皮膚障害が強く出るほど、薬が効いている証拠。だからあきらめないでケアを 分子標的薬による皮膚障害は出ること前提で、早めの対策を
ステロイド外用薬による迅速で強い治療が基本
症状と対策を見てみよう。まず、ニキビのようなブツブツが出るざ瘡様皮疹。本当のニキビはアクネ桿菌が引き起こす感染症だが、ざ瘡様皮疹の場合、菌が検出されないことも多く(無菌性膿疱)、抗菌剤を処方するニキビとは治療法も異なる。
具体的には、比較的強めのステロイド剤を外用(軟膏)として塗布し、抗炎症作用のある抗生剤(ミノマイシン(*)など)、抗アレルギー効果のあるかゆみ止め(アレグラ(*)やクラリチン(*)など)などを内服する。
「アトピー性皮膚炎など生死のリスクがなく、慢性的に経過する病気に対し、皮膚科医は弱いステロイド外用剤から処方し、効果がなければ強い薬に換え、時間をかけてその人に合う投薬を探ります。いわば、ステップアップ方式。しかし、がん患者さんにはそのような時間的余裕はありませんし、体中に発疹が出て数週間で改善されなければ、患者さんは薬をやめてしまいます。短期間で確実な効果を上げるには、最初から強めのステロイド外用剤治療を行い、効いてきたら弱い薬に落としていくステップダウン方式なんです。

実際、分子標的薬を開始して1週~2週が皮疹の出るピークですが、最初から強い治療を行うと3日目くらいで改善し、10日くらいで落ち着くことが多い。分子標的薬は生命にかかわるような副作用は少ないが、強い薬であることは間違いなく、『皮疹が体表面の50%に達したら中止』というルールもあります。治療中止に至らないためにも、早めに強めの治療が必要です」(図4)
*ミノマイシン=一般名ミノサイクリン塩酸塩
*アレ��ラ=一般名フェキソフェナジン塩酸塩
*クラリチン=一般名ロラタジン
爪囲炎には薬物治療以外にも皮膚科的処置で対処

同様に、爪囲炎も薬物治療はステロイドの外用薬とミノマイシンなどの内服薬。ただし、薬だけでは治らないことも多い。
たとえば、爪の周囲に炎症が起きると、皮膚に腫れや痛みが出て、さらに亀裂を生じ、なかなか治らないと肉芽が形成されてくる。重症になると、形成された肉芽で爪が埋まってしまうことも。これを治すには、薬物治療だけではなく、皮膚科的な処置も含めて、さまざまな方法で対応する。
たとえば、爪の際に肉芽が形成されて、食い込んでいる場合、テープを使って、食い込んでいる部分を引っ張り、爪にあたらないようにして肉芽形成を抑える方法(スパイラル・テープ法)や、液体窒素を用いて、肉芽部分を凍結させて固まらせる凍結療法、他にもアクリル樹脂製のつけ爪をつけてカバーする方法(人工爪)などもある(症例5)。
皮膚乾燥症に対する治療の基本は保湿剤による保湿、かゆみが強い場合はステロイド外用剤も併用する。ざ瘡様皮疹と皮膚乾燥症は高率に出るというから、治療に先立ち、保湿剤を処方してもらうのもいいだろう。
保清、保湿、保護の「3保」で日常生活でも皮膚をガード

患者さんや家族が日常生活でできることは、どんなことだろう。清原さんはいう。
「副作用のコントロールが可能とはいえ、薬で改善できるのは7~8割。残り2~3割を解消するにはスキンケアが不可欠です。患者さんやご家族の出番は大きいと思います」
基本は保清、保湿、保護の「3保」(図6)。皮膚を石鹸でよく洗い清潔に保ち、保湿剤で潤いをキープし、外的な刺激から保護する(写真7)。外的な刺激とは、紫外線、衣類や化粧品による刺激、乾燥、作業による圧力など。
たとえば、足元をゆったりした靴にして、指先が露出するサンダル履きは避け、5本指靴下を履いたり指サックをつけたり、さまざまなもので刺激から守ります(写真8)。
爪は短く丸く切ると皮膚に食い込むので、少し伸ばして一文字に切る。こうした日常のこまめなケアによって、皮膚状態をよく保ち、症状が出たらすぐ主治医に相談することが大切だ(図9)。
その意味では、がん治療の主治医だけでなく、皮膚科医、看護師、薬剤師など、多職種によるチーム医療体制があることが望ましいが、かかっている病院にチーム医療がない場合でもあきらめず、「皮膚科に相談したい」、「皮膚のケアについて看護師さんに教えてほしい」など、要望を伝え、必要な治療を受けるようにする。
「皮膚障害のために、劇的な効果をもつ薬をあきらめるのはもったいないです。できるケアを続け、ぜひ薬を続けていただきたいと思います」



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