「口内炎はがまんしろ」は時代遅れ。がんと闘うためにも必要 家庭でもできる元気印の口腔ケア&セルフケア

監修:志村真理子 NTT東日本関東病院歯科口腔外科 志村デンタルクリニック副院長
取材・文:池内加寿子
発行:2008年4月
更新:2013年8月


家庭でも応用できる口腔ケア

志村さんは、抗がん剤治療を受ける前、治療中、口内炎の発症時、痛みがある場合など、各段階や症状に合わせたセルフケアをすることを勧めています。

最近増えている外来化学療法を受ける場合も、ぜひ実践してみてください。

(1)まず、歯科でチェック
[治療前に口の中をチェック!]

  • 虫歯があるか
  • 歯周病があるか
  • 義歯があって痛いところがないか
  • 義歯は汚れていないか
  • 義歯が割れたり、ひびが入ったりしていないか

・抗がん剤治療中や放射線治療中は、抜歯などの処置ができなくなります。治療が決まったらまず、歯科か口腔外科を受診し、感染源になるう歯(虫歯)、歯槽膿漏などの有無をチェックしてもらいます。あごの内部の骨のレントゲン検査をすることもあります。

・歯石は細菌のかたまりですから、取り除いてもらいましょう。ただし、白血病の患者さんは歯石除去による歯肉からの出血に注意しなければなりません。

・前記のような歯科治療が必要なときは、血液検査データなどで、白血球(好中球)、血小板等の値を確認し、治療スケジュールに合わせて治療を済ませておきます。

・虫歯や歯槽膿漏で感染源になる歯があるときは、抜歯が必要です。

「抜歯にあたって、血小板の数値が低いと出血が懸念されるので、主治医と連携し、血小板輸血などを考慮します。チーム医療を実施している病院では、主治医と歯科医が連携し、血小板輸血直後に抜歯することも可能です。多数の歯を抜く場合は、歯茎の縫合などが必要なこともあります。抗がん剤治療のスケジュールによっては、抜歯後の義歯の製作が治療後になることもあります」

(2)治療前は、歯磨きでセルフケア

・抗がん剤治療前、口内炎が出始める前には、今まで以上に食後の歯磨きやうがいを徹底的に行います。使う道具は普段どおりでよいのですが、歯ブラシの毛先が曲がっていたら新品に換えましょう。舌苔の除去には専用の舌ケアブラシを使います。

「抗がん剤治療中でも、口腔内の免疫力がゼロになるわけではなく、細菌が入ってくると免疫系が働いて闘います。そのときに発痛物質などを放出するので、余計な痛みを出さないためにも、こまめに歯をブラッシングして細菌との小競り合いを極力減らすのがポイントです��

(3)口内炎を発症したら、道具に工夫を

・一般の練り歯磨きには爽快感を出すための発泡剤(ラウリル硫酸ナトリウム塩)が含まれています。刺激性があるので、口内炎を発症するとしみる原因になります。

歯磨きがしみるときは、発泡剤が含まれていないドライマウス用の低刺激なタイプに替えるとよいでしょう。

・通常の歯ブラシで磨くと、歯茎や粘膜が痛い場合は、毛先が軟毛の歯ブラシなどを利用します。「口が開かないときは、毛先の小さなブラシが便利です。ブラシの代わりに綿のついたものは、上あごや頬の内側などを拭くときによいですね」

・口内炎がひどくなってくると、歯磨きができなくなります。頬の粘膜や歯茎などは、ヒアルロン酸配合の口専用ウエットティッシュで拭くとさっぱりします。 これらの道具は、薬局、病院の売店、通販などで購入できます。

[ケア用品]

写真:口腔内専用のウェットティッシュ
口腔内専用のウェットティッシュ
写真:綿つきのモアブラシ、毛先の短いブラシなど
綿つきのモアブラシ、毛先の短いブラシなど


(4)うがい液や痛み止めも一工夫

・イソジンを薄めてうがいをすると口腔内の殺菌効果が期待できます。

・イソジンは粘膜刺激があるので、しみる場合はハチアズレ(一般名アズレンスルホン酸ナトリウム)2グラムを温湯100ミリリットルに溶かしてうがいをします。ハチアズレは、粘膜を保護し、治癒を早める効果があります。

・水でうがいをしてもしみるときは、生理的食塩水(水1リットルに食塩9グラムを溶かす)を利用するとよいでしょう。薬局でも市販されています。

・抗がん剤を投与したときや、口内炎の痛みがあるときは、氷を口に含むクライオセラピー(冷却療法)も有効です。冷やすことで、血管を収縮させて血流をとめ、抗がん剤が末梢血管にいきわたるのを防ぐ効果が期待できます。丸い製氷皿で凍らせてアイスボールにすると、口の中を傷つけず、なめやすくなります。

・アフタ様の小さなスポット的な口内炎なら、ケナログ(一般名トリアムシノロンアセトニド)などのステロイド剤も有効です。ただし、カンジダなどの真菌が発生しているときはかえって悪化させることがあるので、主治医または歯科・口腔外科医の指導の下で使いましょう。

・カンジダなどの真菌には、抗真菌薬のフロリードゲル(一般名ミコナゾール)などが有効です。

「すい臓がんの抗がん剤治療で入院してきたある患者さんは、口内炎が多発していてびらんがひどく、痛くて食事が食べられない、ということでした。最初は水でもしみるので、生理的食塩水を綿球につけて口の中を洗うことからスタート。カンジダもあったので、フロリードゲルを処方し、さらに保湿ジェルで口の中の湿潤を保つようにしてもらうと、口内炎はきれいに治りました。口の中にトラブルが起きると食事量が制限され抗がん剤治療にも影響が出ます。つらい治療の患者さんには心のサポートが大切です」

食が細くなっていく不安、がんにたいする不安。その中で、診察の際の「口の中は問題がありません。大丈夫。安心して食事してください」という志村さんの言葉が毎日の励みになり、外来化学療法の帰りにレストランで食事をすることがご本人の楽しみになっています。

「病気のなかでも食を楽しむことを忘れないでほしいですね。病気と闘うエネルギーにしてもらうため、できる限り歯科医として関わりたいというのが私の信条です」と志村さんは患者さんへの温かいまなざしに満ちたサポートの必要性を熱く語ります。

同じカテゴリーの最新記事