治療前から、お口と歯のケアを始めよう! がん治療に伴う口腔合併症や感染症の予防と軽減
口腔合併症の予防・軽減法は?
日ごろから口と歯の衛生を心がけ、治療前後に適切な口腔ケアを
以上のように、抗がん剤治療や頭頸部領域の放射線治療には、口や歯のトラブルがつきものと言っても過言ではありません。これらのトラブルは口の中や歯の衛生状態が悪い人によく起こります。
口内炎などの口腔合併症を完全に予防する方法はまだありませんが(注=アメリカでは口内炎を減らせる新薬が出ているが、日本で発売される予定はない)、日ごろから口の中を清潔に保ち、抗がん剤や放射線の治療前に虫歯や歯周病の治療をして、治療後も適切なセルフケアをすることで、炎症や痛みなどの症状を軽くすることが経験的にわかっています。治療を受けることが決まったら、以下の方法を実践してください。
●抗がん剤治療、放射線治療前の注意ポイント
・朝晩と食後に歯や舌のブラッシング、うがいなどをして、常に口の中を清潔に保ちましょう。歯磨きを使わずにブラシで磨くだけでも効果的。
・がんの治療2週間前までに、歯科医師の診察を受けて口や歯をチェックし、細菌のかたまりであるプラーク(歯垢)、歯石の除去、虫歯や歯周病(歯肉炎、歯周炎)の治療を行います。
・よく合っていない入れ歯は口の粘膜を傷つけます。入れ歯のチェックと調整もしてもらいましょう。
・抜歯をすると細菌等の感染が起こりやすくなるので、抗がん剤や放射線治療開始の2週間前には終わらせましょう。
・放射線照射後(おおむね50グレイ以上)に抜歯をするとあごの骨が壊死する危険があるので、抜歯が必要な歯は照射前に抜いておきます。
・放射線治療では、唾液腺障害による口腔乾燥で唾液が酸性化し、歯のエナメル質が溶けて虫歯になりやすくなるので、歯科でフッ素塗布をしてもらうか、フッ素入り歯磨きや、フッ素入りの洗口水(うがい用液)を利用して、虫歯予防に努めましょう。
●抗がん剤、放射線治療中のセルフケア
・口の中を常に湿った状態に保ちましょう。うがいをする、氷片をなめる、市販の洗口水「絹水」(サンスター)、や保湿剤「オーラルバランス」(ジェルタイプ、ティーアンドケー)、「ウェットケアプラス」(スプレータイプ、キッセイ薬品)などを併用するのもよいでしょう。
・毎食後、就寝前に柔らかめの歯ブラシで歯、歯茎、舌をブラッシング(歯磨き)してください。痛みがあるときは、ぬるま湯とより柔らかい歯ブラシを使うとよいでしょう。
・強い口内炎があり、粘膜にしみるときは歯磨きを使わずに、水だけで歯磨きしましょう��
白血病などの治療中でも、主治医の許可のもと歯磨きすることが可能です。痛みがあっても、生理食塩水等でのうがいは続けましょう(次ページ、口内炎の項参照)。
・歯ぐきから出血したり、痛みが出るようなら、部分磨き用ブラシで歯だけを磨くとよいでしょう。放射線治療によって口の筋肉がこわばって口が開けにくくなったときは、ヘッドの小さい歯ブラシを使うとよいでしょう。
・口の中がヒリヒリ痛むときの食べものは、飲み込みやすいものを選びましょう。水分が多く、口当たりのよいもの、ゼリー、ピューレ状のものなどを。一口量を少なくし、ゆっくりかみ、飲み物と一緒に少しずつ飲み込んでみてください。
・味覚異常で味を感じにくいときは、香りのよい食事、やや濃い味の食事を試してみましょう。
・口の粘膜を傷つけやすいせんべい、チップス、口腔内に炎症を起こすおそれのある柑橘類、酸味の強いジュースや食べ物、虫歯の原因になる飴や炭酸飲料などの甘い飲み物は避けましょう。爪楊枝の使用、タバコ、アルコール飲料も口腔トラブルの元です。
・抗がん剤や放射線治療中は、感染のおそれがあるので原則として歯科治療を避けましょう。白血球が*2000以下/マイクロリットルのときは、とくに注意が必要です。
・痛みや炎症、発熱などのトラブルがあったら、すぐに主治医に伝えましょう。痛みの程度に合わせた鎮痛剤を処方してもらうことができます(後述)。
*好中球が1000以下
●抗がん剤、放射線治療後のアフターケア
・治療前と同様に、歯ブラシと洗口水によるうがい等で、口と歯の衛生を保ちましょう。
・放射線治療後の唾液腺障害によって口腔乾燥が強いときは虫歯になりやすいので、3カ月に1回程度のペースで、フッ素塗布をしてもらうか、フッ素入り歯磨き、フッ素入り洗口水を常用しましょう。


保湿成分ヒアルロン酸配合、ノンアルコールのうがい液

ヘッドの台が薄く、口が開けにくい方も磨きやすい

フッ素入り歯磨き。放射線治療後の虫歯予防に

ノンアルコールタイプ
毎食後10で20秒口をすすいでからブラッシングを

フッ素配合のうがい液。口内炎がない方の虫歯予防に

治療後の虫歯予防に。口内炎があるときや唾液が出ないときは避けて
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