高額な医療費についての患者実態調査から見たがん家計の真実 つらいよ! がん患者が悲鳴を上げる高額な医療費生活

監修:児玉有子 東京大学医科学研究所特任研究員
取材・文:半沢裕子
発行:2010年8月
更新:2013年9月

グリベックだけでない全疾病で考えるべき

アンケートは09年12月に開始し、ほかのがんを含む74疾病の患者さん227人から回答が集まった(有効回答)。

結果を見ると、グリベック・アンケートのときと同じく、世帯総所得は04年と比べて下がり(中央値で450万円→430万円)、負担感は1.5倍近くアップしている。そして、今回新たに「月々の支払い可能金額」という項目をつくったところ、「1万円」(中央値)という結果が出たのだ。

もう少し見てみよう(数値はいずれも中央値)。疾患ごとに結果を見ると、乳がんの患者さん(8名)の世帯所得は約350万円で、年間55万円の医療費がかかり、分子標的薬ハーセプチン(一般名トラスツズマブ)、抗がん剤ノルバデックス(一般名タモキシフェン)などが最も負担となっている。

卵巣がんの患者さん(6名)の世帯所得は625万円で、年間70万円の医療費がかかり、前述したようにドキシル(一般名ドキソルビシン塩酸塩リポソーム)やタキソール(一般名パクリタキセル)などが最も負担となっている。

生活習慣病ではなく、自己免疫系疾患である1型糖尿病の患者さん(33名)の場合、年齢は37歳と若く、世帯所得が490万円、年間医療費が20万円。

単純に数値だけを見ると、がんの患者さんより負担が少ないのではと思われるが、じつは1型糖尿病の患者さんからも多くの回答が寄せられている。

「高額な医療費を長期に、場合によっては生涯、払い続けなければならないこと」は、まさに疾病・年齢・生活の違いにかかわりなく、すべての患者さんを不安と負担感で押しつぶし、「希望をもって普通に生活する」道を阻む障害になっているのだ。

苦しい現状に従来の制度が追いついていない

「長期生存できる患者さんが増えたことが、逆に『長期的に高額な医療費を負担しなければならない人の数』を増やしている。でも、それは、従来の制度では機能しない状況が生じているということ。今までは長く飲み続けるといっても、薬価は高くて1錠300円くらいですからね(脂質異常症(高脂血症)、高血圧など)。

すべてが申請主義で、『知らないあなたが悪い』という高額療養費制度のあり方も、いかがなものかと思います。患者さんが気づかなくても、『あなたの医療費は戻ります。手続きしてください』と教える窓口がもっとあっていいし、そもそも、高額な医療費を患者さんが1度払ってから、数カ月後に払い戻すのではなく、最初から自己負担分を払えばいいようにするべき。そのほうが医療事務費もかからないはずなのに、今なお続けているのは本当に不思議です」

がんの患者さんから声が上がった高額医療費の問題。その対策はまだ本当に始まったばかりだが、新しいシステムを作り出すのはこれからが正念場。

医療費の問題はだれにでも関係があることなのだから、病気の人も健康な人も、みんなで関心をもって見守っていくことが必要だろう。


高額療養費制度Q&A

Q 高額療養費にあたらない費用は?

A 入院時の食事代や差額ベッド代、診断書などの書類作成費用などです。

Q 申請は誰がするの?

A 高額療養費の払い戻しを受けるには、原則として本人の申請が必要です。

Q どこで申請できるの?

A 国民健康保険の方は、払い戻しの対象になる場合は、市町村より通知が郵送されます(一部市町村を除く)。通知書の他に保険証・印鑑・病院で支払った領収書・振り込み口座のわかるものを持参して、市町村の国民健康保険課担当窓口で手続きをしてください。健康保険(協会けんぽなど)の方は、特に通知は届きませんので、社会保険事務所などで申請手続きが必要となります。手続き時には、保険証・印鑑・病院で支払った領収書・振り込み口座のわかるものが必要です。詳細については、保険証に記載のある各保険者にお問い合わせください。

Q いつ頃申請できるの?

A 医療機関にかかった翌月以降に申請してください。

Q 払い戻しはいつ?

A 払い戻しの決定は、病院からの診療報酬明細書(レセプト)の審査を経て行いますので、約3カ月程度かかります。

Q 申請を忘れてしまったら?

A 保険者にもよりますが、2年程度さかのぼって請求できる場合があります。詳しくは各保険者にお問い合わせください。

Q 同居家族の医療費の合計は高額医療費に申請できるの?

A 同一世帯で、同一月に自己負担額が21,000円以上の支払いが2カ月以上ある場合は、それぞれの医療費を合算し、その自己負担限度額を超えた分が高額医療費として払い戻されます。

Q 入院時に高額療養費制度を利用したいときは?

A 70歳以上の方、未満の方で手続きが違います。

(1)70歳以上の方

窓口での支払いは、自動的に自己負担限度額分を上限に計算されますので、そのままお支払い下さい。

(2)70歳未満の方

事前に申請した自己負担限度額適用認定証を入院時に提示することで、窓口での支払いは自己負担限度分になります。
手続きの仕方
1.入院前に「自己負担限度額適用認定証」を保険者に申請し、交付を受ける
2.入院時に、病院の窓口に認定証を提示する
3.毎月の支払い時、もしくは退院時の支払い時に、自己負担限度額までの医療費を支払う

Q 医療費が高額で、一時払いも難しいときは?

A 「高額療養費の貸付」と「受領委任払い」という2種類の方法があります。

高額療養費の貸付

〈協会けんぽ・船員保険の方〉
高額療養費が払い戻されるまでの間、医療費の支払いなど当座の資金として高額療養費支給見込み額の8割相当額を無利子での貸付制度があります。健康保険証に記載のある社会保険事務所までお問い合わせ下さい。手続きの際、医療機関からの請求書、保険証、印鑑が必要となります。
〈国民健康保険の方〉
市町村によって、貸付を受けられる金額や、申請窓口が異なります。市町村の国民健康保険担当課にお問い合わせください。

受領委任払い

高額療養費貸付制度に似たしくみで、高額療養費の受領委任払いがあります。これは、自己負担分を医療機関の窓口で納め、高額療養費分を保険者から医療機関に納める方法です。実施の有無、形態、手続きなど詳しくは保険証に記載のある各保険者までお問い合わせください。

★平成20年4月から、医療保険と介護保険の自己負担額を合わせた額を軽減する制度、「高額医療・高額介護合算制度」が新たに設けられています。詳しくは、保険証に記載のある保険者までお問い合わせ下さい

参考:「がんよろず相談Q&A第1集」、「医療費のしくみ 保険診療の話、高額療養費制度の紹介」

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