これまでの知見から見えてきた対応策 がん治療中のコロナ感染症

監修●加藤俊介 順天堂大学大学院医学研究科臨床腫瘍学腫瘍内科教授
取材・文●菊池亜希子
発行:2021年11月
更新:2021年11月


ワクチン接種を薦める理由

新型コロナ感染症の予防と言えば、やはりワクチン接種を思い浮かべるだろう。

「私の患者さんには全員、伝えていますが、ワクチンは接種できる機会があれば、ぜひ接種しておいてほしいと思います」と加藤さんは強調した。

がん患者さんにとって怖いのは、感染することより、重症化すること。とすると、やはり重症化リスクを下げるワクチンは接種しておくに越したことはない。ただ、加藤さんがワクチン接種を薦める理由はそれだけではない。

「抗がん薬治療をしていると、発熱性好中球減少症という副作用が頻発します。つまり熱が出るわけですが、そのとき、まず医療者が患者さんに聞くことは、ワクチンを接種していますか? ということなのです」

発熱という症状だけでは、発熱性好中球減少症による発熱なのか、新型コロナ感染症による発熱なのかが判別できないそうだ。かつ、両者は対処法が全く違うので、ワクチン未接種の場合、まずはPCR検査から始めなければならず、速やかに副作用治療に入れない。結果、患者さんが苦しむ時間を長引かせてしまうという。

「もちろんブレークスルー感染の可能性もあるので、ワクチン接種済みだからといってコロナ感染の可能性が完全に否定できるわけではありません。けれども接種済みならば、発熱性好中球減少症を念頭に、速やかに抗生剤による治療に入ることができます」

万が一、コロナ感染した際の重症化を抑えることはもちろん、抗がん薬治療の副作用で発熱した際にすぐ処置に入るためにも、「ワクチン接種はチャンスがあればぜひ受けておいてほしい」と加藤さんは繰り返した。

免疫抑制剤を使っている場合は……

ただ、「免疫抑制が起きる治療を行っている患者さんは、ワクチン接種についても主治医とよく相談してほしい」と加藤さんはつけ加えた。

血液がんの治療法として、幹細胞移植や臍帯血移植があるが、移植に伴ってさまざまなつらい症状(GVHD:移植片対宿主病)が出ることは避けられない。それらに対して行われる主な治療法が免疫抑制剤の投与だ。

ステロイドも免疫を抑制する方向に働く薬剤。外用薬のステロイドはさほど影響ないそうだが、血液がんの治療や、固形がんでも抗がん薬投与の際に使用する制吐剤などにもステロイドは使われている。

ステロイド内服期間は免疫が抑制されるので、ワクチン接種とは時期を離したほうがいいだろう。そのあたりも含め、ワクチン接種にあたっては、接種時期を含め、現在行っているがん治療との兼ね合いに問題がないか、主治医に相談したほうがよさそうだ。

「免疫抑制状態でワクチン接種しても、十分な免疫が得られにくいことが理論上���測されるため、ワクチン接種のメリットが弱められる可能性があります。ただ、それは現在使っている薬が何かによりますし、さらに言えば、もし免疫抑制のある薬であったとしても、薬剤投与時期とワクチン接種時期をずらせば問題なく接種できることもあります。そのあたりを含め、ぜひ主治医と十分に相談して判断してください」

がん治療は中断せずに続けよう

コロナ感染症を恐れて、がん治療を中断する患者さんもいたのだろうか?

「当院(順天堂大学病院)では、化学療法室を利用する患者さんの人数は、コロナ禍でも減少しませんでした」と加藤さん。さらにこう続けた。

「たしかに2020年始めの第1波と言われた時期は、患者さんの診療控えがあって治療を中断する方もいましたが、その後、第2波、第3波とありましたが、患者さんは戻って来られました。結局、2020年トータルで見ると、化学療法を受ける患者さんの数は2019年と比べてほとんど減りませんでしたし、2021年は控えていた方が戻ってこられたのか、2019年、2020年と比べて逆に増えています」

コロナ禍に入ったばかりの2020年当初の第1波の時期は、医療機関を含め、世界中、誰もが手探りの状況で、何もかも中断するしかなかった。がん治療も例外ではなかったのだろう。しかしその後、できる限りの対策を取り、十分注意しながらがん治療を継続する形に、医療機関、患者さんともに舵を切ったわけだ。

「コロナ禍でも、がん治療はしっかり続けられます。もし、今も躊躇している患者さんがおられましたら、どうぞ、がん治療を前に進めてください」と加藤さんは力強く語った。

ただ、どれほど気をつけていても、完全に防ぎ切ることができないのが新型コロナウイルス感染。もしも感染したかもしれないという状態になったときは、躊躇せずに自治体の管轄箇所へ連絡しよう。その際は、「がん治療中であることを、しっかり伝えることを忘れないように」

がんという基礎疾患を持っている以上、できることなら中和抗体などの治療を速やかに適応してほしい。ただ、受けたい治療を望み通り受けられるとは限らないのがコロナ医療の実情。だからこそ、マスクを中心とする感染予防を徹底し、重症化リスクに対する正しい知識を持って日々を送ろう。

その上で、がん治療を適切に進めていくことが何より大切。くれぐれもコロナ感染症を恐れて、がん治療を中断することはしないでほしい。

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