接種したい4つのワクチンとそのタイミング がん患者・サバイバーのワクチン接種
インフルエンザ、新型コロナワクチン
「インフルエンザや新型コロナワクチンは、季節ごとに接種が必要です。たとえば、最後の新型コロナワクチン接種が2年前なら、効果はだいぶ落ちています。免疫不全の方に関しては、最近のデータを見ると、理想としては半年~1年ごとに再接種していくことが、重症化リスクを担保する上では良いとは思います。ただ、2024年4月以降の*定期接種の対象者は自己負担でおよそ7,000円、秋~冬の年1回接種になりそうです。インフルエンザも同様に秋ごろの年1回の接種をお勧めいたします」(表5)

では、新型コロナはインフルエンザと同じと考えれば良いのでしょうか?
「今後はそういう立ち位置になるのだろうとは思いますが、新しいワクチンなのでまだわかりません。費用対効果を考えて国は推進・推奨していくと思います」
*定期接種=対象者65歳以上と60~64歳の重症化リスクの高い人
4つのワクチン以外にも推奨されるワクチンはありますか?
「麻疹・風疹、おたふくかぜに関しては、幼少時に予防接種をしていない、もしくは感染していない人は接種したほうが良いと思います。とくに妊娠中のお子さんがいる場合などは風疹をうつすと孫が先天性風疹症候群になることもありえますので、風疹ワクチンの接種が推奨されます。ただし、抗がん薬治療中や免疫抑制剤使用中は生ワクチンの接種はできませんので主治医にご相談ください」
破傷風:破傷風菌は土や動物の体内にいて、傷口から感染します。子供は定期接種ワクチンですが、大人は任意接種です。
「怪我をしやすい環境にいるがん患者さん、たとえば、土木工事関係の仕事をしている方、ボランティアに行く方、園芸が好きな方などは、破傷風ワクチンをしっかり接種したほう良いです。米国では一般の人は10年おきに再接種しましょうといわれており、がん患者さん以外でも海外では定期的な接種が推奨されています」
RSウイルス:多くは風邪のような症状ですが、とくに高齢者、免疫が低下しているがん患者さんなどは重篤な症状を引き起こす場合があります。2024年1月から日本でも接種ができるようになりました。
「RSウイルスがどれくらい高齢者に影響を与えているのか、あまり国内のデータがないのでわかりません。米国では去年の秋からRSウイルスワクチン接種ができるようになり、公費助成のおかげもあり、すでに今年の2月までに60歳以上の2割以上が接種を終えています。米国臨床腫瘍学会は60��以上のがん患者さんへの接種を推奨しています。日本では25,000円前後の自費接種になりますが、今後どの程度の人が接種するのか不明です」
注意すべきがん種はありますか?
「造血幹細胞移植を行った患者さんのように、血液細胞の源となる造血幹細胞を入れ替えてしまうと免疫の記憶がリセットされてしまいます。基本的には、幼少期からこれまでに接種したすべてのワクチンの再接種がガイドラインで推奨されています。ですから、一般のがん患者さんと造血幹細胞移植後の患者さんとは推奨される内容が大きく変わります」
造血幹細胞移植後の患者さんは、生まれてから一度もワクチンを打っていない人と同じように扱い、麻疹、風疹、おたふくかぜ、破傷風、ポリオなど全部接種することが推奨されています。地方自治体によっては公費助成がありますが、多くは自費のため、15~20万円かかります。
「とくに血液がん患者さんには若い方が多いので、すべて自費となると接種が難しい患者さんもいるため、全部接種できないとなれば優先順位をつけて推奨していくことになります。最も優先されるのは、先に述べた帯状疱疹、肺炎球菌、インフルエンザ、新型コロナの4つになります。それ以外にも麻疹・風疹のワクチンが非常に重要ですし、患者さんそれぞれの背景を見ながら、優先順位をつけることが必要です」
また、血液がんの悪性リンパ腫などの治療薬としてよく使用される抗CD20モノクローナル抗体(商品名リツキサン、ガザイバ、アーゼラなど)は抗体を作る細胞を障害する薬剤なので、ワクチンを接種してもワクチンの効果が落ちると言われています。
「ワクチン接種は抗CD20抗体使用後、6カ月以上は避けたほうが良いでしょう。インフルエンザワクチンのように毎年接種できるワクチンであれば、6か月以内であっても接種して良いと思います」
がん患者さんの多くはワクチンの効果は劣るため、接種後も感染には注意が必要で、感染予防対策も重要となります。加えて患者さんの周辺の人、家族やケアギバーなどがインフルエンザや新型コロナワクチンを接種して、間接的に患者さんを守ることも大切です。
がん患者さんとサバイバーは同じと考えても良いですか?
「がん患者さんとサバイバーでは、推奨されるワクチンの種類は同じと考えて良いです。ただ、接種のタイミングの違いは少しあります」
推奨される4つのワクチンのうち、帯状疱疹と肺炎球菌は接種回数が限られています。
「帯状疱疹や肺炎球菌のワクチンは、現在のところ一生のうちで接種できる回数は1、2回になります。がん治療中で免疫力が落ちているときに接種をしてしまうと十分な抗体をつけることが難しくなり、ワクチンを接種しても効果が落ちてしまいます。ですから、がん治療中の患者さんには、帯状疱疹や肺炎球菌ワクチンは、治療後しばらく経ってから接種したほうが良いと案内をすることも多いですね」
ただ、インフルエンザワクチンのように毎年接種できるワクチンなら、がん治療中でも接種しても問題はないそうです。
なお、国立がん研究センター東病院では、がん患者さん向けに「がん患者さんの感染症予防について」と「新型コロナウイルス感染症」についてのサイトがあります。
がん患者さんは感染症で治療が中断することなく、ワクチンの効果が最大限になるよう時期も考えて、より効果的に接種したいものです。
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