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食事と運動の重要性を示したエビデンスも がん治療の効果を高めるためにも食事は重要!

監修:瀬戸山修 爽秋会クリニカルサイエンス研究所代表
取材・文:柄川昭彦
発行:2011年2月
更新:2019年7月

乳がんの再発を防ぐ低脂肪食と大豆食品

がんの治療を受けた患者さんを対象に、栄養と再発の関係を調べた研究がある。

低脂肪食と乳がんの再発の関係を調べた研究である(06年)。1~3期の乳がんで治療を受けた患者さんを対象に、栄養士などが関わって積極的に栄養指導した群と、最低限の食事指導を受けただけの非積極的群に分け、栄養摂取状況や身体の変化を調べ、再発の有無を調べたものだ。

脂肪からのエネルギー摂取は、非積極的群ではあまり変わらず、積極的群では減少。体重は、非積極的群ではやや増えたが、積極的群では減少した。そして、再発を起こした患者さんは、非積極的群が全体の12.4パーセント、積極的群では9.8パーセント。統計解析の結果、積極的な栄養指導によって、再発のリスクが低下したことがわかった(図1)。

[図1 乳がん患者における低脂肪食の効果]
図1 乳がん患者における低脂肪食の効果

出典:Chlebowski RTJ Natl Cancer Ⅰnst 2006; 98:1767-1776

もう1つ、乳がんの治療を受けた人を対象に、運動、食事、肥満と生存期間の関係を調べた研究がある(07年)。

この試験では、野菜と果物を毎日5種類以上摂取し、30分のウォーキングに相当する運動を週6回行っている人は、そうでない人に比べ、生存期間が長くなっていた(図2)。そして、この効果は、エストロゲン受容体陽性乳がん(ホルモン療法が効きやすい乳がん)の患者さんで顕著だった。

[図2 乳がん患者における野菜・果物摂取、運動の効果]
図2 乳がん患者における野菜・果物摂取、運動の効果

出典:Pierce JP et al. J Clin Oncol 2007; 25:2345-2351

「ホルモン療法が効く乳がんは、エストロゲンというホルモンが多く分泌されています。閉経後、卵巣からのエストロゲン分泌はなくなりますが、脂肪組織では作られます。だから食事や運動で体の脂肪組織を減らすことは、ホルモン療法が効く乳がんの再発予防に効果的なのでしょう」

乳がんの再発予防には、大豆食品が有効という研究も報告されている(09年)。乳がん患者の大豆食品の摂取量と再発や生存期間との関連を調べた試験だ。

それによると、大豆食品をよくとる人は、死亡のリスクと再発のリスクが低下することが明らかになった。

たとえば、大豆たんぱくの1日摂取量が15.3グラムを超える「多量摂取群」を、5.3グラム以下の「少量摂取群」と比較すると、死亡リスクは多量摂取群が29パーセント低いことがわかった(図3)。

[図3 乳がん患者における大豆食品の効果]
図3 乳がん患者における大豆食品の効果

出典:Shu XO et al. JAMA. 2009; 302: 2437-2443

「興味深いデータです。こういう結果を見ると、有効性において、化学療法などの治療とほとんど差がないかもしれないと思います」 食事療法の効果は、普通に考えられているよりずっと大きいのかもしれない。

がんを防ぐ食事もがん患者に有効

がんの食事について考えるとき、“ がんを防ぐ食事” と“ がん療養中の患者さんの食事” を分けて考えることが多い。しかし、分ける必要はない、と瀬戸山さんは言う。

「がんの増殖メカニズムは一緒ですから、がんを防ぐ食事の情報はがんの患者さんにとっても有益な情報になります。それに、がんのサバイバー(がん治療経験者)を対象にした研究は、あまりありませんが、がん予防に関するエビデンスは非常に多いのです。その情報をうまく活用すべきですね」

そこで、がん予防に役立つ食事を明らかにした研究を紹介してもらった。

◆野菜を食べる

野菜に関連していくつかの研究が報告されている。

緑黄色野菜の摂取量と肝臓がんによる死亡の関係を調べた日本の研究がある(06年)。食習慣に関する質問への回答から緑黄色野菜の摂取量を割り出し、追跡調査を行っている。その結果、緑黄色野菜を食べるのが「週1回またはそれより少ない」群に対して、男性では、「週2~4回食べる」場合だと死亡が39パーセント低下し、「毎日」食べると死亡が75パーセント低下することがわかった。

◆魚を食べる

魚介類の摂取とがんの発生に関する研究がある(06年)。サケ、ニシン、イワシ、サバなど脂肪の多い魚介類と、タラ、マグロ、エビ、ロブスターなど脂肪の少ない魚介類の摂取量を調べ、腎細胞がんの発生との関係を分析した。

わかったのは、脂肪の多い魚介類をたくさん食べる人たちは、あまり食べない人たちに比べ、腎細胞がんになるリスクが明らかに低いことである。脂肪の多い魚介類にはオメガ3脂肪酸やビタミンD3が豊富なので、それが関与しているのではないかと考えられている。

◆肥満を防ぐ

肥満ががんのリスクを高めることは、多くの研究で明らかにされている。代表的なものとして、BMI〈肥満度指数=体重(キログラム)÷身長(メートル)÷身長(メートル)〉と結腸がん、直腸がんの発生リスクの関係を調べた研究がある(07年)。その結果、BMIが高くなるほど、結腸がんや直腸がんの発生リスクが高まることがわかった。

他にも、がんと肥満との関連を明らかにした研究は多く、食道がん、肝臓がん、膵がん、胆のうがん、乳がん、前立腺がん、腎臓がん、卵巣がん、子宮体がん、多発性骨髄腫、悪性リンパ腫なども、肥満が関わっていることが明らかになっている。

[図4 がんの発生に影響する因子]
図4 がんの発生に影響する因子

出典:Harvard Center for Cancer Prevention, 1996

[図5 がん発生のリスク因子となる生活様式]

確実 喫煙 口腔がん、咽頭・喉頭がん、食道がん、胃がん、肺がん、膵がん、
肝臓がん、腎臓がん、尿路がん、膀胱がん、子宮頸がん、骨髄性白血病
肥満 食道がん、膵がん、大腸がん、閉経後乳がん、子宮体がん、腎臓がん、非ホジキンリンパ腫、多発性骨髄腫
飲酒 ロ腔がん、咽頭がん、喉頭がん、  食道がん、肝臓がん、乳がん
カビ 肝臓がん
中国式塩蔵魚 鼻咽頭がん
貯蔵肉 大腸がん
可能性大 塩蔵品・食塩 胃がん
熱い飲食物 ロ腔がん、咽頭・喉頭がん
可能性あり 動物性脂肪  
出典:WHO報告書「食物、栄養と慢性疾患の予防」(2002年)より抜粋・改変

[図6 がんのリスクを軽減する因子]

確実 身体活動 結腸がん、乳がん
野菜・果物 口腔がん、食道がん、胃がん、大腸がん、肝臓がん、
前立腺がん、肺がん
可能性あり 食物繊維 胃がん
大豆・大豆製品 乳がん
膵がんなど
ビタミンD、カルシウム 結腸がん、乳がん
コーヒー 肝臓がん
出典:WHO報告書「食物、栄養と慢性疾患の予防」(2002年)より抜粋・改変

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