抗がん剤治療中の吐き気対策と食生活の工夫
吐き気や嘔吐は制吐剤である程度予防できる
吐き気や嘔吐が現れるのは、抗がん剤の刺激が脳の嘔吐中枢に伝わるためです。嘔吐や吐き気は現れる時期によって、急性嘔吐、遅発性嘔吐、予期性嘔吐の三つに分けられ、対処法も異なります。
急性嘔吐は、投与開始後24時間以内に現れるもの。これは、体内に入った抗がん剤によって、腸管からセロトニンという神経伝達物質が大量に放出され、上部消化器にある受容体と結合し、刺激を脳に伝えるために起こると考えられています。代表的な制吐剤のカイトリルやセロトーンは、受容体にくっついて、刺激の伝達が脳に伝わらないようにブロックする薬剤で、主に急性の嘔吐に有効です。
また症状によっては、ステロイド剤などが使われることもあります。
遅発性嘔吐とは、投与開始後24時間以降から始まり、2~5日ほど続くものをいいます。「原因はまだ明らかにされていませんが、1~2日以降も嘔吐や吐き気が続くようなら、自宅で使える内服薬や坐薬タイプの制吐剤を処方してもらってもいいでしょう」(佐久間さん)
投与前に起こる嘔吐の予防には呼吸法・イメージ法が効果的

2.鼻からゆっくりと息を吸い込み、口または鼻からゆっくり息を吐き出す
[イメージ法]
抗がん剤の投与前から、想像するだけで吐き気をもよおす予期性嘔吐は、以前の不快な体験が不安をかきたてるために起こるもの。ドクターの白衣、抗がん剤のボトル、アルコール綿のにおいなどが連想のきっかけとなって現れることもあります。
「予期性嘔吐には、呼吸法やイメージ法などを採り入れたリラクゼーションもよいでしょう。これは、呼吸などの動作に意識を集中させて、意識をそらす方法で、抗がん剤に対する恐怖心が強い方にもおすすめです。この方法を覚えてから吐かなくなった、ラクになった、と患者さんたちに好評です」(渡邉さん)
●呼吸法
不快なにおいのしない静かな部屋で好みの音楽を流しながら、ラクな姿勢で椅子に深く腰かけます。軽く目を閉じ、口を少し開けて、鼻からゆっくり息を吸い込み、ゆっくりと吐き出して、自分の呼吸に意識を集中します。
「5分程度くり返すと、からだがホワンと温かく、浮くような状態になり、緊張がほぐれて深いリラクゼーションの状態が得られます」(同)
●イメージ法
「この後、イメージ法をプラスしてもいいでしょう。自分の好みの場所、たとえば海や森などでゆっくり休んでいるところを想像します。吐く息と一緒に胃のムカムカが出て行くさまを想像するのも有効です」
部屋に流す音楽は、癒し系の楽器のみの軽音楽など、歌詞のないもののほうが落ち着くようです。
病院で抗がん剤の点滴を受ける前から吐き気をもよおす方は、携帯用のCDやMD、雑誌などを持参して、待ち時間や点滴中に利用するのもおすすめです。
帰宅後はラクな服装で気分転換しながら過ごす
同じ抗がん剤を使っていても、点滴中から吐いてしまう方、夜から翌朝にかけて吐き気がくる方、何日も持続する方など人さまざまですが、点滴の翌日がピーク、というケースが多いようです。「自宅では、薬に頼るだけでなく、上手に気分転換することも大切です」(佐久間さん)
体をしめつけないラクな服装を選び、窓を開けて、新鮮な空気に触れてみましょう。元気があったら散歩にでかけるのも気分転換になります。外出する体力がなければ、好きな音楽を聴く、テレビや雑誌、趣味などに気持ちを向けるのもおすすめです。普通は治療終了後1週間ほどで吐き気がなくなるようです。
食べたいものを食べたいときに。食生活実践アドバイス

「化学療法中は正常細胞のダメージも強く、通常よりエネルギー量を必要とするため、体力を維持するためにも食事は重要です。ただ、ムカムカが強いときに無理に食べると、かえって吐き気を誘発しますから、食べたいときに、食べたいものを食べるのがポイントです」(佐久間さん)。渡邉さん、佐久間さんからの以下の実践的アドバイスをためしてみてください。
1 食前に冷水うがいをする
食事の前に、冷たい水や番茶でうがいをすると、吐き気予防に有効です。「はちみつレモン」や梅ガムなどは唾液の分泌を促し、食欲を高めたり、食物をのみこみやすくする効果があります。炭酸飲料を飲むと胃が落ち着くという方もいます。
2 栄養より好みを優先する
食欲がないときは、栄養よりも、食べたいものを食べることを優先させます。抗がん剤の作用でこれまでと好みが変わることもあります。化学療法中でも、カップラーメンなど味の濃いものを好んで食べる人も多いものです。
3 小盛りにして少量ずつ食べる
吐き気があるときは、一度にたくさん飲んだり食べたりせず、少量ずつ何回にも分けるとよいでしょう。化学療法の初日、のどが渇いたので帰宅してから大量のジュースを飲んだら吐いてしまったという例もあります。
4 暖かいものは避ける
ご飯やおかゆなど、暖かくてムッとするものの臭いをかいだだけで吐き気を誘発することがあります。暖かいものよりは冷たいもののほうが、吐き気を起こしにくいようです。小さなおにぎりや、水分の少ないロールパン、トースト、クラッカーなどのほうが吐き気が起こりにくく、食べやすいという方もいます。
5 シンプルな調理法にする
「高カロリー高たんぱくの食事を」とすすめる実用書もありますが、実際は食べられないことが多いもの。消化しにくい油ものや刺激のあるものは避け、魚なら焼く、野菜ならゆでるなどのシンプルな調理法をためしてみてください。あんかけや、ソースにこった料理にするより、意外と食べやすいという声が多く聞かれます。
6 口当たりのよいものにする
固形物が飲みこみにくいときでも、すりおろしリンゴ、桃、アイスクリーム、シャーベット、プリン、ヨーグルトなど、のどごしのよいものならOKということがあります。そうめんとスイカ、とうがんだけでひと夏過ごした、という人もあるほど。少し食べられるようになったらほうれんそうのクリーム煮やカボチャのマッシュ、野菜のポタージュなど、栄養を考えたメニューも工夫してみましょう。野菜をとることは便秘の解消にも有効です。
7 香りや酸味を利用する
抗がん剤投与中はよく味覚異常が起こり、苦みや甘味を強く感じたり、逆に味を感じなくなったりします。ゴマの香り、酢の物など食欲が増すものを工夫してみます。
8 口内炎があればスープにする
口内炎があるときは、酸味や辛みのある食物は避け、ミキサーにかけたスープなどに。潰瘍になっているときは、感染を防ぐために、1日に何度も水でうがいをするとよいでしょう。
9 食べる場所を変えてみる
自宅では、庭やベランダなど、いつもと違う場所で食事をして気分を変えるのも食欲増進に効果的です。
外の空気に触れながら食事をするのも気持ちがいいものです。家族とともに好きなものを食べるとよいでしょう。
10 水分補給を忘れない
食べられないときや嘔吐が続くときでも、脱水症状を防ぐため、水分をとることが大切です。水やお茶をこまめにとりましょう。電解質が失われるので、スポーツドリンクを少量ずつ飲むのもおすすめです。
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