専門機関を受診し、適切な治療を受けることが重要 リンパ浮腫の改善は正しい知識と標準治療で

監修:佐藤佳代子 後藤学園付属医療施設リンパ浮腫治療室長
取材・文:館林牧子 読売新聞記者
発行:2005年8月
更新:2014年1月

専門セラピストからの指導が安全なセルフケアの近道

治療前
治療前
治療後
治療後

リンパドレナージを行う前と行った後、太ももの最大部で、8センチ細くなった

ここまで、「複合的理学療法」の主な流れを説明してきました。リンパ浮腫の保存的治療では、セルフケアを安全に行うために専門セラピストのいる治療機関において、患者自身も1人ひとりに合ったケアの方法を学び、リンパ液の流れを改善していくことが重要です。例えばマッサージの刺激の強さにしても、図1で説明した皮膚の下のリンパ管の構造を念頭に置いて行います。皮膚を大きくずらすことで、毛細リンパ管に刺激が加わり、細胞と細胞のすきまにたまったリンパ液が管に入りやすくなるのです。「皮膚を大きくずらす」感覚が必要で、強く押したり揉んだりしても効果は上がりません。こうしたコツは、実際に治療を受けてみないとなかなか伝わらないものなのです。

では、どこにかかれば良いのでしょうか? 最近では、リンパ浮腫への認知が広がり始め、一部のがんセンターや大学病院で、医師や看護師、理学療法士、マッサージ師の国家資格がある医療従事者で専門的な研修を積んだ人たちが中心となり、リンパ浮腫治療が始まっています。けれども、こうした先進的に取り組む医療機関はまだ少数派で、実際に問い合わせると、「当院で治療を受けた患者さんの対応で精いっぱい」という病院が多いのが現状です。

次ページにリンパ浮腫に対応するいくつかの治療機関と患者会を掲載しました。保険診療と自費診療を行っている機関がありますので、あらかじめ問い合わせて治療内容と料金を確認してください。いくつか特徴のあるケースを紹介すると、徳島市の「リムズ徳島クリニック」では、1カ月程度入院して集中的にケアを受けるとともに、自宅で行うケアを具体的に学ぶことができます。患者会「あすなろ会」では定期的に全国各地でセルフケアの講習会を開いていますので、近くで開かれた場合に参加してみるのも良いでしょう。医療機関を選ぶときには患者会のアドバイスも参考になります。

また、複合的理学療法をきちんと行える医療リンパドレナージセラピストを育成する「NPO法人日本医療リンパドレナージ協会」の正会員である、信頼のおけるリンパドレナージセラピストの一覧も掲載しています。これらのセラピストのなかには、出張治療を受け付けてくれるセラピストもいるので、高齢などの理由で外出が困難な人にも対応しています。

日常生活に欠かせない弾性スリーブ、ストッキングの活用

マッサージ中の様子
マッサージ中の様子

こうしたセルフケアの1つとして、リンパ浮腫の症状を良い状態で維持するためには医療用の弾性スリーブ、ストッキングの活用が欠かせません。弾性ストッキング、スリーブは病院の売店などでも自由に購入できますが、自分に合ったサイズを選ばないと良い効果が出ないこともあり、専門の治療機関に受診し、アドバイスを受けた上で選びましょう。

弾性スリーブ、ストッキングを着用するときは、しわができないように、「少しずつ」「均等に」「十分に」引き上げます。

例えば、弾性ストッキングをはく場合、まず、ストッキングの内側に手を入れて、かかとの部分をつまんで裏返しにしておきます。次にいすに座るか、足を投げ出した状態で、ストッキングのかかとをつまみ、つま先の部分につま先を入れます。そして、裏返しにしたまま、少しずつ引き上げてかかとまでを入れ、そのまま「つまみ直しては少し引き上げる」という動作を繰り返し、膝下まではきます。それから立ち上がって、少しずつ引き上げながら足の付け根まで伸ばします。途中で、引きつったり、しわができている部分があれば、そこまで戻ってはき直します。

弾性スリーブもほぼ同じ方法でつけることができます。スリーブの場合、自分では片手しか使えないので、家族やほかの人に手伝ってもらえる場合は、助けを借りましょう。滑る場合は、ゴム手袋などを使用するとうまくいきます。脱ぐときは着用したときとちょうど逆の要領でゆっくりと脱いでいきます。

さて、この弾性スリーブ、ストッキングですが、代金が数千円から数万円かかる上、消耗品ですので、弾力性が低下すると数カ月ごとに買い換えなければなりません。しかし、その代金は原則的には保険適用にならないことが多く、大部分の人は実費で購入しています。このほかにも、弾性包帯の代金などの治療費がかさむと毎月の家計を圧迫するケースも出てきます。患者会などが国にこうした諸費用の保険適用を求めて働きかけているところです。できるだけ早急な対応が望まれています。

リンパ浮腫の治療機関は、患者さんの数に比べて少なく、情報がまだ十分に浸透していないために、治らないとあきらめて、10年以上放置し、家からも出られずに寝たきりになった、というケースは残念ながら珍しくないのが現状です。確かにリンパ浮腫を完全に治すことは難しいですが、日常の活動に支障のない程度の状態を保つことは十分可能です。患者会や治療機関の情報をフルに活用して、上手にリンパ浮腫とつきあっていきましょう。また、がん治療を受ける前に、リンパ浮腫についての説明を聞くことも大切です。転移、再発のリスクを減らす意味でのリンパ節郭清は重要ですが、なかには十分なエビデンスもなく、安易に行われる拡大手術があることも事実です。何のために行われる治療なのか、治療によってどんな後遺症が出る可能性があり、出た場合にはどう対処できるのか……。がん治療を受ける前に十分説明を受けておくことが何よりも大切です。


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