治療が長引く可能性も 血液がん患者の口腔ケアはセルフケアと専門医とのタッグが重要
一番大事な口腔乾燥対策
治療中は口腔が乾燥しやすく、口唇(こうしん)の表面や口角(こうかく)が乾燥して、割れて血が出たり、潰瘍ができたりするので、治療前や治療開始後すぐから予防としてワセリンを塗る。市販のリップクリームは手軽だが、薬用成分が刺激となる可能性があるため、控える。適しているのはワセリンやココアバター。
血液がん治療の特徴として口腔乾燥と粘膜炎が高い頻度で起こりやすい。口唇が割れて炎症があると、痛いうえに会話や食事が苦痛になる。また、口腔内の保湿として、液体とスプレータイプがあるが、グレードや好みに応じて選択する。
液体によるうがいは保湿だけではなく、洗浄にも効果がある。スプレーは携帯性と衛生面で好まれている。使用頻度は1日8回。多く感じるが、起床時と食前食後と就寝前と考えるとわかりやすい。治療の副作用として味覚障害も起きているので、患者によって味の好みに個人差があり、強く感じるミント味を好む人もいるという(図4)。

ブクブクうがいが大切
うがいには、ブクブクうがいとガラガラうがいがあるが、口腔内の汚れを取って保湿するためにはブクブクが非常に大事となる。普段から意識していないと、口に含んで吐き出すという動作になりがちだが、まず少量の保湿液などを口の中にしっかり溜めて、口の中で左右・上下に移動させる。約30秒続けるのが目安。
疼痛コントロール
グレードにかかわらず、口腔内に痛みが出たら歯磨剤(しまざい)の使用を控え、水や生理的食塩水、保湿液で歯磨きを行う。さらに痛みが強くなったときには、歯磨き自体を中止して水、生理的食塩水、保湿液でのブクブクうがいに切り替える。
これ以外に医師から処方された含嗽剤(がんそうざい:アズレンスルホン酸顆粒や塩酸リドカイン入りアズレンスルホン酸顆粒)でうがいする。痛みに応じて、食前の鎮痛薬を服用する。いずれも保湿液のうがいと並行して行う。
少しでも楽に食事ができるようにするのが目標で、1日1回は粘膜炎が出やすい舌の縁、裏、表面、頬(ほお)の内側、上顎のセルフチェックも意識して行うようにしたい(図5)。

治療後に長い戦いになることも
治療後に大切なことは何か。この時期は、粘膜の状態が少しずつ良くなっていくが、粘膜がまだ弱っている場合は、治療中のように清潔と保湿に注意し、歯ブラシは超軟毛を用いる。歯磨剤は刺激が少ないジェルタイプで、フッ素が含まれているものを最初は使用し、徐々に低刺激の歯磨剤に変更していく。
造血幹細胞移植を行ったケースでは退院後に、口腔粘膜に疼痛を伴う慢性GVHDが発症することがある。憎悪因子となる口腔カンジダ症や口腔乾燥症などを併発している場合もある。
症状への対応としては、口腔カンジダ症には抗真菌薬局所投与を行うが、長く使用していると舌にある乳頭を刺激してしまうため、カンジダ症の症状がなくなったらすぐ止めることが必要となる。
口腔乾燥症では唾液の分泌量が少なくなっているため、保湿効果の強いジェルや軟膏をこまめに塗るほか、唾液腺マッサージも有効だ。また、痛みが強く患者自身での口腔内清掃が難しい時期なので、ここに歯科衛生士が介入して保湿しながら粘膜ブラシや超軟毛歯ブラシを使ってケアする。長期戦になるので、患者の意識づけも大切だ。
放射線治療を受けた場合は、晩期性障害が、数カ月以上経って現れることが多い。口腔内では、唾液腺障害やランパントカリエス(う蝕多発症)、味覚障害、顎骨壊死(がっこつえし)などが現れ、永続的なものと考えられているため、歯科受診、セルフケアの習慣化が大切となる。
大切な治療前のケア
大沼さんによると、治療中は十分歯磨きができない時期があるので、治療前から口腔内を清潔にすることが重要なポイントとなる。治療中は乾燥対策に重点を置く。保湿剤には多くの種類があるので、適切なものを選ぶことが大切になる(図6)。

大沼さんは「歯科医師や歯科衛生士に相談してほしい。方法はいろいろあるので、患者さんと協力して、口腔内の痛みの軽減につなげていきたい。1人で抱え込む方も多いですが、精神的にも肉体的にもつらいときにつらいと言えないのはよくありません。チーム医療として他職種の方や、精神科の医師などとも情報共有して協同的支援を行うのが今の医療です。栄養が摂れないと、治療にも支障が出てしまいます。健やかに安心して生活できるよう支援したい」
と患者さんを加えたチーム医療の重要性を話した。
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