皮膚症状のケア:皮膚症状を重症化させないために、患者さん自身でできることはたくさんある 皮膚症状はとにかくスキンケア!
治療前のケアや予防的処置も大切
分子標的薬の種類によっては、治療開始前からのスキンケアや治療開始時からの抗菌薬の服薬が、皮膚症状を軽くする可能性があるという。
ネクサバールの治療では、日ごろから足の裏が角化している患者さんは角化や炎症がひどくなりやすいので、治療前から角化治療薬で角質を溶かしておくとよいと市川さんはアドバイスする。
「当院ではネクサバールの治療1週間前から、尿素配合のケラチナミンコーワ軟膏(商品名)を処方しています。市販の尿素配合軟膏を使ってもいいですね。皮膚に亀裂があると尿素配合軟膏がしみるので、亀裂を避けて塗ります。魚の目がある方は、皮膚科で処置してもらってから治療に臨むとよいでしょう」
アービタックスなどEGFR阻害薬の皮疹に対しては、ミノマイシン*という内服の抗菌薬に炎症を抑える効果があると報告されていることから、同院では治療を開始した時点で、保湿剤とともに処方している。そのためか、休薬しなければならないほど皮膚症状がひどくなる例はほとんどないという。
*ミノマイシン=一般名ミノサイクリン
直射日光、きつい服や硬い靴は避けて
日常生活では外出時はなるべく長袖や帽子を着用し、皮膚炎の原因となる直射日光を避ける。
「日焼け止めクリームやファンデーションをつけたら、帰宅後はきれいに落とし、保湿を忘れずに。保湿剤の上にパウダーをはたき、ポイントメイクをすれば、皮膚への負担も少なく、印象も変わります」
刺激は症状を悪化させるので、手足に症状が出やすい薬剤で治療するときは、クッション性のあるヒールの低い靴をはくなどの注意が必要だ。
皮膚症状が出始めたらステロイドが有効

「顔や体の皮疹や指先の亀裂、爪の周囲の炎症、手のひらや足の裏の肥厚などの症状が現れ始めたら、ステロイド外用薬で治療します。EGFR阻害薬で起こる皮疹は、アクネ菌などの細菌感染で起こる一般のニキビと違い、炎症によって起こるためにニキビ治療薬では効果がありません。このほか、手足、爪の周囲の炎症にもステロイド外用薬が有効です」
ステロイドの外用薬には、強いタイプ(ストロンゲストクラ���)から弱いタイプ(ウィーククラス)まで54段階ある。通常、顔面にはミディアムクラスのロコイド軟膏*など、ボディには、ベリーストロングクラスのマイザー*などが処方されることが多い。洗顔や入浴後など、朝晩2回程度、保湿剤と同時にステロイドを塗布する。ローションなどの保湿剤で肌を整えた後、皮疹など、症状が出ているところだけに、塗ればよい。

「ステロイドの副作用を恐れる方がいますが、皮膚症状を適切におさえて悪化させないことが本来のがん治療の継続につながります。また、皮膚症状がおさまればステロイドを中止ないし、強さのランクダウンができます」
皮膚のかゆみは、乾燥か炎症で起こる。乾燥によるかゆみは保湿剤で、炎症によるかゆみはステロイドで軽減する。かゆみがひどいと睡眠中にかきむしって、炎症を悪化させたり、細菌感染を起こしたりすることがあるので、適切に対処することが大切だ。
爪を切るときは、両サイドを丸く切ると巻き爪になりやすいので、四角くカットし、やすりで角を削る程度にする(図4)。爪があたって指の皮膚が傷つくときは、指の間に脱脂綿などをはさんでおく。
爪の周囲の炎症が高じて、巻き爪の状態になりそうなときには、図5のように絆創膏などでテーピングをして、爪の食い込みを防ぐとよい。
*ロコイド軟膏=一般名ヒドロコルチゾン酪酸エステル軟膏 *マイザー=一般名ジフルプレドナート
日常生活に支障が出たら休薬も検討

痛みがひどくなり指先が使えなくなる、痛みで歩けなくなるなど、日常生活に支障が出るほど症状が強くなったときは、必ず医師に相談し、減薬や一時的な休薬を検討する(図6)。薬剤によって休薬の基準が決められているので、担当医と相談しよう。
「内服の抗がん薬や分子標的薬で治療をする場合、副作用が起こっても医師に相談しそびれることがあるようです。通院予定日でなくても、ふだんと違う状態になったら電話でもよいので主治医か看護師に相談しましょう。歩けなくなってから、救急車で運ばれてくる方もいますが、そこまでいくと回復も遅れるので早めの対処が大切です」とアドバイスしている。
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