたのです。つまり、もし進行していたら諦めるしかないことを意味していました。

間に合った! 初期のままでいてくれた。これで内視鏡手術を受けられる……命が繋がった瞬間でした。

食道がんの内視鏡手術を無事終え、夫は4カ月ぶりに仕事復帰しました。出版社で編集の仕事をしていた夫は、何より仕事が大好きでした。人に会って話を聞き、それを記事にして世の中に伝えるという仕事を、心底愛していたのだと思います。だから、職場復帰した日は、帰宅してからも、まるで学校での楽しさを持ち帰った子供のように、はしゃいでいたことを覚えています。(続く。第3回では、さらに進化するクリコさんの介護食作りを紹介します)

料理写真:クリコ著『希望のごはん』より

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