知っておきたいお金の悩み解決法 (1) 高額医療費制度を利用して医療費問題を切り抜けよう

文:山田由里子(社会保険労務士)
発行:2004年11月
更新:2013年8月

ポイント4:共済組合には上乗せの給付がある

公務員が加入する共済組合では、高額療養費以外に上乗せの給付があります。また、健康保険組合でも独自に決められた上乗せ給付(附加給付)が多くあります。この恩恵にあずかれる場合は非常に助かります。だいたい自己負担2万~4万円を超える部分についてすべて給付されるという場合が多いようです。つまり、自己負担が1カ月2万~4万円で済むということです。

ポイント5:領収書を紛失しても交渉してみよう

健康保険組合や国民健康保険の場合は、本人が申請しなくても自動的に手続きされたり、手続きを促す通知が出されることが多いようです。注意しなくてはいけないのは政府管掌健康保険に加入している場合です。政府管掌健康保険では現在のところ、高額療養費は申請しなければもらえません。領収証は必ずとっておいて医療費が高額となったときには、会社に申し出ましょう。また、国民健康保険の場合は通知がきても(市区町村ごとの対応なので通知のない場合もある)その手続きをほったらかしにすると高額療養費は支給されません。過去の申請漏れは2年以内のものならば手続きすることができます。

申請のときには領収書を必ず添付することになっていますが、領収証をなくしてしまったときでも申請をすぐにあきらめてしまわずに医療機関への再発行をお願いしたり、保険者に相談してみましょう。支給される高額療養費の額は領収証の金額から計算して支給額を決定するものではなく、医療機関から保険者に提出された診療報酬明細書(レセプト)に基づいて支給額が決定されるからです。領収証の再発行はなかなか認めてもらえませんが、交渉する余地は大いにあると思います。

利用したい貸付制度、受領委任払制度

高額療養費は実際に振り込まれるまで3カ月ほどかかります。これは、病院から提出されたレセプト(診療報酬明細書)を審査する時間がかかるためです。その間家計のやりくりが大変なときには、高額療養費貸付制度が利用できます。これは支給されると見込まれる高額療養費の8割から10割(保険者によって違う)相当額の貸付を無利子で受けられるというものです。申請をするとだいたい1週間から2週間で融資を受けることができます。

しかし、この制度を利用するとしてもいったんは病院窓口に支払いをする必要があります。国民健康保険加入者でこの一時金の都合がつかないときには、「高額療養費受領委任払制度」が利用できるか市区町村に問い合わせてみましょう。

これは高額療養費の自己負担限度額だけを医療機関の窓口に支払い、高額���養費にあたる分を保険者が医療機関に直接支払うという制度です。国民健康保険独自の制度ですが、どこの市区町村にもあるというものではなく、医療機関の同意も必要です(これは市区町村が確認します)。

利用できる条件も、自己負担が30万円以上の場合のみ、70歳未満の場合、所得制限あり、国民健康保険の保険料に未納がない場合など自治体によってまちまちです。何年か前までは、全国的にみるとこの高額療養費受領委任払いを行う市区町村は少数派でした。しかし、健康保険制度の複雑化による高額療養費の申請漏れの増加などに対応するため、導入するところが増えています。

入院した場合の医療費を大きく押し上げている要因に差額ベッド代があります。これは保険診療外の負担なので高額療養費の対象とはなりません。仕方のないものとあきらめている人も多いかと思います。そもそも差額ベッドとはどんなものなのでしょうか。

差額ベッド代の同意書はよく確認しよう

差額ベッドとは正式には「特別環境療養室」といい、簡単にいうと快適さを加味した病室ということです。差額ベッド料が初めて認められたのは、1984年で、ベッド数の上限は全ベッドの2割、個室または二人部屋に限られていました。上限は88年には3割まで、94年には5割まで引き上げられ、このときに4人部屋まで差額ベッド料を徴収できるように病室基準も緩和されました。患者のニーズにこたえたということですが、実際には病院経営に配慮したものだという指摘もあります。

病室の基準は、1室4床以下(個室でなくカーテンで仕切られているだけでもよい)、1人あたり面積が6.4平方メートル以上、個人用の収納や照明などの設備があることなどとなっています。また病院には受付窓口や待合室など見やすいところに病院のベッド数と差額室料の掲示をすることが義務付けられています。

医療機関はこの差額ベッドを利用した患者から、入院料とは別に差額ベッド代(全額患者負担)を徴収することができるのですが、次のような場合は徴収できないことが旧厚生省から通知で示されています。

(1)同意書による同意の確認を行っていない場合(同意書に室料の記載がない、患者側の署名がない等内容が不十分である場合を含む)

(2)患者本人の「治療上の必要」がある場合(救急、あるいは手術後などで病状が重く安静を必要とする場合。または、常時監視を必要とし、適時適切な看護・介助が必要な場合。免疫力が低下したために、感染症にかかる可能性がある場合。終末期の患者で、集中治療を行ったり、著しい身体的・精神的苦痛を緩和する必要がある場合)

(3)実質的に患者の選択によらない場合(主治医等が他の入院患者への院内感染を防止するために、MRSA等に感染している患者を、その選択によらず差額ベッドに入院させた場合)

このように差額ベッドの利用と費用の負担は、患者側の自由な選択と同意によって行われるべきものです。病院側が差額ベッド料を請求するには入院の際に患者側に「差額ベッド料を支払う」という同意を得なくてはなりません。同意書に署名がない限り、差額ベッド料は徴収できないのです。(表5参照)

[差額ベッド料金請求について厚生労働省が示した具体的な事例(表5)]
請求できないケース
・抗がん剤などの使用で免疫力が著しく低下し、感染症を起こす可能性がある患者 治療上の必要がある
・集中治療や、著しい身体的・精神的苦痛の緩和を目的とする終末期医療の患者 治療上の必要がある
・特別室への入院が緊急を要し、患者の選択でない場合 病状を経過観察し、特別室以外が空くのを待つ
患者の同意があれば請求できるケース
・痴ほう、いびきがひどい患者 迷惑防止の目的だけでは、治療上の必要があるとは言えない
・感染症の患者 他の患者への感染を防ぐという理由だけでは、治療上の必要があるとは言えない。患者の選択でなく、病院の判断で入院させた場合は請求できない

何の説明もなく個室に入れられて差額室料の請求を受けた、同意書にサインしていないのに差額ベッド代をとられた、というケースでは本来払う必要がないことになります。また「ベッドが空いていないので個室でもいいですか?」などと言われるケースも結構多いのですが、待てる場合は部屋が空くまで待つという選択肢もあります。待てないほどの緊急の場合で個室しかないときには差額ベッド代は請求できないことになるのです。

まず、中身の確認もせずに安易に同意書にサインをしてはいけません。納得のいかないときはサインを保留にしてよく確認する必要があります。また、金銭的な事情によっては減免措置をしてくれる病院もありますので相談してみましょう。

MRSA=メチリン耐性黄色ブドウ球菌。抗生物質が効きにくく、感染して重症化すると危険な状態になる

差額ベッド代を返還してもらった例

最後に実際に私が体験した事例をご紹介します。父が心筋梗塞の発作を起こして入院したときのことです。

救急車で病院に運ばれた初日は集中治療室、その後大部屋が空いていないということで2人部屋に入ることになりました。同意書には母がサインしましたが、差額ベッド代がかかりますという説明のほか具体的な金額については聞かなかったようです。入院から10日たったところでもらった最初の請求書をみると室料差額代として12万円とありました。差額ベッド代がかかることは覚悟していましたが予想していた金額よりもはるかに高かったのです。その理由はすぐにわかりました。2人部屋なのに個室料金(1日1万2000円)として計算されていたのです。

確かに2人部屋のもう一つのベッドはずっと空っぽでしたが、とても狭い部屋に無理やりベッドを二つ入れているような感じで、おまけにそのベッドの上には少しのものでも置いてはいけないとのことでした。

支払いのときに窓口の人に「今回は払いますが納得がいかないので理由を教えてください」と話したところ、次の請求からは2人部屋の料金に減額されました。

このように病院に説明を求めて、差額ベッド代の減額または返還を受けたという例もよくあるようですが、返還してもらうどころか反対に嫌がらせを受けたという事例もあります。やはり最初が肝心です。何事も受身のままあいまいにしておかないという姿勢が大事です。

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