複合的な治療で改善する 上肢リンパ浮腫のセルフケア

監修●辻 哲也 慶應義塾大学医学部リハビリテーション医学教室准教授
取材・文●『がんサポート』編集部
発行:2014年3月
更新:2014年6月

リンパ浮腫治療のための弾性着衣

浮腫の症状が現れた場合には、皮下の組織に溜まったリンパを移動させたり、リンパ管の流れをスムーズにしたり、皮膚や皮下の組織を軟らかくしたりする目的で、圧迫療法が行われます。この治療法には弾性スリーブや弾性包帯などの弾性着衣を使用します。これらの弾性着衣は療養申請することで半年に1回それぞれ2着ずつ保険申請で購入できます。

弾性スリーブには、図6のように形状の異なる製品があり、かけられる圧力も20㎜Hg~ 40㎜Hg位(弱圧・中圧・強圧)と違いがあります。

浮腫の症状をみながら自分にあった商品を選ぶことが大切です。商品を選ぶ際は、リンパ浮腫外来を受診して、専門家に適切な圧やサイズを選定してもらい、実際にサンプルを装着した上で購入しましょう。

図6 弾性着衣の形状(上肢)

佐藤佳代子著、リンパ浮腫治療のセルフケア2008より引用

進行している場合は より強い圧を

Ⅱ期の後半やⅢ期の患者さんでは、集中的な治療が必要な期間があり、その際には弾性包帯を使った多層包帯による圧迫を行います。多層包帯法とは、皮膚の保護のための筒状包帯を装着し、その上から綿包帯を巻き、さらにその上に伸縮性の少ない弾性包帯を巻く巻き方です。

正しい巻き方の習得には練習が必要ですが、役立つ治療法なので覚えましょう。外来での治療も可能ですが、入院可能な施設であれば、入院による集中治療も有効です。

圧迫下では簡単な運動を

弾性着衣を使用した圧迫療法中に、適度な運動を行うことも有効です。筋肉は圧迫下で収縮・弛緩させることで、より効果的に周囲のリンパ管や静脈への刺激が生じ、リンパ液を流す(滞留を防ぐ)ことができます。

図7のような軽い運動を取り入れ、身体の幹部の流れを良くし、症状の改善を心掛けましょう。

図7 軽い運動の取り入れ方

リンパドレナージは 専門セラピストの指導を

図8 リンパドレナージの考え方

浮腫の治療では、皮膚や皮下組織に溜まったリンパ液をゆっくり軽い圧力でマッサージし、健全なリンパ管へ流すリンパドレナージと呼ばれるマッサージを行います。

例えば、右上肢にむくみの症状がみられる場合は、図8のように右鼠径リンパ節や左腋窩リンパ節に向けてリンパ液を流します。

この治療法の単独での治療効果は証明されていませんが、前述のケアの1つとして、複合的に行うことで効果が表れます。正しいリンパドレナージを行うには、がん診療を専門に扱���ている病院や、リンパ浮腫外来のある病院などで、専門のセラピストの指導を受けて行います。

リンパ浮腫は、複合的なケアを行うことで多くのケースで改善します。日常生活の中でしっかりと自己管理をして、より良い生活を送っていきましょう。

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