抗がん剤治療中でも楽しく食べられる「副作用対策食」誕生秘話
家庭にある材料ですぐつくれる対策食レシピも配りはじめた

最近は、在宅で抗がん剤治療を行う患者さんが増えている。そうした患者さんや、患者さんに食事をつくる家族のために、パンフレットをつくったり、食事相談に乗ったりしていることは、前項でもふれたとおりだ。
それでも、「入院中はよかったけど、退院したらどうしたらいいの」「パンフレットを見ても、つくり方がわからない」といった訴えが少なくないことから、同センターでは現在、レシピをつくり、誰もが持ち帰れるように通院治療室などに置いている。立田さんはいう。
「家庭に普通にある食材を使い、だれでも簡単につくれるメニューを提案しています。患者さんが自分で料理したり、家族に料理してもらうとき、すぐつくれることが重要ですし、通院治療の女性患者さんに、少しでも楽をしてもらいたいから。治療のあと帰宅して、食事をつくるのは大きな負担ですが、家族も自分も食べられるメニューがあれば、その負担を少しは減らすことができると思うんです。

四国がんセンター時代、石長さんがスタッフとともに作成。食事への細やかな対応は、石長さんが去ったあとも引き継がれている
また、男性患者さんでも市販のものを利用して簡単につくることもできるし、料理の組み合わせの参考にすることもできる。そして、『食べないと治療できない』と悩む患者さんや、体重減少を気にする患者さんの参考になるよう、カロリーなどの情報も盛り込んでいく。そうしたレシピを心がけています」
現在、栄養管理室では患者さんと家族に向けた試食会も計画している。実際に食べてみたほうが、つくりやすいからだ。
同センターの副作用対策食は、ゆっくり着実に確立され、広がっている。最近は少しずつ外部にも知られるようになり、シンポジウムなどで医師が強い関心を示すことも少なくないという。河内さんはいう。
「私は父を腎盂がんで亡くしましたが、介護のとき、母が『世の中にはこんなに食べ物があるのに、おとうさんが食べたいものや、食べさせてあげられるものはないんだね』といった言葉が忘れられません。一生���命がんばっている患者さんに、そんな思いをしてほしくない。そのためにも、石長元室長がつくった副作用対策食を、みんなで大事に育てているのです」
「命をつなぐために食べる。だから全部食べられた満足感は大きい」
垣内淑江さん(仮名・卵巣がん・53歳)
副作用で食欲がなく、手足のしびれがあって体もだるいです。便秘もあります。抗がん剤を投与した日から3日間は、吐き気が続きます。血液中の白血球や好中球の数値が上がらないと、次の治療ができないから、食べなくちゃと思いますが、肉や魚はもともと好きじゃないうえに、ムカムカしてますます食べられません。食べ物のにおいも気になるし、味覚が変わって舌がざらざらする。食べることが仕事だと思って、吐き気止めを飲みながら食べているんです。
だから、「坊っちゃん食」はとてもありがたいです。まず、量が少ない。常食のように量が多いと、最初から食べたくなくなりますが、「ちょっと食べてみようかな」、「とにかく蓋をとってみようかな」、「気がついたら食べられた」、というのがいいですね。
最初、「どうですか」と勧められたときは、「何を食べても一緒」と思って断りました。でも、あるとき頼んでみたら気に入り、5カ月間ずっと食べています。メニューが多彩で、あっさりしたものが好きだけど、トンカツやエビフライ、焼き飯などがおいしかった。手巻き寿司は、調子の悪いときでも全部食べられました。病院の食事に出てこないような変わったものが出てくるのが楽しいです。今日食べられなくても、明日は食べられるかもしれないと思えるんです。
メニューが掲示されないから、「今日は何かな?」というのも楽しみです。食べることが楽しいと感じられるのが嬉しい。また、食べられるように気を遣い、手をかけてくれていると感じられて、とてもありがたいです。たとえば、アイスクリームは器に氷が入っていて、溶けないようになっている。見た目もおしゃれで、ほっとします。坊っちゃん食には、お店みたいな心遣いがあると思う。
私にとって、食べることは大事です。命をつなぐために食べている。ですから、「全部食べられた」という満足度は、本当に大きいんです。
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