遺族年金について知っておきましょう その5 「妻」への給付条件について

文:山田由里子 社会保険労務士
発行:2004年9月
更新:2019年7月

重婚的内縁関係

B夫さんには、戸籍上の妻と内縁の妻がいました。この場合は、いくつかの優先順位と実態とを勘案して年金受給権者が決定します。まず、「事実上の妻」と「戸籍上の妻」のどちらが優先するかですが、これは「戸籍上の妻」が優先します。では「戸籍上の妻」とは、まったく音信不通、仕送りもしていなかったようなときはどうなるのでしょうか。この場合は、それぞれの事例によって総合的に判断されますから断定的なことはいえませんが、(1)おおむね10年の別居、(2)夫からの経済的援助がない、(3)音信訪問がない、の三つの要件を満たしているときは、事実上の妻が優先されるようです。

さて、B夫さんはS子さんと別居期間7年、S子さんには誠意をみせるために、経済的な援助もしていたようです。B夫さんの事例では、結局、戸籍上の妻であるS子さんが遺族厚生年金を受給することになったのでした。

事例-3 再婚相手に連れ子がいた場合

C男さん(41歳)が死亡。

C男さんは自営業です。2年前に結婚しました。相手であるC子さんは再婚で10歳の連れ子がいましたが、3人で暮らす様子は普通の親子と変わりませんでした。そのC男さんが肺がんで亡くなりました。自営業だったC男さんには遺族厚生年金はありません。しかし残されたC子さんには18歳未満の子がいたのに、遺族基礎年金ももらうことができなかったのです。なぜなのでしょう。

連れ子が法律上の子として認められるかどうか

C子さんはC男さんの戸籍上の妻でした。ところが、C子さんの連れ子との養子縁組はしていなかったために遺族基礎年金をもらうことができなかったのです。妻の場合は入籍していなくても、実態が夫婦関係にあれば妻として認められます。(本妻がいる場合はケースバイケースですが)。しかし、子についてはあくまでも法律上の子しか認められていません。養子縁組をしていないC子さんの連れ子は、C男さんの子とは認めてもらえず、C子さんは遺族基礎年金を受けられる「18未満の子のいる妻」となることができなかったのです。

また、遺族年金の受給権者となるには、その収入に基準となるラインがあります。かなりの高収入でも遺族年金の受給権者となることができますので、ほとんどの人には関係ないかもしれません。しかし、ボーダーライン上で悔しい思いをしないように、知っておいてもらいたい基準の一つです。

[遺族厚生年金の額]
遺族厚生年金の額
厚生年金加入中(加入期間25年未満)の夫の死亡(すべて平成15年3月までの期間とする)
妻は40歳以上65歳未満の場合
事例-4 妻が役員報酬を得ていた場合

D夫さん(60歳)が死亡。遺族は妻D子さん(58歳)

D夫さんが膵臓がんで亡くなりました。D夫さんは会社を経営していました。役員である妻のD子さ���は月額75万円の役員報酬を得ていました。D夫さんは厚生年金に加入していましたので、D子さんは遺族厚生年金の請求手続きをしました。しかし遺族年金をもらうことはできませんでした。

事例-5 妻に高収入があるが、定年が近い場合

E男さん(60歳)が死亡、遺族は妻E子さん(58歳)

E男さんが食道がんで亡くなりました。E男さんはサラリーマンで厚生年金に加入していました。妻であるE子さんは、ずっと看護師の仕事を続けています。現在は大病院の看護師総長をつとめており、65万円の月給と年間120万円の賞与をもらっていました。E子さんが遺族年金の請求手続きをしたところ、遺族厚生年金月額約14万円を受けることができました。

今後の収入による違い

この事例は、遺族である妻に高収入があるケースです。遺族年金の受給要件には、受給権者の収入要件があります。その基準は前年の年収が850万円未満だったかどうかです。先ほどの事例のD子さん、E子さんはともに年収が900万円でした。どちらも基準である850万円を超えています。ではなぜ、D子さんの遺族年金は不支給で、E子さんは遺族年金がもらえることになったのでしょうか。

収入基準の850万円を超えている場合でも、その収入が一時的なものだったり、近い将来、収入が850万円未満になると証明できる場合は、遺族年金がもらえるということになっているのです。近い将来とはおおむね5年以内を指します。E子さんは現在58歳。あと2年で定年退職の予定だったのです。一方のD子さんは会社役員ですから定年はありません。中小企業の場合、節税対策から役員である妻が役員報酬を得ていることがよくあります。

しかし、中小企業の社長が亡くなったときの影響は大きいものがあります。妻が今後も850万円以上の収入を得続けるということが難しいことも考えられます。実際に、収入要件での不支給決定を不服として社会保険審査会に審査請求が出されて認められたケースもありますが、通常の年金請求の段階でこれらのことが考慮してもらえることはありません。中小企業の社長の場合、遺族年金のことを考えると、妻に出す役員報酬の額は850万円未満に抑えるのがいいようです。

また、役員報酬だけではなく、妻名義で不動産収入がある人も要注意といえるでしょう。


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