抗がん薬による末梢神経障害 効果的な対策とセルフケアの方法は?

監修●野村久祥 国立がん研究センター東病院薬剤部主任
取材・文●町口 充
発行:2014年7月
更新:2019年7月


ストップ・アンド・ゴー作戦が有効

しびれなどが強く現れると、薬の投与を続けるのが難しくなることがある。「オキサリプラチンの場合、コップを落としてしまうとか、物が持ちにくいとか、日常生活に支障が出るようになると、投与を少し休むことが検討されます」

オキサリプラチンについては、投与を一時中止することで症状が改善した臨床試験(OPTIMOX試験)の結果があり、「ストップ・アンド・ゴー」すなわち一時的にオキサリプラチンを中止し、症状が改善したら再開する方法が有効だ。

OPTIMOX試験は、グレード3以上の重篤な末梢神経障害を未然に防ぐためにオキサリプラチンを休薬してその後再開する「ストップ・アンド・ゴー」の有効性を検討したもの。

化学療法歴のない進行大腸がんの患者さんを対象に、FOLFOX 4療法を重篤な毒性が現れるまで2週間ずつ繰り返した群と、FOLFOX 7療法を6サイクル行ったあとにオキサリプラチンを除いた治療を12サイクル行い、その後にFOLFOX 7療法を再導入した群とを比較したところ、治療効果は同等であったにもかかわらず、後者では治療開始後7サイクル以降、顕著にしびれなどの末梢神経障害が減少した。「休薬すると治療効果が低下するのではないか、と患者さんは心配しますが、この試験結果の話をすると、みなさん安心します」

抗うつ薬や漢方薬の効果は?

薬剤による治療では、抗うつ薬デュロキセチン(商品名サインバルタ)が有効との報告がある。デュロキセチンはセロトニン・ノルアドレナリン再取り込み阻害薬(SNRI)の1つ。2012年のASCO(米国臨床腫瘍学会)で、デュロキセチンの疼痛抑制効果を検証した第Ⅲ相試験の結果が発表され、末梢神経障害の疼痛が減少したとの報告があった。

「麻薬性鎮痛薬のオピオイドが有効と積極的に使っている施設もあります。ほかにも、疼痛治療薬のプレガバリン(商品名リリカ)や漢方薬で対応している施設もある。現在、様々な臨床試験が動いているため報告が待たれています」

カルシウムとマグネシウムの投与が末梢神経障害を軽減するとの報告もあったが、その後、これを否定する結果が報告され、現在では実施されていない。今のところ「ストップ・アンド・ゴー」が最も有効な方法といえそうだ。

セルフケアで予防と軽減を

オキサリプラチンで現れる急性の末梢神経障害は、患者さん本人のセルフケアによって、予防したり、症状を軽減することが可能となる。冷気や冷たいものに触れることで症状が現れたり悪化したりするため、特に投与後5日間程度は表3に挙げたことに注意して欲しい、と野村さん。

一方、遅延性のしびれに対しては表4に挙げたような注意を喚起している。患者さんに対して、薬剤師の立場から野村さんはこうアドバイスする。���しびれや痛みを感じたら、遠慮しないでどんどん言ってほしい。医師に対して言いにくいなら、いつ、どんなときにどんなしびれや痛みを感じたかをメモして、薬剤師や看護師に渡すのでもいいです。診療中に言おうと思ってもすぐには思いつかないことが多いものなので、メモは意外と役立ちます。

また、日本臨床腫瘍薬学会による『外来がん治療認定薬剤師』の認定制度がスタートし、病院の薬剤師だけでなく、院外の調剤薬局にもがんに詳しい薬剤師が少しずつ増えているので、そうした人たちに相談するのも1つの方法です。かかりつけのマイ薬局を作って、相談したり、わからないことを調べてもらったりしてはどうでしょうか」

表3 急性障害でのセルフケア注意点
表4 慢性障害での注意点
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