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「食べられるものを食べればいい」と気軽に考えよう 抗がん剤・放射線治療中でも食事の工夫次第で無理なく食べられる

監修:稲野利美 静岡県立静岡がんセンター栄養室長
取材・文:半沢裕子
発行:2011年2月
更新:2014年11月

冷たくしたり細かくしたり。症状により工夫もさまざま

では、抗がん剤治療と放射線治療では、具体的にどんな副作用・後遺症が出るのだろう。

抗がん剤で70~80パーセントの人に出るのは吐き気とおう吐だ。一方、放射線治療の副作用は、放射線を当てた部位に出る。お腹に当てれば下痢・便秘が出て、喉に当てると口内炎や開口障害が出る、という具合だ。

それに対し、どんな工夫をすると、患者さんは食べられるのだろう。書籍では11の症状が取り上げられているので、これに従って稲野さんに聞いた。

食欲不振

「ほかの原因と複合していることが多いので、『口内炎で口が痛い』など、まずは食べたくない原因が具体的にわかれば、解決するようにします。また食べたいときにいつでも食べられるように工夫します」

吐き気とおう吐

「制吐剤をうまく使い、抗がん剤を摂取した直後に出る吐き気を防ぎます。吐き気のパターンは抗がん剤により違いますが、治療が繰り返されるに従い、パターンがわかってきます。そのタイミングを見計らって食べること。抗がん剤投与の前後は食べ過ぎず、消化のいいものを控えめに食べるようにします」

味覚の変化

「何を食べてもおいしくないため、対応の最も難しい症状です。口腔内乾燥などが引き金になっていることもあるので、そうした場合は、原因を解決していきます。基本として、変化に対症的に対応し、食べるときに、本人に最終の味加減をしてもらうのもいいようです」

嗅覚の変化

「匂いの立たない料理にします。生で食べられるもの、冷たい食べ物を主流に、煮物は匂いが立たないよう、あらかじめふたを取って出します。また、匂いが混ざらないよう、同じ器に複数入れず、単品で盛ります。家庭では匂いのする場所(台所など)で食べるのを避け、調理時間中に散歩に出る、好みのお香を焚く、などの工夫もいいようです」

口内炎

「化学的・物理的な刺激を除きます。具体的には、香辛料、熱いもの、固いものは避けます。症状を悪化させる前に口腔ケアを行うことも大切。炎症が口の中だけなら、柔らかく煮たり、あんかけにするなどで対応しますが、のどの奥まで広がったら、一時的に点滴などを利用したほうがいいかもしれません。豆腐、玉子豆腐、プリン、ヨーグルト、アイスクリームなど、口の中で溶ける食べ物や、チューブ入りのゼリー状飲料なども利用するといいでしょう」

胃の不快感

「消化のいいものを少しずつ、よくかんで食べます。繊維質や脂分の多い食べ物は避けます。パンやめんなどの炭水化物を中心に、不快感が出ない程度に混ぜご飯や具入りにします」

膨満感

「ガスの出やすい脂肪や食物繊維を控え、消化のいいものや炭水化物を中心に食べます。腸閉塞や腹水でも起こるので、症状が強いときは医師に相談を」

便秘

「意外に重症化し、腸閉塞などの原因が隠れていることも。薬が必要なこともあります。食物繊維や腸内細菌を増やす食べ物(ヨーグルト、納豆など)をとり、水分補給をします」

下痢

「下痢もいろいろな原因で起こるので、軽視しないこと。水分補給をしっかり行い、脱水症状に気をつけます。水やお茶より、ポカリスエットのようなイオン飲料がとれるなら、さらにいいでしょう」

摂食困難(開口障害)

「開口障害は、放射線を顔に当てたり、口内炎がひどくなったりしたときに起こるもので、あごが開けにくくなります。
口内乾燥も摂食困難を引き起こすので侮れません。乾燥する=唾液が減ると、食べ物の刺激が口腔内に当たり、感染症を起こしやすくなります。味が感じにくく、飲み込みも悪くなります。口当たりのいい食べ物を選び、柔らかく調理しましょう」

白血球減少

「食材や食べ物には『殺菌がしっかりされているもの』を選びます。生ものは避け、調味料などは個装のものを利用し、1回で使いきります。医療機関などにより、避けるべき食べ物の基準が違うことがありますが、かかっている施設の基準に従ったほうが無難」

つくって食べて意見を聞く、食べられるものがわかる

どんな患者さんにも共通して言えるのは「悩んで立ち止まっていないで、1歩踏み出してみてほしい」ということだ。

「年配の男性患者さんに何が食べたいかお聞きしたら、『とにかく年寄りが食べる普通のものを出せ』と言われたことがあります。とりあえずお出ししたところ、『そんなものを出せといった覚えはない』と(笑)。

患者さんも嗜好を伝えたいのですが、『食べられそうなもの』という言葉で思い浮かぶものは、人によって違います。ですから、具体的メニュー名で聞く、写真を見せて選んでもらうなど、よく話を聞くことだと思います。つくっても食べられないこともあります。『これじゃない』と叱られることもあります。でも、やりとりを通じ、食べられるものがだんだんわかってきます。

でも、やりとりに疲れてしまうと逆効果。ですから、やっぱり最大のコツは無理をしないこと。食べられなくても『そんな日もある』と考え、気にせずに再トライしてみてください」

[抗がん剤と放射線治療による症状と対策一覧(一部抜粋)]

症状 食欲不振
全身がだるく、食欲が出ない/何を食べてもおいしくない/食べなければと思うとつらい
吐き気・おう吐
胃がむかむかする/食べようとすると吐き気がする/料理のにおいで吐き気がする/おう吐したことを思い出して気分が悪くなる
    ↓ ↓
原因 抗がん剤治療 抗がん剤によって消化管の機能が低下し、食欲を生み出す脳視床下部への刺激が起こりにくくなるため。また、胃や腸は心理的要因によって影響を受けやすいため、治療中は機能低下が起こりやすい。抗がん剤が脳に直接働き、食欲不振を引き起こすこともある 抗がん剤によって消化管の粘膜が傷つく。あるいは、血液中に生じた物質が、中枢神経や腸の神経を刺激するため。副作用に対する不安や恐怖心、過去の記憶が不快感を強めることもある
放射線治療 ▼各症状の原因となる放射線照射の部位と範囲を示す
広範囲・多量/頭部と頸部/胸部と縦隔/腹部と骨盤
 
広範囲・多量/頭部と頸部/胸部と縦隔/腹部と骨盤
頭部、頸部、口腔内への照射から口の中や食道の粘膜が損傷を受けて食べにくいため、あるいは、腹部や骨盤への照射から、腸の粘膜がダメージを受けて下痢が長引くなど、主に摂食と消化器官のダメージが原因になる 食道や胃が照射範囲にあると、粘膜炎が起きて症状が出やすい。抗がん剤と併せて治療を受けているといっそう発症しやすい。心理的な要因もある
    ↓ ↓
症状をおさえる
ための工夫
食欲不振

  • 食欲不振の原因を見つけて改善する工夫をする
  • 気分のよいときを選んで食べられるものを食べる
  • 気分転換をはかり、気分よく食卓につけるようにする
吐き気・おう吐

  • 症状が起こるタイミングをはずして食べる
  • 少しずつ数回に分けて食べる
  • 胃腸に負担にならないよう、消化のよい食品を選ぶ
  • 治療前に軽く食べ、治療後は数時間、固形物をとらない
症状が現れた
ときの対策
  • 食べられそうなものを、いつでも食べられるよう用意する
  • 食欲をそそるような盛り付けや食卓の雰囲気を心がける
  • 消化がよく、栄養価の高い食品を選ぶ
  • おう吐したら1~2時間食事を控える
  • おう吐したらレモン水や冷たい番茶でうがいをする
  • 水分とミネラルをこまめに補給する
『症状で選ぶ! 抗がん剤・放射線治療と食事のくふう』より一部改変

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