抗がん剤治療中の吐き気と嘔吐は適切な予防で改善できる!

監修・アドバイス:岩瀬哲さん キャンサーネットジャパン科学ディレクター
文:池内加寿子
発行:2005年3月
更新:2013年8月

アメリカのガイドラインに沿って、日本向けに作られた吐き気・嘔吐の予防法

ASCOのガイドラインでは、吐き気や嘔吐を起こす頻度によって抗がん剤を高等度、中等度、低等度、極低等度の4つの催吐リスクに分類。

たとえば、化学療法中のほとんど(90パーセント以上)の患者さんに吐き気や嘔吐が起こる高等度リスクの抗がん剤には、ランダ(もしくはブリプラチン、一般名シスプラチン)やダカルバジン(一般名ダカルバジン)など、30~70パーセントの患者さんに起こる中等度リスクの抗がん剤には、アントラサイクリン系のアドリアシン(一般名ドキソルビシン)、ファルモルビシン(一般名エピルビシン)、パラプラチン(一般名カルボプラチン)、エンドキサン(一般名シクロフォスファミド)などがあります。一方、10~30パーセントの患者さんに起こる低等度リスクの抗がん剤には、タキソール(一般名パクリタキセル)、タキソテール(一般名ドセタキセル)などのタキサン系、10パーセント未満の患者さんにしか起こらない極低等度の抗がん剤には、ブレオ(一般名ブレオマイシン)などがあります(表1参照)。

[表1 催吐作用の分類と代表的な薬剤]

高等度リスク 90%以上の患者に起こる ランダ、ブリプラチン(シスプラチン)
ダカルバジン(ダカルバジン)
ナイトロミン(塩酸ナイトロジュンマスタード)
中等度リスク 30~70%の患者に起こる アントラサイクリン系抗がん剤
パラプラチン(カルボプラチン)
エンドキサン(シクロフォスファミド)
低等度リスク 10~30%の患者に起こる タキサン系抗がん剤
トポイソメラーゼⅠ型阻害剤
ノバントロン(ミトキサントロン)
極低等度リスク 10%未満の患者に起こる アルキル化剤系抗がん剤
植物アルカロイド系抗がん剤
ブレオ(ブレオマイシン)
( )内は一般名

ASCOでは4つのカテゴリーごとに、急性嘔吐、遅延性嘔吐それぞれに効果のある制吐剤の組み合わせを示しています。

岩瀬さんは、このガイドラインに沿って日本向けにアレンジした代表的なレジメン(組み合わせ)を作成。東大病院緩和ケア診療部などの臨床現場で、中・高等度リスク抗がん剤を使用する患者さんの吐き気・嘔吐予防に応用し、成果を上げています。

「乳がんであれば、アントラサイクリン系のアドリアシン、ファルモルビシンなどを使用するACT、FAC、CEF、メソトレキセートを組み合わせるCMFなどが対象になります」

岩瀬さんの方法は、まず、抗がん剤の投与前に、5-HT3受容体拮抗剤のグラニセトロンとステロイド剤のデキサメタゾンを点滴または静脈投与します。さらに、1~4日目までグラニセトロンとデキサメタゾンの錠剤を内服。5日目はデキサメタゾンの錠剤���みを内服します(表2・3参照)。

抗がん剤の点滴が3週間に1回でも、1週間に1回でも予防法は同様です。

低等度リスク抗がん剤に分類されているタキサン系の薬剤を使う場合は、5-HT3受容体拮抗剤は使わず、ステロイドのみで対応するそうです。

「日本ではステロイド剤がすぐれた制吐剤であるという認識があまりもたれていませんが、5-HT3受容体拮抗剤と併用すると、急性嘔吐と遅延性嘔吐の両方に非常に有効です。ステロイドの副作用を心配して使用を控えるケースもあるようですが、適正な用量・用法で使うかぎり、重篤な副作用は報告されていません」

なお日本の現状では、ステロイド剤に制吐剤としては保険が適用されないため、医療者サイドでは別の病名、症状で処方することになります。今後、混合診療が認められれば、もっと使いやすくなるのかもしれません。

「この方法で予防すれば、抗がん剤の点滴当日でも普段どおりに食事を食べられますから、私は特に食べ物の制限はしていません。どうしてもムカムカするときは、風邪のときと同じように、油ものを避け、消化のよいものをとるとよいでしょう」

ACT=アドリアシン、エンドキサン、タキソール
FAC=5-FU、アドリアシン、エンドキサン
CEF=エンドキサン、ファルモビシン、5-FU

[表2 中・高等度リスク抗がん剤投与前(当日)の点滴による嘔気対策]

投与前(当日) グラニセトロン(3mg)1A+デキサメタゾン(16mg)2Aを生食50mlに混注し、
15分程度でDIV
グラニセトロン(3mg)1A+デキサメタゾン(16mg)2Aをワンショットで混注し、
15分程度でIV.
DIVは点滴、IVは静脈投与、Aはアンプルの略

[表3 中・高等度リスク抗がん剤投与後(翌日)の経口剤による嘔気対策]

1日目~2日目 グラニセトロン(2mg)1錠内服
デキサメタゾン(0.5mg)8錠内服
デキサメタゾン(0.5mg)8錠内服
3日目~4日目 グラニセトロン(2mg)1錠内服
デキサメタゾン(0.5mg)8錠内服
5日目 デキサメタゾン(0.5mg)8錠内服

吐き気対策体験談

3日3晩、吐き気の嵐で、治療を断念

千葉県・三橋玲子さん(47歳・仮名)

インターネットで患者さんの体験談を見ていたら、「CMFの治療で、3日3晩寝られず、食べられず、吐くものがないのに吐き続けた」「胸の上に鉄板を乗せられ、首を締め付けられているようで、ずっと布団の中で唸っていた」という方がいました。「ああ、私とおんなじだ~」と、連帯感を感じたものです。私も、乳がん術後の補助療法でCMFの治療を受けたのですが、「CMFなら副作用もたいしたことないわよ」という先輩患者さんの言葉に反して、点滴当日から吐き気の嵐。2回目には点滴するベッドのカーテンがなびいただけで、吐き気が襲ってきました。今となれば、これが世に言う「予期性嘔吐」だな、とわかるのですが……。

医師に吐き気を訴えても、とりあってもらえず、ついに予定回数をクリアせずに中止してしまったのです。今では、吐き気も予防薬でずいぶんおさえられるようになった、と患者仲間から聞いています。アドリアシンが含まれるAC療法を受けているのに、全然吐き気がない、という仲間もいます。これから抗がん剤治療を受ける方は、きちんと吐き気対策をしてもらえるか、担当医に聞いてみることをおすすめします。

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