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大腸がんの食事 食事は楽しく、時間をかけて

監修●須永将広 国立がん研究センター中央病院栄養管理室主任栄養士
取材・文●山下青史
発行:2013年6月
更新:2019年9月

食べ物に制限なし、ただし腸閉塞に注意

■表4 大腸がんのおすすめの食品、避けるべき食品

おすすめ食品 避けるべき食品
肉その加工品 皮なし鶏肉、鶏ささ身、牛豚赤身肉、レバー、アジ、カレイ、スズキ、サケ、タラ、ヒラメ、カキ、はんぺんなど 脂肪の多い肉(バラ肉、ハム、ベーコンなど)貝類、イカ、タコ、スジコ、塩辛など
豆豆製品 豆腐、ひき割り納豆、きな粉など 大豆(いり大豆、煮豆)、枝豆
乳乳製品卵 牛乳、ヨーグルト、乳酸飲料、チーズなど卵(鶏卵、うずら卵など) 制限する食品はありません
野菜 かぼちゃ、カリフラワー、かぶ、キャベツ、大根、にんじん、トマト、なす、白菜、ブロッコリーなど、梅干し 食物繊維が多い野菜(ごぼう、竹の子、ねぎ、れんこん、ふき、乾物、きのこなど)
海藻(昆布、わかめ、海苔、ひじきなど)干し野菜の漬物(たくあん、つぼ漬けなど
芋果物 じゃが芋、里芋、長芋、大和芋など、缶詰めの果物、りんご、バナナ、桃、洋梨など 繊維の多いもの(パイナップル、さつま芋、こんにゃく、しらたき、ドライフルーツなど)酸味の多い果物(柑橘類)
穀物 粥、軟飯、うどん、マカロニ、精白小麦粉のパン 玄米、赤飯、胚芽・雑穀・全粒粉入りパンや麺、ラーメン
調味料 植物油、バター、マーガリン、マヨネーズなど ラード、ヘット(牛脂)などの動物性油脂。からし、カレー粉、わさびなどの辛味調味料
嗜好品 番茶、ほうじ茶、麦茶、薄い紅茶、薄いコーヒー、ビスケット、カステラ、ウエハース、パンケーキ、ゼリーなど
炭酸飲料、アルコール、濃いお茶、濃いコーヒー、揚げ菓子、豆菓子、辛い煎餅など

お通じによいとされる食物繊維などは、大腸がんの手術後には腸閉塞を起こす可能性があるのでなるべく避ける
参考:国立がん研究センターがん対策情報センター

腸閉塞の症状はないか

大腸の手術後にとくに注意したいのが、腸閉塞だ。腸閉塞とは、小腸や大腸が詰まって内容物が流れなくなった状態のこと。術後に発症する腸閉塞は、臓器同士の癒着や吻合部(縫い合わせた部分)の狭窄が主な要因だ。手術の方法によってリスクが異なるが、開腹手術のほうが内視鏡的手術より腸閉塞のリスクは高い。

過去に腹部の手術経験があればよりリスクが増す。腸閉塞は吻合部が治癒する過程で起こりやすく、術後1~2カ月間が要注意期間だ。腸閉塞の主な症状は腹痛、嘔吐、便やおならが出なくなる。そういった症状が起こったときは、直ちに受診すべきだ。

野菜への見方を変える

大腸は食べ物の消化を行わないので、基本的に食べてはいけないものはない。

しかし、腸閉塞を起こさないために気をつけるべき食品はある。とくに注意したいのが不溶性食物繊維を多く含んだ食品だ。健康な人には便通によいとされる食物繊維だが、大腸の術後には腸閉塞の要因ともなるのだ。

「術後は野菜のとらえ方を180度変えなくてはいけません。たとえば海藻類、キノコ類、ゴボウやタケノコといった不溶性食物繊維の多い野菜は、一般的にお通じによいとされていますが、消化管の術後にはかえってよくありません」と須永さんは話す。

日本の伝統的なおせち料理には、煮豆、レンコン、昆布といった食物繊維の多い食品が使われている。

「年末には食生活の乱れで腸内にいわゆる〝悪玉菌〟が増える環境になりやすく、さらにゆっくりとお正月を過ごすことで、活動量が低下して腸の動きも低下し、また、こたつに入って汗をかくことで水分不足となるなど、『便秘』の環境がそろってきます。そのうえ、不溶性食物繊維の多いおせち料理を食べることで、便秘から腸閉塞になって来院される患者さんもいます」

消化の良くないものは避ける

基本的には、術後1~2カ月かけて手術の傷口は徐々に回復してくるので、食品に気をつける期間は、食事の分食と同じく、100日が通常の食事に戻す1つの目安だ。体調と相談しながら食事を調整すればよいだろう。

しかし、「注意を要する食品」が、「決して食べてはいけないもの」と過剰にとらえないほうがよい。

よく噛んで、ゆっくりと時間をかけて、そして量や組み合わせに気をつければ、「決して食べてはいけないもの」とはならない。固いものは調理方法を工夫したり、よく咀嚼して食べるのが、腸閉塞を防ぐポイントだ。

例えば、トウモロコシを食べると、そのままの形が便に混じって排泄される。これは、途中で消化されずに消化管を移動しているからだ。これが大腸の吻合部の狭くなった場所に大量に流れてくると停滞の要因となることは、容易に想像できるだろう。

しかし、このトウモロコシがコーンスープ(粒のない)になると、固形物を含まず、さらさらと流れやすいので、腸閉塞の原因にはなりにくい。同様に、ひじきなどの海藻は、繊維質が多く、そのままの形状で排便しやすく、腸閉塞につながりやすいが、「海苔のつくだ煮」のように固形物を含まない形態となれば大丈夫だ。

食品を選んで外食を楽しむ

表4では、左側が大腸にやさしい食品だ。退院したら、外食も楽しみたい。

たとえば、親子丼なら、量は別として、使っている食材は鶏肉、玉ねぎなど消化の悪い物ではない。うどんも具に気をつければ外食も楽しめる。

和食では、茶碗蒸しや卵焼きがおすすめのメニュー。すき焼きに入っている豆腐、白菜、牛赤身肉などはおすすめ食品である。

アルコールの摂取は慎重に

お酒は水分を摂っているようだが、実はアルコールの分解には体内の水分が大量に使われるので、アルコールの摂取は水分不足を引き起こす。

また、アルコールは腸内細菌の悪玉菌のエサになるので腸内環境にもよくない。飲酒の開始は経過を見ながら、主治医と相談するのがよい。

排便の調節

術後の軟便や下痢、便秘に対しては、一番すすめられるのが、ヨーグルトなどの乳酸菌飲料だ。ただし下痢のときには、冷たいものは避ける。頻便のケースは、大腸切除によって便を溜める力が落ちたり、排泄の神経が傷ついたりして起こる。これは、数カ月~1年かけて気長に体を慣らしていく。

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