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「つばさ支援基金」が第6期助成開始 高額療養費制度では救えない患者さんを救うために

取材・文●伊波達也
発行:2013年7月
更新:2019年10月

悩んでいる人を今、救うことが大切

丸3年間のつばさ支援基金の助成は126人にのぼった

コールセンターでは、誰が問い合わせてきたか、何を見て問い合わせてきたか、問い合わせ地域などを集計し、基金の改善に役立てるという小回りの利いた対応をしている。

「闘病中の患者さんが今救われないと意味がないのです。ただ、生活しながら闘病して、〝お金はどうしよう〟〝保険は?〟〝 仕事との兼ね合いで収入はどうなる?〟と日々心配しながら、がん治療を受けるために働かなくてはならない人がいるのは明白です」

患者リストを見ながら1人ひとりのことを考えると、ずっしりとした重さを感じる、と橋本さん。橋本さん自身も1992年、当時15歳の息子さんを慢性骨髄性白血病で失った。移植ドナーを待っている最中だった。骨髄バンク設立のため、全国を奔走したが、ようやくバンクが稼働したその2カ月後に亡くなったのだ。

「ドナーという1つのカードがないために亡くなるしかなかったのは無念でした。その思いが身にしみてわかるので、〝命のカードが平等に示されているか〟〝それをうまく使えているか〟と思うと、基金を続けざるを得ないんです」

同基金の支援を経て、社会復帰していく人もいる。

「1年間支援してもらい、その間に学校に通って資格を取って就職し、自分の力で治療費が稼げる時期がきて感謝している、とお手紙をくださった人もいます。そういうご報告もうれしい話です。基金の存在がある役割を果たしている、ということでもありますから。ただもちろん、治療が必要なときは受給継続を遠慮しないでほしいのです。治療を受ける機会を平等に提供する役割は国にあり、国との話合いを進めるのは我々〝今は健康な〟実践家の役目です」

電話から見える医療の現状

コールセンターのデータからは、日本の経済状況や医療の現状も見えてくるという。

「高額療養費制度をうまく使うには月に支払う額を限度額よりもできるだけ上乗せできるように、2カ月分の薬を1度に処方してもらう方法もあります。しかし、手元にお金がなく、それすらできない人々もいる。そんな人が地域的にかなり偏在していることも、国には知ってほしいです」

基金の運営を通じて多くの問題にも直面する。基金が認知されたことにより、基金への期待度は上がり、不平不満のはけ口として電話をしてくる人々もいるという。

「基金は、高額療養費制度の区分Bといわれる人々を対象にしているわけですが、さらに低所得層(非課税)である人から『私たちのことは助成してくれないの』という問い合わせが来ることがあります。お気持ちはわかりますが、これは医療費助成であって、福祉制度ではないということをご説明して理解してもらっています。この基金は、あくまでも治療を受けていて、その継続が難しいという人に向けての助成なのです」

他の種類のがん患者からの問い合わせが来ることもある。

「何かでつばさ支援基金のことを知って、問い合わせをしてきた乳がんの患者さんに説明をして〝乳がんは適用疾患ではないんですよ〟と話したことがあります。そうですか……、とがっかりされて、私も6期までの助成活動で必要性はよくわかり、そういうときはお互いに残念ですね」

社会的バックアップの充実で基金の役割を終えたい

今後効果の高い薬が増えれば増えるほど、この医療費の問題も顕著になるだろう。ほかのがん種でも対策は急務なはずだ。しかし他のがんではこのような基金はない。

「他のがんでも基金を作る話が出てきても不思議ではないと思うのですが、なかなか出てきません。基金を作りたいという団体があれば、いつでも私たちのノウハウを差し上げたいと思っています」

つばさ支援基金も問題は山積だ。

「寄付は一般の方々の善意とわずか1社の企業に頼っている状況ですから、基金はいつ潰れても不思議ではないのです。その必要性を痛感している現場の医師も多く、個人的に寄付してくださる方もいます。GISTの患者さんで、ご自分は医療費の問題にも患わされずによくなり、元気を維持しているのでと寄付をくださった方もいます」

基金としては、少しでも多くの人の支えになれるように今後も様々な展開を考えている。社会的信頼を得るために、メディア、各学会、患者さん、全国の血液センター、がん相談支援センターなどに告知し、周知に努めたり、一斉に寄付を依頼する拡大プロジェクトも定期的に実施している。

「本来は、あらゆるがんに対して、大手企業のたとえば50社、100社くらいが利益を1%ずつでも拠出していただければ解決するでしょうね。社会的なバックアップが充実して私たちの役割を終えることが、今私たちが一番望んでいることです」

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