仕事、教育費、相続問題まで、がんにかかわるお金のよろず相談に応じます! 医療費で困ったら、「ソーシャルワーカー」に駆け込もう

監修:宮内佳代子 帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室課長
取材・文:半沢裕子
発行:2010年8月
更新:2019年7月

ソーシャルワーカーの相談簿から

海野忍さん

ソーシャルワーカーの支援でがん患者さんが医療費の悩みを解決できた事例を、帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室の海野忍さんに聞いた。

手術の入院費を立て替えなくてすんだ

神奈川県在住のAさん(56歳、女性)は、胃がんの手術目的で入院を勧められたが、入院の予約を躊躇したため、医師からソーシャルワーカーを紹介された。ソーシャルワーカーが話を聞いたところ、Aさんは一人暮らしで、親や兄弟も遠方にいるという。医療費も含めた入院の準備が整わず、医療費がいくらかかるかわからない状態では、入院するのは不安だとAさんは訴えた。

そこで、ソーシャルワーカーは、Aさんの勤務先の健康保険組合で取り扱っている「限度額適用認定証」の取得を勧めた。

この制度を利用すると、1医療機関への支払いを自己限度額までにとどめることができる。

Aさんの場合、毎月の所得が53万円以下の一般の区分に該当しており、医療費は1カ月当たりの保険負担外の食費も含め、10万円前後になるとわかった。Aさんは入院前にこれらの手続きを済ませ、入院費用を事前に用意し、安心して治療に専念することができた。

外来化学療法の費用を立て替えずにすんだ

自営業のBさん(41歳)は、大腸がんの化学療法の治療で通院中。分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)を服用しており、1カ月の外来医療費が約15万~20万円かかる。月々の収入は乏しく、貯金を取り崩しながら生活していた。生活費の工面がつかなくなり、ソーシャルワーカーに相談した。

入院医療費が中心の限度額適用認定証では、外来医療費は一部の人以外、該当しない。そこで、ソーシャルワーカーは、Bさんの加入している国民健康保険の「高額療養費委任払い」を紹介。この制度は、保険者と医療機関の契約が必要で、医療機関の了承が得られると患者は申請することができる。高額療養費を保険者が直接、医療機関に支払うため、患者の負担は自己負担限度額のみとなる。高額療養費委任払いが利用できない場合でも、高額療養費貸付制度によって、支給見込み額の9割以内を無利子で貸付けてもらえる。Bさんは、高額療養費委任払いを利用し、負担を軽減することができた。


[ソーシャルワーカーが勧める医療費助成制度]

医療費の
助成
対象 申請
窓口
制度の内容 入院 外来 所得
区分
��額療養費 自己負担限度額
高額療養費 70歳未満 保険者 医療機関に自己負担限度額を超えて支払った医療費が2~3カ月後に返金
入院、外来別の計算
診療科ごと、月単位の計算
上位
所得
150,000円+(総医療費-500,000円)×1%
(多数該当*1:83,400円)
高額療養費
貸付制度
保険者 事前申請により高額療養費相当分の8~9割を受け取り、残り1~2割は2~3カ月後に精算 一般 80,100円+(総医療費-267,000円)×1%
(多数該当*1:44,400円)
高額療養費
委任払い
保険者 事前申請により、医療費を自己負担限度額までにする制度
申請月の1日から有効
1カ月単位で申請する必要あり
当月以前への適応は交渉可
低所得 35,400円
(多数該当*1:24,600円)
限度額適用認定証:課税世帯限度額適用・標準負担額減額認定証:非課税世帯 保険者 事前申請により、入院医療費を自己負担限度額までにする制度。非課税世帯は食事代の減額あり
申請月の日から有効
(過去に戻って該当できない)
認定期間は1年間



高齢
受給者証
70歳~75歳未満 保険者 現役なみ収入が3割負担、一般と低所得は1割負担。入院医療費は自己負担限度額まで請求される。外来は限度額を超えると高額療養費として返金あり。70歳未満との合算可。入院と外来の医療費が同じ月なら合算可 70歳未満との合算が可能
支払った医療費が21,000円以下でも、同一世帯なら合算される
上位
所得
外来
(個人単位)
外来+入院(世帯単位)
44,000円 80,100円+
(総医療費-267,000円)×1%
(多数該当*1:44,400円)
一般 12,000円 44,400円
後期高齢医療
受給者証
(1)
75歳以上
(2)
65~74歳
(障害あり)
居住地
の役所
高齢受給者証と同じ内容
75歳以上との合算可
一般 12,000円 44,400円
低所得
I
8,000円 24,600円
低所得
II
15,000円
限度額適用・標準負担額減額認定証 (1)
70歳以上
(2)
非課税世帯
保険者 認定証を医療機関に提示すると、入院医療費は低所得I、IIの自己負担額で計算される。食事代の減額あり。外来医療費は2、3カ月後に自己負担限度額(8,000円)の超過分が返金


低所得
I
24,600円
低所得
II
15,000円

 在宅時医学総合管理料、在宅末期医療総合診療対象者
*1 多数該当=同一世帯で1年間に3回以上高額医療費の支給を受けた場合、4回目から自己負担限度額が安くなる
 外来医療費は、入院医療費の自己負担限度額を超えた金額と合算して返金される


1 2

同じカテゴリーの最新記事