仕事、教育費、相続問題まで、がんにかかわるお金のよろず相談に応じます! 医療費で困ったら、「ソーシャルワーカー」に駆け込もう
ソーシャルワーカーの相談簿から

ソーシャルワーカーの支援でがん患者さんが医療費の悩みを解決できた事例を、帝京大学医学部付属溝口病院医療相談室の海野忍さんに聞いた。
手術の入院費を立て替えなくてすんだ
神奈川県在住のAさん(56歳、女性)は、胃がんの手術目的で入院を勧められたが、入院の予約を躊躇したため、医師からソーシャルワーカーを紹介された。ソーシャルワーカーが話を聞いたところ、Aさんは一人暮らしで、親や兄弟も遠方にいるという。医療費も含めた入院の準備が整わず、医療費がいくらかかるかわからない状態では、入院するのは不安だとAさんは訴えた。
そこで、ソーシャルワーカーは、Aさんの勤務先の健康保険組合で取り扱っている「限度額適用認定証」の取得を勧めた。
この制度を利用すると、1医療機関への支払いを自己限度額までにとどめることができる。
Aさんの場合、毎月の所得が53万円以下の一般の区分に該当しており、医療費は1カ月当たりの保険負担外の食費も含め、10万円前後になるとわかった。Aさんは入院前にこれらの手続きを済ませ、入院費用を事前に用意し、安心して治療に専念することができた。
外来化学療法の費用を立て替えずにすんだ
自営業のBさん(41歳)は、大腸がんの化学療法の治療で通院中。分子標的薬のアバスチン(一般名ベバシズマブ)を服用しており、1カ月の外来医療費が約15万~20万円かかる。月々の収入は乏しく、貯金を取り崩しながら生活していた。生活費の工面がつかなくなり、ソーシャルワーカーに相談した。
入院医療費が中心の限度額適用認定証では、外来医療費は一部の人以外、該当しない。そこで、ソーシャルワーカーは、Bさんの加入している国民健康保険の「高額療養費委任払い」を紹介。この制度は、保険者と医療機関の契約が必要で、医療機関の了承が得られると患者は申請することができる。高額療養費を保険者が直接、医療機関に支払うため、患者の負担は自己負担限度額のみとなる。高額療養費委任払いが利用できない場合でも、高額療養費貸付制度によって、支給見込み額の9割以内を無利子で貸付けてもらえる。Bさんは、高額療養費委任払いを利用し、負担を軽減することができた。
医療費の 助成 | 対象 | 申請 窓口 | 制度の内容 | 入院 | 外来 | 所得 区分 | ��額療養費 自己負担限度額 | |
---|---|---|---|---|---|---|---|---|
高額療養費 | 70歳未満 | 保険者 | 医療機関に自己負担限度額を超えて支払った医療費が2~3カ月後に返金 *入院、外来別の計算 *診療科ごと、月単位の計算 | ◎ | ◎ | 上位 所得 | 150,000円+(総医療費-500,000円)×1% (多数該当*1:83,400円) | |
高額療養費 貸付制度 | 保険者 | 事前申請により高額療養費相当分の8~9割を受け取り、残り1~2割は2~3カ月後に精算 | ◎ | ◎ | 一般 | 80,100円+(総医療費-267,000円)×1% (多数該当*1:44,400円) | ||
高額療養費 委任払い | 保険者 | 事前申請により、医療費を自己負担限度額までにする制度 *申請月の1日から有効 *1カ月単位で申請する必要あり *当月以前への適応は交渉可 | ◎ | ◎ | 低所得 | 35,400円 (多数該当*1:24,600円) | ||
限度額適用認定証:課税世帯限度額適用・標準負担額減額認定証:非課税世帯 | 保険者 | 事前申請により、入院医療費を自己負担限度額までにする制度。非課税世帯は食事代の減額あり *申請月の日から有効 (過去に戻って該当できない) *認定期間は1年間 | ◎ | △条 件 あ り | ||||
高齢 受給者証 | 70歳~75歳未満 | 保険者 | 現役なみ収入が3割負担、一般と低所得は1割負担。入院医療費は自己負担限度額まで請求される。外来は限度額を超えると高額療養費として返金あり。70歳未満との合算可。入院と外来の医療費が同じ月なら合算可 | ◎ | ◎ | *70歳未満との合算が可能 *支払った医療費が21,000円以下でも、同一世帯なら合算される | ||
上位 所得 | 外来 (個人単位) | 外来+入院(世帯単位) | ||||||
44,000円 | 80,100円+ (総医療費-267,000円)×1% (多数該当*1:44,400円) | |||||||
一般 | 12,000円 | 44,400円 | ||||||
後期高齢医療 受給者証 | (1) 75歳以上 (2) 65~74歳 (障害あり) | 居住地 の役所 | 高齢受給者証と同じ内容 75歳以上との合算可 | ◎ | ◎ | 一般 | 12,000円 | 44,400円 |
低所得 I | 8,000円 | 24,600円 | ||||||
低所得 II | 15,000円 | |||||||
限度額適用・標準負担額減額認定証 | (1) 70歳以上 (2) 非課税世帯 | 保険者 | 認定証を医療機関に提示すると、入院医療費は低所得I、IIの自己負担額で計算される。食事代の減額あり。外来医療費は2、3カ月後に自己負担限度額(8,000円)の超過分が返金 | ◎ | ☆条 件 あ り | 低所得 I | ― | 24,600円 |
低所得 II | 15,000円 |
△ 在宅時医学総合管理料、在宅末期医療総合診療対象者
*1 多数該当=同一世帯で1年間に3回以上高額医療費の支給を受けた場合、4回目から自己負担限度額が安くなる
☆ 外来医療費は、入院医療費の自己負担限度額を超えた金額と合算して返金される
同じカテゴリーの最新記事
- がん患者、もう1つの闘い。お金が続かなければ……
- 仕事、教育費、相続問題まで、がんにかかわるお金のよろず相談に応じます! 医療費で困ったら、「ソーシャルワーカー」に駆け込もう
- 高額な医療費についての患者実態調査から見たがん家計の真実 つらいよ! がん患者が悲鳴を上げる高額な医療費生活
- 「患者が薬を選ぶ時代」にあって、信頼があり、より安価なジェネリック薬の選び方 積極的にジェネリック薬を利用して医療費を節約しよう
- 明細書は、患者が質問しやすくしてくれるツールである スーパーでレシートをチェックするように、「診療明細書」もチェックしてみよう
- アスベスト(石綿)健康被害者よ、救済の道を知って! 認定されれば、これだけの医療費、療養手当等が支給されます
- 高額療養費制度・高額医療費制度を上手に利用していますか 【大腸がんの化学療法を受けた場合】
- 福島県立医科大学・相良浩哉医師が提案するがん患者への経済的サポート 高額な医療費問題 こうして切り抜けよう