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これまでの食事を見直し改善していくことは大切 がんになってからの食事療法は何がよいか

監修:坪野吉孝 東北大学公共政策大学院教授
取材・文:柄川昭彦
発行:2007年12月
更新:2019年7月

米国対がん協会がガイドをまとめている

がんになった人の食事療法については、アメリカ対がん協会が指標となる判定を公表している。いくつかの食事療法について、それを行うことで利益が得られるかどうかを、「再発防止」「生存期間の延長」「QOLの向上」という観点から判定している。

この表2が発表されたのは2003年。現在の段階では、これががんになってからの食事療法の基本である。 判定の記号は、次の内容を表している。

A1…利益が証明されている。

A2…おそらく利益があるが、証明はされていない。

A3…利益の可能性があるが、証明はされていない。

B…利益やリスクについて結論するだけの、十分な知見がない。

C…利益の可能性を示す知見と、有害な可能性を示す知見が、両方ある。

D…利益がないことを示す知見がある。

E…有害なことを示す知見がある。

表2を見るとわかるように、A1と判定される項目はなく、C、D、Eもない。使われているのは、A2、A3、Bの3種類だけである。

「アメリカ対がん協会は、2003年版の前に2001年に同様の表を発表しています。それには、断食療法、マクロビオティック療法、お茶、しょうがなど、十分なエビデンスはないけれど、アメリカの患者にとって関心の高い食事療法が取り上げられ、利益と害に関する判定が行われていました。2003年版でそれらが消えていますが、十分なデータがないことが、除外された原因でしょう」

ここに扱われていない食事療法は、有効性と安全性に関して十分なデータがないという判断なのだろう。がんの食事療法として知られるゲルソン療法が含まれていないのも、やはり研究データの不足と考えていい。

この表の内容について、坪野さんに解説してもらった。

1番上の段の「健康体重の維持」とは、太りすぎている人がゆるやかに減量し、やせすぎている人がしっかり食べて体重を増やすこと。それが予後にどのような影響を及ぼすかを調べている。「治療中」は治療中に体重コントロールを行うこと、「治療後」は治療後に体重コントロールをすることを示している。がんの種類によって異なるが、「A2=おそらく利益がある」「A3=利益の可能性がある」という判定が並んでいる。

「運動の増加」は、食事とは直接関係がないが、よく運動することがどのような影響をもたらすかを示している。とくに「治療後」に関しては、やはりA2やA3の判定が多い。

「摂取量の減少」は、摂取量を減らすことでどのような影響が現れるかを示したものだ。「総脂肪」は摂取カロリーに占める脂肪全体の割合(絶対量ではなく相対的な割合なので)のことだが、これを減らすことによる影響は、すべての項目で「B=結論するだけの十分な知見がない」という判定になっている。

ただ、「飽和脂肪酸」の減少では、A2やA3の判定もつくようになる。飽和脂肪酸とは、動物性脂肪(魚油を除く)に多く含まれる脂肪酸で、牛肉や豚肉など赤身の肉、あるいは乳製品などに多く含まれている。

「摂取量の増加」は、摂取量を増やすことでどのような影響が現れるかを示している。「野菜と果物」では、A2やA3の判定が並ぶが、「食物繊維」「n-3系脂肪酸」「大豆」ではB判定が中心となる。n-3系脂肪酸とは、DHAやEPAなどのいわし、さばなどの魚油に含まれる脂肪酸のことである。

「科学的に言えば、A1とA2が実践段階の話で、A3は可能性がある研究段階の話ということになります。Bも研究段階ということですね。ただ、ここに取り上げられている項目は、特殊な食事療法やサプリメントではなく、ごく日常的なものばかりです。だから、A3だから意味がないとか、Bだからやめたほうがいい、ということではありません。現在の段階では、はっきりとは確認されていないということ。A3の判定でも、積極的に取り入れる価値があると思いますよ」

がんになってからの食事療法に関しては、表2の内容が基本となる。ここでA2、A3と判定されている項目は、実施する価値があると考えていいだろう。動物性脂肪(魚油を除く)を抑えた低脂肪食や野菜、果実の摂取はがん患者にとって好ましいといえそうだ。

[表2 がん生存者の食事と予後]

    乳がん 大腸がん 肺がん 前立腺がん
再発 生存 QOL 再発 生存 QOL 再発 生存 QOL 再発 生存 QOL
健康体重の維持 治療中 A3 B B A3 B B A3 A2 A2 B B B
治療後 A2 A2 A2 A3 A2 A2 A3 A2 A3 B A2 A3
運動の増加 治療中 B B A2 B A3 A2 B B B B B A3
治療後 A3 A3 A2 A3 A2 A2 B A2 A3 B A2 A2
摂取量の減少 総脂肪 B B B B B B B B B B B B
飽和脂肪酸 B A2 A3 A3 A3 B B A3 B A3 A2 B
摂取量の増加 野菜と果物 A3 A3 B A3 A3 B A2 A3 B A3 A2 A3
食物繊維 B B B B A3 B B B B B B B
n-3系脂肪酸 B B B B B B B A3 B B B B
大豆 B B B B B B B B B B B B
低脂肪食や野菜、果物の摂取は積極的に取り入れる価値がある 米国対がん協会の判定(2003)


メタアナリシスによって明らかになったこと

アメリカ対がん協会が、がんになった人の食事に関する指標を発表した2003年以降も、数々の興味深い研究が報告されているという。その中から、とくに興味深い研究をいくつか紹介してもらった。

1つは、2006年に報告されたメタアナリシスである(表3)。メタアナリシスというのは、複数のランダム化比較試験を統計学的にまとめ、総合的に評価する研究方法だ。

このメタアナリシスでは、がん患者を対象とした研究25件と、前がん病変の保有者を対象とした研究34件、合計59件のランダム化比較試験について調べている。減量や食事指導を行った研究と、抗酸化微量栄養素などのサプリメントを補給した研究を対象とした。

がん患者を対象とし、食事指導を行った研究は8件。食事指導の内容は、「バランスの取れた食事」「肥満者の減量」「低脂肪食」「野菜や果物の増加」などだった。残りが、抗酸化微量栄養素などのサプリメントを補給した研究である。これらの研究について、「全死因死亡率」「当該がんの死亡率」「再発率」などに関して整理して結果を出している。

食事指導に関しては、指導した群としない群の比が示されている。1.00より小さい数値であれば、リスクが低下したことを意味する。当該がん死亡率など、かなり下がっているように思えるが、ここに示された数値は、いずれも有意差はないという。統計的には誤差の範囲に留まる結果で、必ずしもリスク低下を意味していない。

抗酸化微量栄養素の補給に関しても、やはりいずれも有意なリスク低下にはなっていないという。

「このメタアナリシスから得られた結論は、これまでの多くの研究を合わせても、食事指導や抗酸化サプリメントによって、死亡率や再発率が改善するかどうかはよくわからない、ということです。つまり、『わかっていないということが、わかった』ということですね」

と坪野さんは話す。

[表3 がん患者の食事療法のメタアナリシス]

[食事指導の相対リスク]

・全死因死亡率(4件) 0.90(0.46~1.77)
・当該がん死亡率(3件) 0.53(0.16~1.79)
・再発率(4件) 1.03(0.18~5.93)

[抗酸化微量栄養素の相対リスク]

・全死因死亡率(7件) 0.90(0.46~1.77)
・当該がん死亡率(2件) 0.53(0.16~1.79)
・再発率(3件) 1.03(0.18~5.93)
※件数は研究数を表す (J Natl Cancer Inst 98:961-973,2006)


1.00より小さい数値は、リスクが低いことを意味する。しかし、統計的には誤差の範囲に留まる結果となっている

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