リンパ浮腫と感染症 婦人科系がん手術後に起きるリンパ浮腫
感染を繰り返すとリンパ浮腫は悪化する
――結局、リンパ浮腫が永久的になる原因は何なのですか?
佐々木 大きな原因は、結局は感染です。リンパ浮腫にとって感染というのは本当に危険ですよ。
――リンパ節をとると、感染症が起きやすくなるのでしょうか?
佐々木 リンパ節は全身をめぐるリンパ管のところどころにあり、細菌やウイルスをやっつけるリンパ球や白血球の集合場所になっています。このリンパ節をとることによって免疫が下がって、それが細菌やウイルス感染を引き起こす可能性があるとされています。
――化学療法との関係はどうでしょう。
佐々木 化学療法中には抗がん剤によって白血球などがダメージを受けて免疫力が低下しますから、よく帯状胞疹(ヘルペス)などにはなりますね。そういうことでは抗がん剤の治療による免疫の低下とも、無関係ではないかもしれません。
――両方の影響ということでしょうか。
佐々木 そうですね、リンパ節をとったからといっても、とるところは一部ですし、全身のリンパ節からするとそんなに多くはない。それで全身のリンパ節の免疫が落ちるわけではないですね。
手術後にリンパ浮腫を起こす人というのは、治っても、また体力が落ちたり、いろんな状態で発熱を起こしたり、膿がたまったりする。そして発熱が起きることで、よりいっそうリンパ浮腫が強くなる。基本的には卵が先か鶏が先かという話にも似て、リンパ浮腫があるから感染が起きやすい、感染が起きやすいからリンパ浮腫があるという相互関係があります。
――なるほど悪循環になるわけですね。感染症を繰り返しやすい体質の人もいるんですね。対策はあるのでしょうか。
佐々木 感染を繰り返しやすい体質の人は、あらかじめ予防的に抗生物質をもらっておいて、腫れるとすぐ飲むということをしている患者さんもいます。
予防的手術に希望も出てきている
――リンパ浮腫が起きにくい手術法はないのでしょうか?
佐々木 現在、手術の最後に、リンパ液の流れるところを作る予防的な手術を、研究的に何例かしています。腫れたからつなぐのではなく、あらかじめお腹のなかでつなぐ予防的な方法を考えなければならない時期だと思っています。腫れてしまってからリンパ管をつないで、リンパ液が流れるようにしても、腫れを引かせる効果があがらない例もあります。
現在当院では、倫理委員会を通し、患者さんに承諾をいただいた上で、この予防的な手術を臨床試験的に行っていますが、結果はいいように思います。
――まだ、データがそろってはいないわけですね。でも希望がありそうな方法ですね。
手術後すぐ、患者が自分でできること
――ところで、リンパ浮腫が起こりそうなとき、本人は見てわからないものでしょうか。
佐々木 難しいでしょうね。医師側がリンパ嚢胞がないか、感染を起こしていないかを血液検査や超音波でチェックしてみるわけです。ご本人自身は、骨盤の中の嚢胞については予防しようがないでしょうね。
――リンパ節を切除して腫れが起こるのは、脚だけですか?
佐々木 乳がんの場合も、リンパ節切除で手が腫れると言っていますね。しかし手の腫れのほうが、まだ腫れは元にもどりやすいようです。
――手術後、患者にできることは何かないんですか。私は象さんのような脚にならずにすむなら、何でも試したいです。
佐々木 まず食事が大切です。食事をしないで全体的な免疫が落ちることはよくないです。体力をつけることが本人にできる唯一のことです。これは、感染症防止全般に言えることですね。
もちろん術後だから美味しくはないでしょうけれど。あとは精神面での安定や清潔な環境を心掛けることですね。
――これもシンプルですが大事ですね。前向きに考えるということですね。
術後放射線治療を受ける人はリンパ浮腫の高危険群
佐々木 医療の観点に戻ると、手術後に抗がん剤治療や放射線治療をしなくてすむ人は、リンパ嚢胞ができても、比較的回復が早いですね。子宮頸がんで放射線治療を受けた人は、リンパ嚢胞からリンパ浮腫を起こす高危険群ですね。
――放射線治療はなぜリンパ浮腫に影響があるのでしょう。
佐々木 なぜかと言うと放射線のかかったところが固くなり、リンパ液の環流が悪くなるためです。
――それは、どうやって防止すればいいのでしょう。
佐々木 放射線治療をされる方だけではありませんが、リンパ液の環流を助け、むくみにくくするために、サポーター(弾性)ストッキングをはくことをおすすめします。ストッキングで適度な圧迫を加えることで、リンパ液がたまるのを防ぎます。
――ほかに、放射線治療では何を気をつければいいですか。
佐々木 放射線をかけると免疫力が弱くなります。食欲も落ち、だるくなるし、下痢をすることもある。このときも十分な水分補給と栄養が必要なのです。
――なぜ水分が必要なのですか。
佐々木 水をたくさん飲むと、放射線で電離された血液が尿となって出ます。副作用をとるためにも、体に残っている薬品をどんどん排出したほうがいいのです。
――どのくらい飲めばいいのですか?
佐々木 1日に2リットルは飲んだほうがいいですね。足がむくむのは、血漿やリンパ液もたまるからです。細菌やウイルス、さらに真菌に対して抵抗するためには、免疫力が必要で、水分補給と高タンパクが必要です。どうしてもやせてくるとよくないのです。患者さんご自身ができることは、あんまりやせないように、少し太めになるように、体力をつけることが大事です。
――体力と言えば運動も必要ですね。
佐々木 無理な運動をするとリンパ浮腫を起こしやすいので、必ずストッキングをはいて、疲れない程度にやることですね。
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