抗がん剤治療中の吐き気と嘔吐は適切な予防で改善できる! | ページ 3

監修・アドバイス:岩瀬哲さん キャンサーネットジャパン科学ディレクター
文:池内加寿子
発行:2005年3月
更新:2013年8月

急性嘔吐・遅延性嘔吐をきちんと予防することが、心因性嘔吐の予防にもつながる

急性嘔吐が現れる場合は、遅延性嘔吐も現れやすいとのことですから、ガイドラインに沿って急性嘔吐を予防することが、遅延性嘔吐の出現を予防するためにも大切です。

「医師の白衣や抗がん剤のボトルを見ただけで吐き気を感じる予期性嘔吐は、心理的な恐怖感が原因ですから、対策もなかなか難しいものです。抗がん剤治療を始めて、強い吐き気を感じたり、吐いてしまったりした過去の経験が予期性嘔吐に結びつくのですから、治療を始める前からしっかり予防対策を講じることが、予期性嘔吐を予防する決め手になります」

現在、抗がん剤治療中の方で、吐き気や嘔吐がひどい場合は、どのような予防策がとられているか、主治医に聞いてみるとよいでしょう。

吐き気・嘔吐対策が医師の経験的なさじ加減で行われているときや、あるいはまったくなされていないようなら、ASCOのガイドラインについて伝えるか、岩瀬さんのレジメンを示してみるとよいかもしれません。それができないときは、化学療法に詳しい医師にセカンドオピニオンを求めてみましょう。小誌の「がん相談」やキャンサーネットジャパンのメール相談を利用する手もあります。

初発治療と再発治療では、副作用に対する心構えを変えて

がんの初発治療の場合、術前術後の化学療法は、再発を予防する「根治」を目的として行われます。

「エビデンスのある化学療法なら、予定通りやり遂げることで恩恵が得られるので、副作用が少々きつくても我慢する価値があります」

これに対して、再発の治療で化学療法を受ける場合は、患者さん自身が目的をはっきりさせておき、副作用が強いとき、中止も含めて検討する必要がある、と岩瀬さんはアドバイスします。

「乳がんの局所再発や、大腸がんの肝転移・肺転移などで、手術可能な場合などを除く遠隔再発の場合、根治をめざすのはかなり難しくなるので、なるべく長く元気で過ごせるように、症状をコントロールしながら、生存期間を延ばすことが治療の目的になります。抗がん剤治療中に、適切な予防措置を講じても、耐えられないほどの吐き気や嘔吐がある、寝込んでしまうなど、強烈な副作用が現れるときは、症状コントロールができているとはいえませんから、抗がん剤を中止して、がんと共存しながら痛みをとり、なるべく長く快適に暮らすのも選択肢の1つになります。一方、QOLが落ちてもよいから、1日でも長く生きることを願って、副作用に耐えるという選択肢もあるでしょう。この場合は、副作用で逆に命を縮めてしまう危険もないとはいえません。再発治療では、リスクとベネフィットを勘案し、中止するか続けるか、薬剤を変更するか、患者さん自身に考えていただきたいと思います」

骨髄抑制がみられたら、抗がん剤を1週間見送り、様子をみる

化学療法中の代表的な副作用の1つが骨髄抑制です。これは、抗がん剤が骨髄細胞にダメージを与���、骨髄が作られなくなって起こるもので、白血球数などで判断します。

一般に、白血球の基準値は3000から9000で、平均値は6000程度。抗がん剤治療を受けて、白血球が3000程度に下がると心配する方がいますが、平常時でも2500~4000程度の人もいますし、1000単位で日内変動するものですから、一喜一憂する必要はありません。

数値が高ければよいというものではないのです。

ただ、抗がん剤治療の3週目に血液検査をして、3000をきっていたら、念のため、点滴を1週間見送り、様子をみるのがよいでしょう。これは、標準的に行われている対策です。

医療用語でGと呼ばれる骨髄増強剤のG-CSFを投与すると、骨髄の数値は簡単に上がりますが、これは、骨髄細胞が未熟な状態のまま、早く生まれさせているだけなので、根本的な解決にはなりません。

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