知っておきたいお金の悩み解決法 (2) 治療で仕事を休んだときは傷病手当金で乗り切ろう

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2004年12月
更新:2013年4月

いつまでもらえるのか

実際に傷病手当金の支給が開始された日から最長で1年6カ月間もらえます。ここで注意したいのは、1年6カ月分もらえるのではない、ということです。たとえば平成16年9月1日から休み始めて3日の待期完成後の9月4日から傷病手当金をもらい始めたBさんが2カ月の治療を経て職場復帰し、その半年後に同一の病気で再び休み始めた場合、傷病手当金は最初の支給開始から1年6カ月後の平成17年3月3日(1年6カ月は暦日数で計算する)で期間満了となります。その後労務不能の状態が継続していても、傷病手当金は打ち切られてしまうのです(表2参照)。

[表2 傷病手当金が支給される期間(Bさんの例)]
表2 傷病手当金が支給される期間(Bさんの例)

それでは、一度傷病手当金を受給してしまうとその1年6カ月経過後は傷病手当金をもらうことはできないのでしょうか。

再発でもらえるケース もらえないケース

傷病手当金が支給される1年6カ月の期間は、あくまでも同一の傷病について支給される期間です。つまり、後日別の傷病が原因で支給要件を満たす場合には、改めてその傷病についての傷病手当金が1年6カ月間支給されることになります。

この同一傷病とは、同じ病名でなくても最初の病気と因果関係にあるとされる病気は同一傷病とみなされます。しかし、同一の傷病名でもそれぞれ別個の病気とされるものもあります。たとえば、風邪をこじらせて傷病手当金を受け、2年後にまた風邪で欠勤が4日以上となった場合は同一の傷病とはならずにそれぞれで傷病手当金が支給されます。これは最初の風邪は完全に治癒し、2年後の風邪とは因果関係がないと判断されるためです。

がんという病気は再発することが少なからずありますが、この場合、後発のがんが最初のがんに起因した再発なのか、まったく新しいがんなのかということが傷病手当金の受給にも大きく影響することになるのです。

再発がんでもいったん治って相当期間普通の生活を営むことができていた場合は、このがんについて、また最初から傷病手当金受給の1年6カ月をカウントしてもらえる場合もあります。普通の生活ができた期間を「社会的治癒」があった状態といいます。

「社会的治癒」とは、治療を行う必要がなくなり社会復帰している相当の期間があることを指します。内部疾患の場合、通常どおりの勤務がおおむね1年以上できていると社会的治癒と認められる可能性がでてくるようです。社会的治癒があったかどうかの判断は、ケースにより異なりますが、欠勤がなく普通に勤務ができていれば、��期観察のための月1回程度の通院は認められるようです。

社会的治癒が認められた事例

野村春子さん(仮名45歳)は平成15年3月からの乳がん治療のための休職について傷病手当金を申請したところ、ほどなく管轄の社会保険事務所から次のような用紙が送られてきました。「傷病手当金請求書について、以前同一と思われる傷病で受給されており、今回の保険給付決定上、病歴状況等申立書が必要となりますので、できるだけ詳しく記入のうえ、折り返しご回答くださいますようお願いいたします。」

同封されていた「病歴状況等申立書」には、前回の傷病手当金受給後から今回の請求までの期間について受診していた期間、通院機関及び受診回数、入院期間、治療の経過、医師から指示された事項、転医、受診中止の理由、自覚症状の程度、日常生活の状況について記すよう書いてありました。

実は野村さんは、平成10年3月に左乳房の全摘手術を受けていたのです。そのとき5カ月間休職して傷病手当金をもらっていました。今回の休職は乳がんの再発でした。また再発は初めてではなく、平成12年11月に頸部リンパ節への転移が発見され、このときにも手術のため18日間入院しています。しかし職場に再発を知られたくなかった野村さんは会社には別の理由をいい、このときは傷病手当金も請求しませんでした。最初の治療が終わってから普通に勤務できた期間が2年以上ありましたので、もし請求していたら受給できる可能性も高かったと思われます。ただし、この間治療的な薬を服用していたか予防的な薬を服用していたかなども判断の材料となります。

その後は自覚症状もなく、月1、2回の通院日以外は欠勤もせず、残業もこなす通常通りの勤務が続きました。平成15年8月の定期検査で乳がん再発が発見され、入院しての抗がん剤投与となったのでした。

野村さんは病院に通院回数や入院期間等を確認しながら、事実どおりに病歴状況等申立書を書き上げ社会保険事務所に提出しました。その1カ月後に待期期間3日分を除いた73日分の傷病手当金支給決定通知が届いたのでした。

退職後の傷病手当金

傷病手当金を受けているときに退職した場合、継続して1年以上の被保険者期間があるときは、退職後も続けて傷病手当金を受給することができます。

退職後の医療費については、次回取り上げたいと思います。


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