福島県立医科大学・相良浩哉医師が提案するがん患者への経済的サポート 高額な医療費問題 こうして切り抜けよう
臨床試験を受けよう
対策の第二は、チャンスを見つけて、臨床試験のグループに入ることだ。
臨床試験はがん専門病院や大学病院、大病院などを舞台によく行われている。とくに進行再発がん患者はそのチャンスに恵まれている。抗がん剤を用いた試験では、まずは進行再発がん患者から対象にして進めていくのが普通だからだ。ぜひ前記のような病院の医師に臨床試験の有無を尋ねて、チャンスがあれば試験を受けることをお勧めしたい。
この試験に加われば、臨床試験に用いられる当該薬品の代金や諸検査費用はもちろん無料。その他に、協力費として交通費と食事代も支払われる。前記したように、抗がん剤や疼痛治療薬が高額であることを考えると、これは大きな軽減である。
第三は、がんで機能障害が出たら、身体障害者の交付を申請することだ。
申請先 | 市町村役場 |
---|---|
必要書類 | (1)身体障害者手帳交付申請書 (捺印が必要) |
(2)身体障害者診断書・意見書 (知事の指定する医師に記入してもらう書類で、手数料として6,450円がかかる。) | |
(3)本人の写真(縦4cm×横3cm)1枚 (上半身脱帽で撮影した物が必要) |
たとえば脊髄への転移で下半身が動かなくなったとすれば、これは身体障害の1級に相当する。1級なら治療費はすべて無料である。直腸がん手術により人工肛門の装着が不可避となれば用具購入の助成もある。
身体障害といえば、交通事故などの事故で起きる障害と思いがちだが、原因はどうあれ、結果として日常生活に著しい障害が出れば、事故でも病気でも身体障害になる。このことはぜひ頭においておくべきだ。
「身体障害というだけでイメージを悪く考える人がいますが、この制度は障害者を保護してもらえる数少ない公的手段の一つですから、見栄を張らずにぜひ利用してほしいですね。そうすれば家計への圧迫から解放されるのですから」(相良医師)
以上が、相良医師が考え出したがん患者への経済的サポートの3本柱である。
命とお金、どっちが大事?

このような医療者サイドからのサポート提案を、がん患者たちはどう受け止めたか。歓迎されたことはもちろんである。
相良医師は、入院患者に対して治療に関する説明や心得を述べる前に、必ず経済的な話から入ることにしている。「進行再発がんで大事なのは治療をずっと続けていただくことです。そのために、まず金銭の話からさせていただきたい」そうすると、患者もすぐうち解けてくる。
「命を左右するがんになっているのに、お金のことなんか言うん���ゃないとお医者さんに言われそうで、実は言えなかったんです。言っていただいて助かります」
ことは患者会でも同じ。福島県医大第二外科で入院・手術等を受けた患者で運営している「ピンクのリボン」という患者会の事務局、池田久美子さんは言う。「お金と命、どっちが大事かと問われると、どっちも大事です。お金の問題に端を発して夫婦や家庭に亀裂が入り、家庭騒動、離婚、一家離散、家庭崩壊になりかねません。このことを理解していただけないお医者さんが多いんです。私たちは理解してくださるお医者さんに恵まれて幸せですが」
根本的にシステムを見直す転換点
ところで、相良医師は、数年来、病院内外でこのようながん患者サポートの医療相談をしてきたが、ここへ来てそろそろ限界に来たと感じだしている。
「第一の問題は乳がんの患者自体が増加している点です。その上、再発した患者の寿命も延びている。そこへ次々に新薬が出現して、その寿命がさらに長くなっており、同時に家計が圧迫される患者が激増している。問題が大きくなりすぎて、もはや私たちのような個別の医療相談やサポートシステムでは限界がきています。このような進行再発がん患者が抱える経済的問題に行政府はスポットを当て、もっと根本的に、経済的に補助するシステムをうち立てていく必要があります。そうしないと、あちこちで家庭崩壊が起きる恐れがあります」
どうやら厚生労働省がこれまで取り組んできたがん医療政策は、根本的に見直す一大転換点にきているようだ。それも患者の視点からの。
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