高額療養費制度・高額医療費制度を上手に利用していますか 【大腸がんの化学療法を受けた場合】

監修:岡田弘 野村医院院長
発行:2006年12月
更新:2013年8月

大腸がんの化学療法の場合

化学療法と高額療養費制度

がんの化学療法には、(1)標準療法と(2)新薬など、新たに出現した治療法があります。常にこの比較によって効果のある治療法が模索されているのですが、これらの治療法が、高額療養費・高額医療費に該当するか(償還が受けられるか)大腸がんの化学療法を例にとってみてみましょう(注:表4-1では薬剤費を中心にしていますが、実際には薬剤費の他に各種検査料や手技料が加算されます)。

[表4-1 大腸がん治療 (注1)に対する主な化学療法と高額療養費・医療費の償還]

薬価:2006年4月時点 UFTはカプセル剤で計算 検査等その他費用:注射剤80,000円 経口剤60,000円で計算
治療法 投与方法 ガイドライン(*2)で
推奨されている
治療法
高額療養費 高額医療費
上位所得者 一般 低所得者 上位所得者 一般 低所得者
FOLFOX4 注射 ×
mFOLFOX6 注射 ×
FOLFIRI 注射 ×
(使用量による)
5-FU/ l-LV
(RPMI療法)
注射 ×
(使用量による)
CPT-11
(単剤)
注射 × × × ×
UFT/LV 経口 ×
TS-1 経口 × × ×
注1):切除不可能転移・再発大腸がんに対する化学療法

FOLFOX4、mFOLFOX6:レボホリナートカルシウム+フルオロウラシル+オキサリプラチン
FOLFIRI:レボホリナートカルシウム+フルオロウラシル+塩酸イリノテカン
5-FU:フルオロウラシル
l-LV:レボホリナートカルシウム
CPT-11:塩酸イリノテカン
UFT:テガフール・ウラシル
LV:ホリナートカルシウム
TS-1:テガフール・ギメラシル・オテラシルカリウム

化学療法には、注射剤と経口剤があり、それぞれに特徴があります。また、高額療養費制度を利用した場合、高額な薬剤を使った治療を受けても償還が受けられます。本制度の長期的な利用で経済的負担が軽減されますので、薬剤の特徴とあわせて確認してみ���しょう(表4-2)。

*2)2005年大腸がんガイドライン(金原出版)より

[表4-2 70歳未満の一般の方の償還額(一部例)]

計算条件は表4-1と同一
治療法 投与方法 総医療費
/月
窓口一部
負担金(3割)/月
自己負担
限度額/月
償還額/月(
払戻金)
6カ月平均
支払額
FOLFOX4 注射 459,776.0円 137,933円 82,028円 55,905円 63,214円
5-FU/l-LV(
RPMI療法)(注2
注射 278,108.0円 83,432円 80,211円 3,221円 66,964円
UFT/LV 経口 305,355.6円 91,607円 80,484円 11,123円 62,442円
TS-1 経口 154,953.6円 46,486円 (46,486円) なし 46,486円
( )は高額医療費制度の利用なし(自己負担限度額の制限にあたらない)
高額な薬剤を使った治療を受けた場合でも、高額療費制度を利用すると償還が受けられます。又、自己負担限度額は12カ月のうち、4回目以降では44,400円に引き下げられるので、長期的(表では6カ月)な治療を受けた場合、さらに支払い負担額が抑えられ、月々の負担が軽減される場合があります。
注2):RPMI療法の承認、用法・用量に従い、1週間ごとに6回連続投与後2週間休薬の場合は、最初の4回連続投与分を計算
    6カ月平均支払額は4回/月と2回/月を考慮して計算

注射剤の場合は、病院での治療となるため、適切な量の薬剤投与と治療が受けられます。また治療以外にも、現在不安に思っていることを医師や看護師などに訊ねることができますし、医療者のほうも患者さんの顔色や身体の様子、変化を実際に見て判断することができますので、副作用が生じた場合など、すぐに適切な処置を受けることができます。さらに、近年では埋め込み型CV(中心静脈)ポート等が改良され、注射の投与が確実で簡便になりました。大腸がんの標準療法には46時間継続して薬剤を投与する持続静注という方法がありますが、ポンプを使えば外来で治療ができます。ただし、この場合は最初にCVポートの埋め込み手術が必要になりますので、2時間程度、施設によっては約1日入院することになります。また、注射剤の場合は薬剤を投与する度に通院する必要がありますので、拘束される時間は長くなります。

これに対して経口剤の場合は、1日2~3回服用するだけなので通院の必要もなく、とても簡便です。ただし、薬をのむ時間が日によってバラバラになってしまったり、薬をのみ忘れてしまった場合など、治療効果に影響がでることが考えられます。また、医療機関へ行く間隔が長くなるので、副作用などが出た場合、対処が遅くなってしまうことがあるので、注意が必要です。

その他にも様々な補助制度があります

前述の高額療養費制度や高額医療費制度は、窓口で支払った医療費が後日(申請から2~3カ月)払い戻し(償還)されますが、1度は自己負担金額の支払いを行わなければなりません。1回限りの入院や治療であれば、それほど負担も大きくないかもしれませんが、毎月治療を受け続けるとなると大変な額になります。そこで、より負担を軽減するために補助制度が用意されています。

高額療養費制度・高額医療費制度とあわせて、利用していきましょう。

●高額医療費貸付制度
無利子・無担保で高額医療費の約8割を貸し付けてくれる制度です。申請から、10日~14日と短期間で指定の銀行口座に振り込まれます(表5)。

[表5 高額療養費貸付の計算方法] 表5 70歳未満の一般の方が、窓口で30万円(総医療費として100万円)支払う場合

申請を行う場合
申請 先:市区町村役場、社会保険事務所、健康保険組合など、加入している保険の種類によります。
必要書類:高額療養費支給申請書もしくは高額医療費支給申請書、健康保険、病院等から発行された領収書
その他:振りこみ先銀行口座番号の分かるもの、銀行口座届印
*郵便局は取扱いがない場合がありますので、予め申請先にご確認下さい。

●付加給付制度
加入している健康保険組合によっては、さらに付加給付金を支給される場合があります。この制度により、自己負担額の軽減がはかれるのですが、付加給付額は各健康保険組合によって大きく異なりますので、1度ご加入の健康保険組合にご確認下さい。

●委任払制度
事前あるいは治療中に「委任払いである」旨を医療機関に申し出ておくと、最初から自己負担限度額のみの支払いで済む場合があります。この支払い方法は医療機関により異なっているので、利用を希望される際は、委任払制度の取扱いを行っているか、医療機関へご確認下さい。

●所得税の医療費控除
家族全員のその年に支払った医療費が10万円を超えた場合(所得額が200万円未満の人は所得の5パーセントを超えた場合)、確定申告を行うと所得税から医療費が控除され、税金が安くなります(高額療養費制度・高額医療費制度により控除を受けた場合は、その控除額を除く)。
これにより翌年の住民税も安くなりますので(住民税は前年の所得額から計算されるため)、確定申告の際は忘れずに、医療費控除を受けるようにしましょう。

おわりに

社会情勢により医療費の負担は年々増加傾向にありますが、わが国にはそれらの負担を支えるさまざまな医療制度が用意されています。また、医学の進歩により、数多くの治療法が開発されていますし、エビデンス(根拠)のしっかりした標準療法もがんの種類別に確立されつつあります。がん治療、とりわけ標準療法をはじめとする化学療法は高額になりがちですが、支払った医療費の一部が戻ってくることがありますので、これらの制度を賢く利用し、あわせて、治療法の種類やその効果、副作用について理解して、満足のいく治療を受けましょう。

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