上手につきあって更年期を快適に! PART-2

文:池内加寿子
発行:2004年2月
更新:2014年7月

子宮頸がんならHRTの利用OK
子宮体がん、卵巣がん、乳がんには禁忌

婦人科がん治療後の後遺症として更年期障害が出た場合、エストロゲン依存性(エストロゲンががんの成長を促す)のがんか否かによって、治療法が変わってきます。

エストロゲンが関係しないとされる子宮頸がんでは、前出の河村さんのようにHRTが利用できます。術後すぐにHRTを行う病院もあるそうです。

「30~40代では、もともとあるべきホルモン環境に近づけ、エストロゲン低下によって発症しやすくなる高脂血症、骨粗鬆症などを防ぐ意味で、HRTは有効です。乳がんの発症率も中高年層と比べれば低いと思われるので、短期的な利用は選択肢の一つになるでしょう」(村上さん)

一方、エストロゲン依存性のある子宮体がんや乳がん、卵巣がんの一部では、一般に術後5年間はHRTは禁忌とされています。

「子宮体がん、卵巣がんの場合でも、再発リスクの低い症例に限ってHRTを行っている医療施設もあります。更年期症状が強く、日常生活に支障をきたすようなときですが、あくまでも原発巣との兼ね合いです。これから治療を受ける方は、更年期症状が起こる可能性と対処法について、医師に聞いておくといいですね」。

  

漢方薬は冷えや不眠、自律神経失調症状に効果的

[図2 漢方治療の有効症状 SMIからみた症状改善率]
図2

東京逓信病院産婦人科/神田郁子

HRTを希望しない方、HRTが使えない方の更年期症状緩和対策には、漢方薬や自律神経調整薬がよく使われます。 漢方薬は、のぼせやほてり、手足の冷えなどの血管運動神経症状には著効を示し、憂うつ、イライラ、不眠などの自律神経失調症状も改善される、と報告されています(図2)。

「更年期症状によく効く漢方薬には、加味逍遥散、当帰芍薬散、桂枝茯苓丸などがあります。イライラ、不安、不眠、肩こりがひどい方には加味逍遥散が効果的です。

当帰芍薬散は、体力がなく色白ポッチャリ系で、冷え性、貧血のある方に向きます。体力があり、赤ら顔でガッチリタイプ、血圧が高めで肩こりが強い方には桂枝茯苓丸がよいでしょう。のぼせには桃核承気湯、体力の低下には補中益気湯、頻尿には猪苓湯が有効です」(村上さん)

漢方薬は食間に飲むのが基本。空腹時に飲むほうが吸収されやすいもの。元は煎じ薬ですから、多めの白湯で服用するか、お湯に溶いて飲むのが効果を高めるコツです。

病院の外来で漢方薬を処方される場合には保険が適用されます。

「うつ状態や自律神経失調症状が強いときは、自律神経調整薬が奏効することも。トランキライザーや抗うつ剤より、眠気や気力低下が起きにくいのがメリットです」。

腟の萎縮は、エストリオールで改善
性交痛にはゼリーを使って

腟の萎縮や性交痛で悩む方も多いもの。

前出の河村さんは、「広汎子宮全摘後、腟が短くなり、潤いもなくなり、当初は痛くて痛くて。術前に医師が夫婦二人を前に、術後のセックスについて『ゼリーやワセリンなどを使ってカバーして』などと話してくれていたので、お互いにいたわり合うことができ、術後4年目の今は、痛みもかなり薄らぎました」と語ります。

村上さんは「腟の粘膜に作用するエストリオールの内服か腟錠が腟の萎縮や性交痛の改善に有効です。薬局で扱っているゼリー(1000~2000円前後)やエストリオール配合のクリームで潤いを補うのも効果的。挿入だけを目的とせず、ハグやキスで触れ合うのもよいのではないでしょうか」とアドバイスする。

なお、尿失禁には出産後に行う骨盤底体操や肛門を引き締める運動が効果的。「泌尿器科や婦人科で、体への負担の少ない、尿道をつりあげる手術などを実施する病院も増えています」

アロマオイルのセルフマッサージでストレス解消。更年期の症状が軽くなる!

病は気から。更年期には特に、気分が症状に影響します。

「プラセボ効果と言って、疑似薬でも『効く』と信じていると、本当に症状が改善される、ということもありますから、よいと思われることは取り入れてみては? エストロゲンの代用となるイソフラボンを多く含む大豆製品をたっぷり食べる、骨粗鬆症の予防にカルシウムを十分にとる、ウォーキングやストレッチ、水泳などで体を動かす、ハーブティーやアロマテラピーで心身をリラックスさせるのもおすすめです」(村上さん)

最近人気のアロマテラピーは、ハーブから抽出した天然の精油を健康や美容に役立てる療法。入浴後または就寝前に、精油を植物油に溶かして、脚部中心のセルフマッサージを週3~4回続けると更年期の不調が改善される、と報告されています(注A)。

精油は加熱することで揮発度が高まり、強く香るので、キャンドルで温めるオイルウォーマーや、電球で温めるアロマライトで芳香を漂わせたり、バスタブに溶かすのも効果的。イランイランやローマンカモミール、ラベンダーなどの芳香はイライラや不安を和らげます。ベルガモットやマジョラムを4、5滴たらして入浴すると、冷えの改善に。油溶性なので、湯に入れるときはよくかきまぜます。

優雅な香りに包まれるだけでも気持ちが落ち着きますから、更年期の方だけでなく、がん治療前後の方や、普段お疲れ気味の方もぜひ試してみてください

[イライラや不眠にはアロマオイルでセルフマッサージ]

優雅な芳香が気持ちをリラックスさせ、イライラや不眠、冷えも改善!マッサージ後は洗い流さなくてOK。ひじやかかと、手のかさつきにも効果的。油分が気になるときは、ティッシュ等でおさえます。「精油は直接肌に用いないこと。必ず、基剤となるキャリアオイル(植物油)で0.5~1%に希釈して使いましょう」(村上さん)。
●マッサージオイルの作り方
1.植物油(マカデミアナッツ油かグレープシードオイル30ml)を容器に入れます。
2.1に精油の「イランイラン」と「ベルガモット」各3滴を加えて竹串でよくかきまぜればでき上がり。残ったら遮光ビンに入れて保存します。
セルフマッサージ1イラスト

(1)マッサージオイルを手のひらにとり、両手でこすり合わせて温めてから、脚のつけ根から足先に向けて両手で塗り、裏側は手のひらで包むようにして戻り、全体にのばします。

セルフマッサージ2イラスト

(2)足の指のつけ根から指先に向かって、らせんを描くように親指でマッサージ。5本の指が終わったら、円を描きながら甲全体へ。足の裏も指からかかとへマッサージします。


セルフマッサージ3イラスト

(3)親指以外の4本の指で、くるぶしをマッサージします。

セルフマッサージ4イラスト

(4)関節にあるリンパ節を圧迫しないように脚をなるべく伸ばし、人差し指の側面でふくらはぎを軽くしごくように両手で交互にマッサージし、太ももへ。太ももの内側はらせんを描く要領で。最後に(1)を繰り返して終了。
*リンパ浮腫のある方は専門家に相談してください。


(出典)
図1『産科と婦人科』2003年8号(診断と治療社)「HRTのリスクとベネフィットについての最近の知見」(東京女子医科大学産婦人科学教室 太田博明)
図2『日経メディカル』2003年10月号別冊付録「更年期障害の治療でHRTは漢方治療を上回るか」(東京逓信病院産婦人科 神田郁子)
注A=『産婦人科治療』Vol87 2003/9「更年期症状緩和におけるアロマテラピー」(グリーンフラスコ(株)同研究所 村上志緒、聖マリアンナ医科大学産婦人科学教室教授 代田琢彦他)
(参考文献)
『EBMを考えた産婦人科ガイドラインアップデート』(メディカルビュー社)
『はじめてのアロマテラピー』(池田書店)


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