抗がん薬・放射線治療による口腔粘膜炎 事前準備で症状は緩和できる
歯垢をなくしてからがん治療を
「まずは、患者さんに自分の口の中の状態を知ってもらうことからです」
そのために、歯垢を染める染色液を歯に塗ってその染まり方で歯ブラシが行き届いていない部分を知ってもらう。この染色液は、新しい歯垢を赤で、古い歯垢を青で染め出す(図5)。

歯の汚れは口の中の汚れの1つの指標。目に見える形で示すことで、患者さんは「プラークフリー」への意識を高める。虫歯の治療だけでなく、歯科医や歯科衛生士による歯垢・歯石の除去なども行うが、大事なのは本人の日ごろからの取り組みだ。
「まずは、歯磨きです。1日3回磨いている方には『起床時と就寝時を足して5回にしましょう』と言います。1回だという方には『まずは3食後に磨きましょう』と指導します。いきなり高い目標を設定するより、できることからやることが大事です。プラークフリー、つまり歯垢がゼロの状況で治療を開始してもらうことが目標です」
口腔ケア外来に1週間に1度は来てもらって、個々に応じた指導で口の中を清潔にする取り組みをした後、そのまま治療に入ってもらい、さらに口腔ケア指導も続ける。
歯磨きの基本はペングリップ
古賀さんに、具体的な歯磨きのコツを聞いた。「まずは、歯ブラシの握り方からです。鉛筆を持つようなペングリップを取ってください」(図6)
歯ブラシの硬さは『ふつう』か『やわらかい』で、ヘッドは小さめがお勧めという。口腔粘膜炎の症状がなければ歯茎の境い目を意識して、症状が出ていれば歯茎に当てずに歯だけを磨く。歯ブラシを縦に動かす縦磨きが理想だが、難しいため横磨きでもよいという。そして、大切なのが、力の入れ具合。
「100~200gの圧力がよいとされています。力を入れ過ぎると歯の表面を削ってしまいます。力を入れなくても、やさしいタッチで十分に磨けます。そして、小刻みに小さい幅で動かします。」
どれくらいの時間をかければいいのか。「みなさん、時間とかブラッシングの回数を気にしますが、歯の本数にもよりますし、きちっと磨けていれば、1分でも2分でも構いません。逆に、時間をかけたといって磨いた気になってはいけません」
注意はしていても、治療に入ってから粘膜炎が起きたり、あるいは事前の指導が不十分だった場合には、症状がひどくなるケースもある。そのときには、ヘッドがスポンジ状になったブラシを使ったり(図7)、液状のマウスリンスを使ったり、あるいは、次のうがいの項目で紹介する局所麻酔薬で対応することになる。


うがいと保湿も大切
古賀さんは、歯磨きに加え、うがいと保湿の大切さを強調する。「口の中が乾燥していると、細菌が繁殖しやすくなるためです」うがいは細菌を除去する目的、保湿は乾燥を防ぐ目的がある。
うがいは、治療中に症状が重くなったら、睡眠時間を除いて2時間に1回行うことが望ましい。ぬるま湯でよいが、症状の進行
により、*アズノールといううがい薬、さらに重くなったらアズノールに局所麻酔薬を入れて対応するケースもある。
水分補給のための保湿剤は、液体、ジェル、スプレーなど様々なタイプがあり、好みや適性で使い分けるのもよいという。
*アズノール=一般名アズレンスルホン酸ナトリウム水和物
治療時のQOL向上のために
口腔ケアも「個別化」で行われる。古賀さんらは、定期的に粘膜炎の程度を調べ、指導を変えているという。「手を変え、品を変え、歯科医や歯科衛生士と相談しながら、患者さんの意向も考慮して対策を練っていきます」
古賀さんは、ある患者さんの話をした。「50歳代の男性が、上顎がんで放射線と抗がん薬の治療を受けました。口腔ケアを始めたときは、清潔な状態ではありませんでした。患者さんは、一生懸命口腔内ケアを頑張りました。炎症は出ましたが、食事は口からきちんと取れていました。『お陰様で』と笑顔で帰って行かれた姿が印象的でした」
このような患者さんを増やすことが目標だという。「治療前からケアを始めることで、口腔粘膜炎は症状を軽減させることができます。歯科を受診して口の中をきれいにしてから治療に臨みましょう。後でよかったと思えるはずです。プラークフリーは治療時のQOL(生活の質)に大きくかかわる大切な取り組みです」
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