見逃さないことが重要 化学療法時のB型肝炎の再活性化対策

監修●池田公史 国立がん研究センター東病院肝胆膵内科科長
取材・文●柄川昭彦
発行:2015年10月
更新:2015年12月


感染の有無は血液検査でわかる

抗がん薬による治療を開始する前には、B型肝炎ウイルスの感染があるかどうかを調べることが推奨されている(図3)。検査は簡単で、血液を採取し、それを調べるだけでよい。

図3 B型肝炎ウイルス再活性化を見据えた抗がん薬治療の進め方

まず調べるのは、「HBs 抗原」である。陽性なら、血液中にB型肝炎ウイルスがいることになる。これがキャリアと呼ばれる持続感染している人たちの状態である。

陰性なら、血液中にはB型肝炎ウイルスがいないことを意味する。その場合には、次に「HBc 抗体」と「HBs 抗体」を調べる。どちらか一方でも陽性だった場合、過去にB型肝炎ウイルスに感染したことを意味する。

「過去に感染していた人の場合、血液中にはウイルスがいませんが、かつてB型肝炎にかかったことがあるので、肝臓などにウイルスが潜んでいる可能性があります。それが、抗がん薬治療による免疫の低下で、再活性化してくることがあるのです」

再活性化したかどうかは、「HBV DNA」という検査で調べる。血液中のB型肝炎ウイルスの量を測る検査である。

「血液中にウイルスがいなければ検出感度以下という結果になりますが、抗がん薬治療を開始した後、ある一定量以上になった場合には、再活性化したと判断します。B型肝炎のキャリアの患者さんでは、ウイルス量が10倍以上に増えた場合です。ただ、再活性化してもすぐに肝障害を起こしてしまうわけではなく、多くは4~5カ月経ってから肝障害が起きてきます」

肝障害が起きてしまうと、前述したように一部は劇症化して、死に至るケースもある。こうした事態を防ぐことが必要である。

再活性化が起きたら 薬で肝障害を予防する

抗がん薬治療開始前に、過去にB型肝炎ウイルスにかかったことがあるとわかったら、どのような対策をとるのだろうか。

「まず『HBV DNA』を測定し、血液中のウイルス量が、2.1 log copies/ml未満であることを確認しておきます。抗がん薬治療が始まったら、1~3カ月毎に『HBV DNA』を測り、肝機能を評価するために『AST』と『ALT』の値を調べます。『HBV DNA』が2.1 log copies/ml以上になったら、再活性化が起きたと判断します」

このように定期的に検査することで、再活性化を見逃さないようにする。再活性化した場合、肝障害が起こるのは一般に4~5カ月後なので、その前の段階で抗ウイルス薬を予防投与する。

「使われるのは核酸アナログという種類の薬です。バラクルードという薬がよく使われています。テノゼットという新しい薬もあり、効果はほぼ同じと考えていいでしょう。核酸アナログは、B型肝炎ウイルスを体から排除することはできませんが、作られたウイルスが血中に出てくるのを抑えることはできます。それによって、肝障害が起きる可能性を低下させるのです」

再活性化したとしても、肝障害を抑えることができれば、危険な状態になることは避けられる。大切なのは再活性化を見逃さないようにし、再活性化した場合には、適切に予防投与を行うことである。

「再活性化して核酸アナログで治療すれば、抗がん薬治療は継続できます。再活性化しても肝障害さえ起きなければ、がんの治療成績にはほとんど影響しないことがわかっています」

適切な対応をしていれば、肝炎が劇症化して命を落とすこともないし、がんの治療にも影響しないのである。

AST=アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼ ALT=アラニンアミノトランスフェラーゼ。AST、ALTいずれも、肝臓の細胞が壊れると血中に出てくる酵素 バラクルード=一般名エンテカビル テノゼット=一般名テノホビル

命を落とさないためには 抗がん薬治療の前に検査を

B型肝炎ウイルスの再活性化は重要な問題だが、十分な対策が取られているとは言えない。化学療法を行う医師でも、この問題に関心が低い人が少なくないようだ。

「再活性化が全ての人に起こるわけではないというのが、その理由の1つでしょう。過去にB型肝炎ウイルスにかかったことのある人は、抗がん薬治療を受ける人の20~30%を占めていますが、この中で再活性化を起こすのはわずか数%です。この人たちを治療するのは有意義ですが、数%の人を見つけ出すには、抗がん薬治療を受ける全ての患者さんに検査しなければいけません。その医療費を考えると、費用対効果はあまりよくないのです」

ただ、その一方で、再活性化が起き、肝炎が劇症化してしまうと、命を落とすことになりかねない。このような事態を防ぐため、「免疫抑制・化学療法により発症するB型肝炎対策ガイドライン」では、抗がん薬治療開始前にスクリーニングを行い、持続感染しているHBVキャリアの場合には、「HBe 抗原」、「HBe 抗体」、「HBV DNA」検査をした上で、抗ウイルス薬を投与。

一方、過去にかかったことのある人の場合には、「HBV DNA」検査でウイルス量を測定し、再活性化が確認された段階で抗ウイルス薬の投与を推奨している。

「過去に感染したことがあっても、再活性化するのはごく一部です。また、たとえ再活性化しても必ず肝障害が起きるというわけではなく、中には自然に元の状態に戻るケースもあり、その場合、治療する必要もありません。医療費の無駄を減らすためにも、どのような人が再活性化し、肝障害を来してしまうのかがもう少し予見できなければと思っています」

そのあたりが今後クリアすべき課題と言えそうである。

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