「患者が薬を選ぶ時代」にあって、信頼があり、より安価なジェネリック薬の選び方 積極的にジェネリック薬を利用して医療費を節約しよう

監修:中津裕臣 国保旭中央病院泌尿器科主任部長
取材・文:「がんサポート」編集部
発行:2010年8月
更新:2019年8月

ジェネリック薬を選ぶ臨床医の目

ジェネリック医薬品とは、新薬として開発された先発薬が成分やその製造方法に対する特許権を失ったあと、開発メーカー以外の製薬会社がその特許の内容を利用して製造できる主成分の同じ医薬品のこと。したがって、最初から新薬を開発するのに比べたら膨大な研究開発費を投じる必要がなくなるため、先発薬よりも価格を低く販売できるメリットがある。患者個人の負担が軽減されると同時に、国全体で見れば今や年々増大する医療費の削減にも大きく貢献できるため、現在、厚労省では積極的な利用を促す方針だ。

「ジェネリック薬の先発品との違いは、実際の効果という点です。先発品は治験によって臨床上の効果が実証されているわけですけど、ジェネリックは先発品と同じ成分を含んでいることが書類上証明されるだけですから、実際の使用データがないわけです。その実績がないところにどうしても一抹の不安が付きまといますね」

また、ジェネリック薬の場合、添加物については各メーカー独自の開発となるため、薬の性質によっては添加物に付随する技術で品質に差が出てしまうものもあるという。

「薬には、徐放剤といって主成分が時間をかけて徐々に溶けるようコーティングしているものがあるんです。このコーティングの技術が変わると一気に体に吸収されてしまうといったことが起きる。かつておしっこの薬に典型例があったんですが、じわじわと溶ける先発薬はおしっこがよく出るようになって副作用もなかった。ところが、コーティングが違うのか、一気に溶けるジェネリック薬を飲んだ人に立ちくらみが出た。つまり、一気に吸収したため膀胱だけに効くんじゃなくてほかにも効いて血圧が下がってしまった、ということですね。とくに強い薬の場合は、先発薬にはない副作用が出たりすることがある。こちらとしては事前にきちんとした情報が欲しいのに、これではとても信頼して使うわけにはいかないわけです」

このあたりが、臨床医としては慎重にならざるを得ない理由なのである。

薬の信頼感はどこから生まれるか

では、中津さんが選んだビカルタミド錠「NK」は信頼できる薬なのだろうか。これを選択した理由はどこにあるのだろうか。

「このお薬を採用した理由は、1つには、さっき述べた徐放剤のような複雑なタイプの薬ではないこと。そのため、主成分が同じであれば、それだけで同等の効果が期待できます。それからこのビカルタミド錠「NK」を製造しているメーカーは、抗がん剤の先発薬も作っている実績がある点です。しかもこの会社はこの薬について、市販後の副作用調査に取り組んでいます。売りっぱなしではなくて、各病院での副作用のデータ収集を独自に行って提供してくれます。たとえば患者さんに予想もしない症状が見られたときに問い合わせれば、過去に同じ報告があるかどうか迅速に答えてくれる。こうしたフォローアップは、病院としても大きな信頼感につながります」

もちろん、こういう体制はすべてのジェネリックメーカーがとれるわけではない。薬価を下げるため、研究開発費のみならずさまざまにコストダウンを図るのが通常だ。しかし削るべきものと残すべきものの判断が的確であれば、医療現場も安心できるというわけだ。

「この病院は、治療効果が同等ならなるべくジェネリック薬を使おうという方針なので、まず薬剤部ですべてのジェネリック薬について、効果に問題がないか? 製造会社は信頼できるか? などを調査します。そこで選び抜かれたものについて、さらに各診療科で医師が検討するのです。つまり薬剤師と医師が連携して綿密に調査し、1つひとつのジェネリック薬を採用しているのです」

常に最良の選択ができる体制へ

国保旭中央病院の患者には、高齢の年金生活者も多く、そのため限られた生活費の中から月3~4万円の治療費をねん出するとなると、臨床医として見ていて痛々しいケースもなかにはあるという。

「先ほどの前立腺がんの治療の場合、骨転移のある患者さんに最も治療効果が期待できるのは、注射薬と飲み薬と骨転移を抑える薬の全てを使う治療です。ところが、実際に費用のことを考えて、注射だけにしてくださいとか、飲み薬だけにしてくださいなどと訴えてくる方がいらっしゃいます」

治療プランを説明したうえで、それでも「飲み薬は控えたい」などの選択をされてしまえば患者の意向に従うしかない。

「注射だけの治療が必ずしも間違いとは言えませんから、その方の生活に合わせて選んでいく形になります」

飲み薬をやめる選択をして残念ながら再発した患者にしてみれば「やれることをやらずに再発した!」という後悔が残り、再発していない患者にしても常に再発の不安に駆られる生活になる。逆に家計の負担になってもできるだけの治療をしたいという患者はただでさえ苦しい年金生活がさらに圧迫される。もちろん、ほとんどの患者は効果を最優先させて1番効く方法を選ぶ。しかしそういう患者の中にも、費用の高さを我慢して頑張っていることがありありと見て取れるケースも多いという。口に出さないから負担になってないというわけではないのだ。

「内服薬にジェネリックを取り入れただけでも窓口で支払うお金が安くなりますよね。その金額を見て『ほぅ! 安くなるのかぃ!?』と喜んでいる方がいらっしゃいました。もちろん効果に不安を感じたら喜べないでしょうけど、私たちはきちんと説明していますから」

ビカルタミド錠「NK」を採用して1年以上。当初、病院の方針で切り替えが決まってジェネリック薬の説明をした時に、それでも前の薬が欲しいと言った患者はいなかったという。このあたりは担当医との信頼の深さにもよるだろうが、がん治療での費用負担の問題がいかに大きいかという証左といえまいか。

「医薬品の選択も自己責任」の時代?

中津さんの勤める国保旭中央病院では、すべての薬が院内処方なので患者は信頼できる医師の指導のもとにジェネリック薬を選択できる。しかし、実はこの4月から院外処方の方式が変わり、調剤薬局では患者の判断で薬を変更できる自由度が格段に増した。しかも国は各薬剤師が積極的にジェネリック薬への転換に努めなければならないという指示まで出している(「処方せんに記載された医薬品の後発医薬品への変更について」平成22年3月5日保医発0305第12号)。都市部の病院などで院外処方せんを受け取ったような場合、今後はそれぞれの調剤薬局で患者自身の判断で調剤変更を迫られるケースが増えることになるのだ。

こうした場合、たとえばビカルタミドを主成分とするジェネリック薬だけをとってもすでに19種類(平成22年5月現在)。この中から、本当に効果や安全性が信頼でき治療費を軽減してくれる薬を選び出すなど、患者個人の力では至難の業であろう。

そんなときの1つの判断基準としてビカルタミド錠「NK」の例のように、実績あるジェネリック薬の名前を記憶しておくやり方も重要になるかもしれない。「医薬品の選択も自己責任」の時代になったということか。

[先発品普及率]
図:ジェネリック医薬品の国内シェアの年次別推移
図:各国の後発医薬品シェア

直近のデータでは、平成21年9月現在の日本の後発医薬品の数量シェアは20.2%。厚生労働省では「平成24年度までに、後発医薬品の数量シェアを30%以上にする」との目標を掲げている(グラフデータ提供:IMS)


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