知っておきたいお金の悩み解決法 (3) 退職後も傷病手当金が継続される方法と健康保険の選び方

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2005年1月
更新:2013年8月

退職後の医療保険の選択肢

会社をやめることになると、その後に加入する健康保険の手続きを急いでしなければなりません。退職後の健康保険には、次のような選択肢があります(表1参照)。
(1) 国民健康保険
(2) 任意継続健康保険
(3) 特例退職被保険者
(4) 家族の被扶養者となる

[表1 退職後の健康保険]
  国民健康保険(国保) 任意継続被保険者制度 特定退職被保険者制度 健保に加入している家族の被扶養者となる
加入資格 誰でも加入できる 退職日まで継続して2ヵ月以上被保険者であったこと 認定された健康保険組合のみ
老齢年金の受給権者で、加入期間が通算20年以上(または40歳以降通算10年以上)ある人
60歳未満は年収130万円未満
60歳以上、障害者は年収180万円未満
加入期間 制限なし 退職日の翌日から最長2年間 退職日の翌日から最長75歳未満まで 制限なし
加入手続 住所地の市区町村役場、国保担当窓口 住所地を管轄する社会保険事務所または健康保険組合
※退職日から必ず20日以内に手続き
健康保険組合
※退職日から必ず20日以内に手続き
被保険者の勤務先で手続き
保険料 市区町村によって違う

所得割、資産割、均等割などの合計

退職時の標準報酬月額×保険料率
今までの事業主負担分も合わせる。ただし上限あり
(政府管掌健康保険の場合、標準報酬の上限は28万円)
健康保険組合の規約による 新たな保険料負担はない
窓口負担 3割(外来・入院とも) 3割(外来・入院とも)
健康保険組合では付加給付のあることがある
3割(外来・入院とも)
健康保険組合では付加給付のあることがある
3割(外来・入院とも)

国民健康保険

住所地の市区町村役場が窓口であり、手続きは一番簡単です。保険料は、市区町村ごとに違いますが、所得割、資産割、均等割、平等割の合計で算出します。地価が高く資産評価が高くなってしまうような大都市圏では、所得割と均等割だけで算出する場合が多いようです。所得割は前年度の所得がベースとなるので、この額が高いと保険料も高額になります。

任意継続被保険者

健康保険に2カ月以上加入している場合に、退職日の翌日から最長2年間加入できます。保険料は、今まで半分負担してくれていた事業主分も自分で負担します。ただし、この保険料には上限があり、政府管掌健康保険の場合は、現在、月額2万6404円(介護保険料を含む場合)となっています。

特例退職被保険者

特定の健康保険組合だけにある制度です。被保険者期間がある程度長く、老齢年金をもらうことができる退職者が対象です。任意継続被保険者の上限保険料よりも、保険料が低く設定されています。

家族の被扶養者になる

家族が職場の健康保険に加入している場合で、その被扶養者となることができるときは、新たな保険料も発生せず、一番お得です。扶養に入ることのできる条件は、被扶養者となる人の年収が130万円(60歳以上または身体障害者は180万円)未満で、被保険者の収入の2分の1未満であることです。

任意継続被保険者を選ぶと傷病手当金が減る場合も

表1を見ていただくとわかるとおり、現在、どの医療保険に加入しても保険給付についての差はほとんどありません。こうなると選択の決め手は、「保険料が一番安いのはどこか」ということになりそうです。通常の場合はそれでもいいのですが、退職後も傷病手当金を受けるときは少し考えなくてはなりません。

国民健康保険に加入する場合は、退職後も今までと同様の傷病手当金をもらうことができます。しかし、任意継続被保険者を選択したときは、傷病手当金の給付額が下がることがあるのです。任意継続被保険者の保険料は、会社、本人双方が半分ずつ負担していた保険料を、全額自分で納めることになります。その上限は、標準報酬月額28万円×保険料率となっています(1)。この標準報酬月額28万円は保険料を算出するときの基礎となるだけでなく、給付を受けるときの基礎ともなるのです。

たとえば、退職時の標準報酬月額が50万円だった人は、在職中日額1万2円の傷病手当金をもらっています。この人が任意継続被保険者になると保険料は、在職時に月額2万3575円(2)だったところ、上限にかかるため倍にはならず、2万6404円(3)で済みます。しかし、傷病手当金の日額は、その基準が50万円から28万円に下がるため、5598円に減ることになるのです。こうなると、多少保険料は高くても国民健康保険に加入するほうが有利となります。国民健康保険の保険料は、市区町村の国保担当窓口に問い合わせれば退職前でも教えてもらえます。

1 現在の政府管掌健康保険の場合
2 介護保険料含む
3 28万円×9.43%


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